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<USテックで働くアジアン女子のリアル>住んだこともない祖国文化を引きずってすり減っていた後輩に「オバサン介入」した話

(注:あちこちに書き散らかしてきたものをnoteにまとめる作業をしています。記事内の出来事と投稿とのタイミングがズレているものも多々ありますのでご了承ください。)

これは2022年の年明け頃の話。
スタンフォードの大学院を卒業し、Google翻訳の基盤作りに従事したというシリコンバレーの寵児のような男が鳴り物入りで立ち上げた、某AI翻訳のスタートアップで一緒に仕事していた元同僚とのエピソード。

対外的にはキラキラしていても、中身はオーバーワークが基本だし、世界各地に同僚がいるので仕事が「終わる」という感覚が永遠に訪れない。仕事はいつもある。生産性はめちゃめちゃ高いのだが心が死ぬやつ。そんなオフィスで気にかけていた、ある「デキる後輩」への愛あるお節介話です。


年明け早々、前職からスカウトして今の勤務先に連れてきた元同僚ベトナム人才女から結婚の知らせが届いた。

ものすごく優秀で、皆が羨む難関大学を卒業しているというのに、真面目と謙遜が過ぎて才能を腐らせていることに気づかず、もちろんマネタイズもできておらず、ただただオーバーワークで疲弊していたので「これは大至急インターベンション要」案件、としておばさんが勝手にフラグを立てていたのだ。

彼女の上司は私の上司でもあったから、その無茶振りに何度も凹まされていたのも知ってる。UK在住のロシア語使いで、大局観のない、細かいマイクロマネジメントしかできない感じのマネジャー。この業界の下請け側の人々が虎視眈々と狙っている、あの「クライアント企業側への華麗な転身」がなかなかできず、ロンドンのアパートで悶々としていた。彼女は彼女で、自分のさらに上のディレクターからの無茶振りに苦悩していた。そのディレクターは、CEOの無茶振りに苦悩していたわけだが、結局その皺寄せはボトムに来るってことなのよ。

アジア人がそのステレオタイプで勝手に「無茶振りしても、多少は反発されたとしても最終的にはやってくれるよ、真面目だし上下関係をリスペクトするから」と期待され、もっと勢いよく「NO」の言える天真爛漫な母国文化を持ち合わせた人々の皺寄せを食らうテックの現場で疲弊しているパターンは多い。

アメリカ生まれであっても、親が祖国の文化や感覚で育てる場合は「英語は完璧で母国語もできるし勤勉で集中力もあり、それでいて中身は祖国並みに従順」という、企業にとってこの上なく魅力的なパッケージになりがち。

彼女はその最たるものだった。
「天真爛漫なヤツら」にあらゆる方向から引っ張られ、仕事を乗っけられ、それでも泣きそうな笑顔で「OK!」と答えたり、本心であるはずのない明るい絵文字をくっつけたりしてた。

「オフィスのチャットでは何を監視されてるかわからないから」と警戒する彼女が、勤務時間中にLinkedinのチャットであれこれガス抜き的なメッセージを送ってくるようになってきたのも同じ頃。私がことごとく「他の人の仕事引き受けていい、って思えるほどの給料貰ってるかどうかよく考えてみ」「改善すべきはプロセスなのであって、あんたの生産性じゃあないんだよ」「その半分の仕事量とストレスで倍以上稼げる別リーグがあることを忘れるな」とウザいオバサン節を吟じていたのがボディブロウのように効いていたのか。

私が一足お先にアディオスし、その数ヶ月後に彼女が続いた。

採用通知後、これが初めての正社員待遇で、シングルマザーとして自分を育ててくれた母親を扶養に入れて、初めてプライベートの健康保険に入れてあげることができた、と報告してくれた。受けたかったけど受けられなかった医療に初めてアクセスできるようになったのだと。そんな事情を背負っていたとは全く知らなかったから、余計嬉しかった。

あれからまだ1年も経っていないというのに、ウェディングドレス姿の笑顔が見違えている。あの泣きそうな困った笑顔ではなく、はちきれんばかりの、希望と幸せに溢れた、実に新婦らしい笑顔。旦那さんも性格の良さが滲み出てるような風貌で好感度高し。

ほんの数ヶ月のうちに人生がぐいっと大きく前進したんだなぁ。若者のライフペースってそういうモンだったの忘れてた。でも、本当によかった。オンラインでしか交流がない相手でも、なんだか身内感が半端ないっていうのが不思議だけど。プライベートのメアドも知らない間柄なのに(連絡は全てLinkedinチャットゆえ)。というわけで結婚のお祝いのギフトカードも普通に会社のアドレスに送りつけちゃう。

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