霧星イゼ

[:滑稽]

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■龍族江南氏による中国発のファンタジー長編小説。スマートフォン向けゲーム『コード:ドラゴンブラッド』の原作。 [龍族Ⅰ 炎の曙光] …未訳 第一幕 カッセルの門 第二幕 黄金の瞳 第三幕 シーザー 第四幕 青銅城 第五幕 龍の影 第六幕 星と花 第七幕 弟 第八幕 ノノ 第九幕 龍の墓 第十幕 七つの大罪 エンディング [龍族Ⅱ 悼亡者の瞳] …未訳 序幕 雨落つ狂流の闇 第一幕 誕生日ケーキは青春の墓碑 第二幕 同級生は安くない 第三幕 懸賞 第四幕 炎魔刀舞 第五幕 

    • 『龍族Ⅲ 黒月の刻』中・第十章:正義の味方

       少女は髪を拭きながら歯を磨いていた。口元は歯磨き粉の泡でいっぱいになっていて、寝る前のシャワーのように至って日常的な光景だ。  ロ・メイヒの背後は一面血だらけで、少女にそれが見えない筈もない。この状況で落ち着き払って歯を磨き続けるなんて、どれだけ世界に無関心だというのか。少女はロ・メイヒを冷ややかに見つめながら、歯を磨き続けた。 「君……君、会ったことあるよね……覚えてる?」ロ・メイヒは震えながら両手を上げた。  初めて会ったのは水深七百メートルの海中だった。黒藍色の海水の

      • 『龍族Ⅲ 黒月の刻』下・第十六章:神の死

         黒ずんだ赤い水の中に、点々と銀藍色のかすかな光が輝く。何万匹もの鬼歯龍蛇が、蟒蛇のようなその姿形を血紅色の瀑布の中で明滅させているのだ。色々な音を出してもいるが、何一つとして人の世のものとは思えない。宮本志雄が打ち開いたのは一本の川ではなく、ひとつの地獄だった。  巨大な機械が多摩川地区の夜空を揺り動かしている。鳥の群れが空を旋回しているのは、降りられる枝が無いからである。半径数キロ以内のあらゆる木の枝が、同じ周波数で揺れ続けているのだ。  宮本志雄は真っ赤な水の中に膝ま

        • 『龍族Ⅲ 黒月の刻』中・第九章:神国絵巻

           壁画や塑像というのは日本でも特段珍しいものでは無いが――ここまで壮大なものは他に例が無い。壁だけでも高さはおよそ4メートル、その上から建物の屋根まで直接繋がっており、金塗りの頂部まで合わせれば延べ10メートルを超えている。巨大な壁画には紅錆色と靛藍色の二色が大胆な作画で色彩され、半人半蛇の巨人たちが抱き合い、長い尾を絡み合わせている。男型の巨人は威風獰猛、女型の巨人は端庄慈柔。日本神話に現れる諸々の妖魔が巨人たちを囲み、無数の腕を背から生やした巨人たちは、それぞれに妖魔と戦

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          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第八章:進撃のネズミ隊

           ちょっとした息苦しさを感じるような、空気いっぱいに不安が弥漫しているような場所だ。シーザーは両手にデザートイーグルを構えて前を進み、何か危険なモノが無いか全神経を尖らせ、ソ・シハンは長刀を構えて殿を務め、ロ・メイヒがその二人の間に入り、三人は白い蛍光灯の傍を一本ずつ通り抜けていく。そこはまるで不思議な秘密研究所か、あるいは無限に続く迷宮のようで……最奥に巨大人型兵器か何かでも隠されていそうな場所だった。 「Go! Go! Go! 少年達よ走れ! 我らの美しきゲスト達は、君

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第八章:進撃のネズミ隊

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第七章:桜花と紅蓮

           階段の上から足音が響き、雍容華貴な女性がその目に火の光を爛々と映しながら、一つ一つ段を踏んで降りてくる。古雅名貴な十二単を纏い、白いハイヒールを履き、高い背丈を美しく着飾っている。着物は彼女の全身をキッチリと包み込んでいるが、背中だけが大きく開き、白皙嬌嫩な背を露わにしている。彼女は白木の鞘に収められた刀を持っていたが、殺傷力を持つようには見えず、専らこの服の装飾品のようにも見えた。  源稚生を目にした彼女は一瞬視線を迷わせ、力なく微笑んだ。「戻ってきたのね……」  大火

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第七章:桜花と紅蓮

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第六章:男の花道

           悔いのない恋だとか、彼の記憶の中にそんなものはなく……それらしいものがあるとすれば、あの時、ダイビングスーツを脱いだノノが泳ぎ出した時だ。微笑みながら彼にダイビングスーツを着させていると、その背後に突然龍の黒い影が現れて……。それは、二人が人生の中で最も近い場所に居た瞬間だった。ロ・メイヒは泣き喚いて彼女を抱きしめたいと思った一方、そんな資格は無いとも理解していた。自分はただの姉貴の子分、死の狭間にある彼女に泣いてやれる資格があるとでも? 死の淵で抱きしめてやる資格があると

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第六章:男の花道

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第五章:荊の中の少年

           数十年の時を経て、尊敬を集める領袖へ成長し、あの暗黒の若し過ちなど永遠に葬り去ったと思っていたが、あの男の存在はその記憶を掘り起こす――ヒルベルト・フォン・アンジェ。何年も経った今思い返せば、真の少年時代なるものはアンジェの中に取り残されているのかもしれない……犬山賀には己の奥底にしまいこんでいた記憶が幾つかあって、暴君たるアンジェを倒さなければならぬと感じていたのも、それ故であった。  柳生十兵衛が跳び上がり、空中で機敏に中刀の防御を行う。覇王丸はそれを直立防御し、着地

