競合ってホントにそれだけですか?
技術ベースの事業化を考える際、研究サイドのみなさんからよくお聞きするのが「最先端の技術なので競合はありません」というセンテンスです。そこまで明言しなくても「自分の技術は最高峰だから、競合なんてあろうはずがない」という雰囲気を感じることが少なくありません。本当に競合なんてないのでしょうか?
直接的・技術的な競合
一番分かりやすいのは、技術的に競争している研究チームがある場合です。お互いに存在を認識しているし、むしろライバル関係にあるなど、自分たちでも比較ができていることが多いです。
たとえば現在、次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)と呼ばれるDNAの解析装置ですが、市場に投入された当時は様々な技術がありました。現在はほぼillumina社の装置がデファクトスタンダードになっているといっても過言ではありませんが、当時は様々な方式が提案されていました。現在も様々な方式の開発が進んでいます。現在、illumina社が販売しているNGSは、1998年に設立されたSolexa社の技術です。それを2007年にillumina社が買収しました。買収前はillumina社はビーズを使った技術を開発していました。一方で、Helicos、454(後にRoche Diagnosticsが買収)など様々な技術が開発され市場に投入されましたが、現在はいずれも市場にはありません。性能的にはHelicosがSolexaを上回っていたと評価する研究者もいますが、市場で生き残ることはできませんでした。
近年のライフサイエンスの領域では、超解像顕微鏡や1分子検出などがその状況にあるのかもしれません。性能評価はかなり厳密に行った方がよいでしょう。
間接的・ソリューションとしての競合
技術的な競合にばかり目が行きがちですが、少し視野を広げてみましょう。
たとえば、1分子検出では様々な方式が提案されています。顕微鏡をうまく使ったもの、リソグラフィーなどを使ったマイクロウェルを利用するものなどあります。これらはお互いに直接的に競合になるので、わかりやすいですが実際のアプリケーションに目を向けてみるとどうでしょう。
ウィルス検出をする場合、超高感度が生きるが、そもそもそんなに感度がいるか考えてみる必要があります。もしいらないのであれば、すでに既存の技術があり、自社技術と比べて感度が低いとしても課題を解決しており、十分に競合になります。
広げて考えよう
このように技術ベースで考えているとどうしても直接的な競合に目が行きがちですし、他のソリューションは概ね既存技術であって性能が自社より低く見えがちです。そうすると、単なる技術・スペック評価だけになってしまい、ソリューションとしての競合を見失いがちです。どう行った点に気をつければよいでしょうか。概ねまとめると以下のようになります。
1. 「その技術でなんの問題を解決するのか」ということを考える。
2. その問題をすでに解決しているソリューションを列挙する。
3. その問題を解決するために必要な要素、スペックを列挙する。
4.比較する。
比較する場合、「その問題」がなんなのかを明確にしておく必要があります。先ほどの例では「感度」でしたが、「大きさ」「速さ」「コスト」「解像度」「簡便さ」などが考えられます。
比較することと同時に、どのくらいのインパクトがあるのか、という指標も持っておくとよいでしょう。よく言われるのが「10倍」「1/10」という桁での差です。これは圧倒的にな優位性としてわかりやすい指標です。もう一つは、「閾値を超えているか」です。
大きさ…その商品が使われる場面で、大きいと問題になりますか?
ex)持ち歩きと据え置き型では、サイズ感が異なります。カバンに入らないといけないのか、肩掛けで良いのか。
速さ…その速さで、現場で価値提供できますか?
ex)診断技術の場合、その日のうちに結果がでないのであれば、それ以上の長さにはあまり差がありません。
解像度…その現象を見るために、そんなに解像度いりますか?
ex)環境モニタリングにmm単位の解像度は不要です。
簡便さ…どのくらい労力を削減できていますか?
ex)5日かかっていたプロセスが4日になっても、土日が休日なら1週間で1サイクルしか回りません。
コスト…明確に差が出ますか?
ex)法人の場合、購買金額によりプロセスが変わります。また、値引きで対応できるレベルの差であれば他の要素で簡単に覆ります。
よく見ると、提供している価値とのバランスによる、ということも気づくと思います。
たとえば、携帯電話は当初肩掛けで市場に投入されました。移動しながらでも通話できるという価値が大きさ・重さという要素に優ったということです。Walkmanは当時録音がない機器は売れないと言われる中再生機能のみでスタートしました。これも移動しながら音楽が聞けるという価値が録音機能のないというハンデを乗り越えた例です。
競合分析は、技術要素やスペックを比べるだけでなく、ソリューションとしての価値を比較する必要があります。同時に価値提供のレベルが要求レベルに達していない中で比較しても意味がないかもしれませんので、提供する価値がどのくらいか、そのインパクトはどのくらいか、ということも同時に評価することで、より強いプロダクト、サービスになっていきます。