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待ち合わせは、プレゼントと一緒に【夢見る恋愛小説】


ーーー数年前のバレンタインデー。
突然、君がチョコをくれた。
毎年、たくさんのチョコを抱えて家に帰る僕のことを、今までただ笑うだけだったのに。


僕たちは、幼い頃から共に育った。
むしろ産まれる前から。
誕生日が約1ヶ月しか違わないご近所さん。
それはもう母親たちは、僕たちがまだお腹の中にいる頃から予定日が近いことで意気投合。
典型的な ‘家族ぐるみで仲良し’
というお付き合いの環境で育った。

毎年バレンタインに大量のチョコを持ち帰り、
翌月のホワイトデーには母さんが準備してくれた全員分のお返しを持って登校する僕。
毎年それを見て、笑う君。
今までの僕たちは、そんな関係だった。


高校最後のバレンタイン。
いつも通りたくさんのチョコを持ち帰り、
ダイニングテーブルの上に広げて母さんと来月のお返しの為に数を数えたりしていると…

ピンポーン♪

 玄関のベルが鳴った。
母の顔に「追加じゃない?」と書いてあるように見えたので、僕が玄関に向かった。

そこにいたのは、君だった。
「何か夕飯のおすそ分けでも持ってきた?」
と、いつも通りの質問をしてしまってから、僕は気付いた。
あれ、まさかのまさかだけどそんな事言っちゃいけなかったかもしれない。
なんて考えてるうちに「はい…、はい!」と、紙袋を押し付けられた。

「ん?ありがとう…?僕に?」

受け取ったものの困惑している僕を置き去りに、君は帰ってしまった。

ひとまずそのまま自分の部屋へ行き、
中にある箱を取り出した。
ひと目でわかる、売り物じゃない。
ラッピングしたのは、君だ。
箱も開けてみる。
やっぱり…
君に聞かなくてもわかる、売り物じゃない。

え、でもなんで僕に?君がくれるの?
こんなこと初めてでしょ?手作りだし…?

すごい勢いで頭の中に次々と疑問が浮かぶ。
でも一周まわったところで、
普通に結論にたどり着いてしまった。
これだけ揃っていたら、君に言われなくてもわかってしまう。
どうしよう、驚きの波が終わったら、
今度は嬉しさで忙しくなってきたぞ?
でもそれとほぼ同時に、今まで考えた事もなかったことが起きて、それに喜んでいる自分に今度は驚き始めている。
なんだなんだ…?
本当に今日は気持ちが忙しい。
こんなバレンタイン初めてなんだけど!!
と、部屋のクッションに勢いよく顔をうずめたところで、母に呼ばれた。

母は全てお見通しと顔に書いてある…
気がした。
「で、あの子のお返しはどうすればいい?」
と母に聞かれた。
少し考えて、僕は答えた。

「自分で用意するからいい」



それから、
あっという間に数年経ってしまった。

本当に自分でお返しを用意する気だった。
なんなら、嬉しかったということ、
これがきっとなんの感情なのかも真っ直ぐ伝えるつもりだった。
だけど運命がそうさせてくれなかった。
あのバレンタインの後、僕はただの学生ではなくなってしまった。
急きょデビューへ向けて全てがガラッと変わり、気付けば数年経ち、全てあのままだ。

明日バレンタインか…
たまたま休みなんだよね。
仕事場近くの自分の部屋で、
深夜にひとりごと。

え、バレンタインに…休み?!!!

突然やる気スイッチの入った僕は、
慌てて外に走った。
レシピと材料をスマホで調べながら、
買い物を済ませて家に帰ってきた。
さぁ、真夜中のパティシエに変身!

出来上がったものを箱に入れて冷蔵庫へ。
今から少し寝て、午前中の電車に乗る!!


勢いで日帰り帰省を決行しているが、
母には連絡していない。
たぶん、実家に寄る時間はないから。
今日中に戻らないと、明日の朝が早い。
僕は急いで、君の家に向かっている。

もうすぐ君の家というところで、
公園の中から犬に吠えられた。
あれ、この声…?やっぱり!!
君より先に、僕より先に、
君の犬が僕に気付いて走ってきた。
相変わらず可愛いなぁコイツは!
と撫でていると、後から追いついた君の到着。

僕は大事に持ってきた箱を、差し出す。
中身は、手作りのチョコレートケーキだ。

「誕生日おめでとう!!
   それと、ハッピーバレンタイン!」

あまりにいろいろ突然のことに、驚く君。
お祝いごとも家族ぐるみすぎて、個人的にお祝いしたことがなかった。
バレンタインという今日の日は、
君の誕生日でもあるんだ。

とりあえず、ブランコに座って
中身を見てもらうことにした。
君の時と同じで、明らかに手作りである
それを見て、君が驚いている。

ここまで勢いで来てしまった僕は、
そこで初めて気付いた。
「ありがとう…」と言った君の目に涙と、
君の手に指輪が光っていることに。
僕にとって一瞬のようだった数年は、
君にとっては長い数年だったかもしれないということに。

せっかく作ってくれたし、持ち帰るのも大変だからと君は受け取ってくれた。
顔を隠すために被ってきた帽子が、
帰りの電車でものすごく役に立った。
かっこ悪いかもしれないけど、
窓の外を見ながら流れてくる涙を
自分では止められなかった。

本当に僕は、何をしに来たんだろう。
あの日から前に進めていなかったのは、
僕だけだったのか…



それからまた戻った日々は慌ただしく、
デビュー記念日周年イベント等があった。
忙しさが嬉しかった。
僕が数年かけて初恋の大失恋したことなんて
思い出させてくれないくらい忙しかった。

それがひと段落して、一週間の休みをもらえた。
今度こそちゃんと、実家へ帰った。
やっぱり落ち着く…ちゃんと休まる。

ピンポーン♪

あの頃と変わらない実家のベルが鳴る。
母が夕飯の支度中なので、僕が玄関へ。

そこには、1ヶ月ぶりに見る君がいた。
あの時と同じ、聞かなくてもわかるような
売り物ではない箱を差し出して君は言う。


「お誕生日おめでとう!!
    それと、ハッピーホワイトデイ!」


君の目には、光る涙も、
君の手には、光る指輪も、
遠回りした僕たちには、もう迷いもない。




~※~※~※~※~※~

今回のお話のテーマソングはコチラ↓

雰囲気でも十分なんですが、
こちら字幕出ないので日本語訳は検索☆
ちょっともどかしい恋のうたです♪

今回も最後まで読んで下さり、
ありがとうございましたー!感謝です!!

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