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第五章:荊の中の少年

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第四章b:サンダルウッドの少女(下)

           シボレーはまだ燃えていたが、暗闇の中に光源が一つしかないというのは、明暗の区別が強烈だという事で、むしろ見えにくくなるものである。人が多すぎるせいでシーザーは刀使いの心拍を見分ける事ができず、すぐそばまで迫っていても容易に気づくことはできなかった。  突然、黒色の凄まじい孤線がロ・メイヒの背後に現れた。刀使いは即座にロ・メイヒの背後まで移動し、長刀をロ・メイヒの後ろ首に向けた。彼の完全な黒色の刀は炎の光を反射せず、全身黒い服も相まって、ロ・メイヒは自身に危険が迫っていること

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第四章b:サンダルウッドの少女(下)

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第四章a:サンダルウッドの少女(上)

           炎に照らされた彼は、金髪を風にバサバサとなびかせる。短銃身ショットガンが次々と撃ちかけられるが、その鉛玉は一発も彼には当たらない。今の彼は運命の騎士だ。呪いも剣もその黄金の鎧を貫くことはできず、この世の誰にもその光輝く足取りを止めることはできない。全ては運命だ。この世界は彼らが読むことのできない本に書かれた物語なのだ。たとえ王子が乗ってくるはずの白馬がダッジ・バイパーに、溢れ出す日光が超新星のような爆発の光に替わっているとしても、それは真の夢であり、運命なのだ。  夜の帳

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第四章a:サンダルウッドの少女(上)

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第三章:ボス

          「また会えたね、僕の愛しいペットちゃん」彼はステンレス管を自分の頬に押し付け、温柔な声で言った。「長い時が過ぎてしまったけど、僕たちは誰一人死なずに済んだ。すばらしい!」  彼の声は孤独で寂莫、まるで千年の時を生きた老人が旧友に出会ったかのようだ。  ス・オンギは水面に木製トレイを浮かべながら、淡い蒼色の温泉の水に浸かっていた。  朝八時。木村浩が浴槽に水を入れてス・オンギを朝風呂に誘い、朝食と入浴を同時に提供した。お粥と大根漬け、焼き鮭が一匹。日本の伝統的朝食だ。沿岸警備

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第三章:ボス

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第二章:破滅のサイクル

          「高天原はそいつの埋葬地さ。でも偉大な龍王は実際には死んでない。眠りに落ちただけだったんだ。一万年後、船倉を新鮮な胎児の血でいっぱいにした砕氷船が天から降ってきて、龍王は胎児の血を吸って復活した。トリエステ号は極淵で世界最大の犠牲祭に立ち会ったけど、何が祀られているのかは見つけられなかった。古龍の胚が生贄になるなんて、祭られているのは一体どれほどの奴なんだろうね……?」  シュナイダーとマンシュタインは互いに顔を見合わせながら、扉の小さな青銅の鐘を鳴らした。 「入りたまえ」

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第二章:破滅のサイクル

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第一章:嵐と潮の夜

          運命というのは、足蹴にされる為に生み出される。 抗う力を持たぬ時は、勇気を携えて時を待つ。 『龍族Ⅲ』とは、そのような物語である。 ――江南   高い崖の上に、これまた高い黒い壁がそびえ立つ。落ち桜が壁を飛び越えて行き、黒い大海へと翻る。  今夜の相模湾は風も波も静かだった。  熱海とは伊豆半島の端にある海岸沿いの小さな街の名前であり、著名な温泉街でもある。江戸幕府の建立者・徳川家康が、大きな戦のあとに熱海を訪れて沐浴していたことでも知られている。  黒い高壁は熱海一番の豪

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』中編・第一章:嵐と潮の夜

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十五章:潜龍昇空の海

           しなやかな影が氷の十文字槍の先から飛び出した。紅白の巫女服を着た少女が、大袖を海水の中に広げている。髪を束ねていたバンドが切れ、長い髪を深紅の海藻のようにゆらゆらとなびかせている。  ロ・メイヒは無意識の内にその名前を呼んだ。  ――ノノ! 『レーニン号残骸の上空に到達。核動力炉の投下準備、中性子密度は安全値の120%、核動力炉は現在から20分後の爆発にセット、爆発力は単純計算でおよそ100万トン』シーザーが大声で言った。 「核動力炉投下、了解」源稚生が言った。「須弥座の

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十五章:潜龍昇空の海

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十四章:王の血祭

           レーニン号から流れ出る龍の血が、この都市を灌漑し、そしてこの都市を揺り動かして目覚める何かを養っている! シーザーチームの真の敵は胚ではなく、遥か昔に朽ちたはずの高天原――神話において神々が住み、昔日の神々が今こそ目覚め来たらんとしている、この場所そのものなのだ。  古龍の血を捧げる祭祀とは一体何なのか? 龍血を啜って生まれるのは――悪魔なのか?  進行度バーが眩いばかりに赤く光ると、画面の左側から右側まで急速に進み、胚の孵化率が一瞬で60%を超えたことを示した。EVAが

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十四章:王の血祭

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十三章:葬神の地

          「街は中央広場を中心として四方に向かって広がっている。東西南北の四方に伸びる大きな道がメインストリートだろう。道路があるということは、この都市が地上に建てられた後で海に沈んだということだ」ソ・シハンが言った。「広大な広場があるのは、そこで龍族が盛大な宗教活動を展開していたことを示す……」 「龍族の宗教ってなに? 神龍教?」ロ・メイヒが素っ頓狂に尋ねた。  下に広がる岩盤には何千里にも渡って大ナタでも振るわれたかのような亀裂が入り、黄金色の血がとめどなく流れ出している。ロ・メ

          『龍族Ⅲ 黒月の刻』上編・第十三章:葬神の地