デビュタン

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最近の記事

ピカデリーサーカスらへんのおじさん

2019年の前半、ロンドンで暮らし始めてしばらく経っていた頃、 地下鉄ピカデリーサーカス駅から地上に出て、ちょうどエロスの像から見て書店ウォーターストーンに向かって伸びる道の角のところで、いわゆる路上生活者っぽいおじさんを見かけた。 路上生活者と言っても、建物の角に沿って、広さ二畳ほどのスペースに、しっかりとした木の枠組みで、腰の高さくらいの掘建小屋みたいなものを拵えたおじさんである。 ダンボールの上にビニールシートを被せて屋根が設えられていただけに留まらず、木の部材を組

    • 積読の地層

      積読を自分で制御できないと、物理的な地層になってしまう、という話で。 子供の頃から、なぜか本に溢れた住環境で育ったことが主な要因だと信じているのだが、居住空間のうち、本が本棚ではない区画に散らばっていることに対して一切の拒否感がない。 テレビは処分したが、同じ時に処分しそびれたテレビ台の上にどんどん平積みにしていったり、本棚の手前の床にどんどん積んでいっちゃうから、一番下の段に入っている大きい本とかは取り出せなくなったり。 読書に割く時間が、動画のサブスクの視聴に追われて

      • デュラム小麦のセモリナ

        子供のころ、母が買い与えてくれた本の中に「声に出して読みたい日本語」というのがあり、記憶が正しければ、それを読んでじゅげむを覚えた記憶がある。(記憶違いかもしれない) 耳障りがいい言葉があるのと同じくらい、発する時に口触りがいい言葉だってあると思うのだが、かねてから思っているのは「デュラム小麦のセモリナ」である。 昔から、ディ・チェコのスパゲッティを買うたびに、どうしても目に入ってきてしまうが、割といつも、心の中で「あ、いい響き」と思っている。 また直近だと「窓際のトッ

        • 朝食の正解がわからない

          朝食の正解がわからない。 1人で暮らし始めて何年目だよ、という話だが、わからないものはわからない。 決して育った環境での食育が機能していなかったというわけではなく、子供の頃は母やパンかご飯を主食にした朝食を毎日用意してくれていたし、 ある程度大きくなってからは、それに類するものを自分で調理して、通学のためにいつも遅刻ギリギリの電車に走って滑り込む時に逆流しない程度の量を食べる習慣も身につけた。 仕事を始めて通勤する身分になってからは、コンビニやスーパーで手軽に買える食

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          渡れ、レインボーブリッジ

          周囲の人々からどう見えているかは知ったことではないが、基本的に年がら年中、なんとなく不平不満が多くて、内面の空模様は常に薄曇りです!!というのが私である。 それを解消するために一番手っ取り早くて安上がりな対処療法として独自に設定した生活習慣が散歩だ。 気分転換に、ちょっと、どこか遠くに行きたいなぁ。。。などとジメジメしていたある夏の日、 「そうだ、レインボーブリッジを見に行こう」 と思い立って実行したことがある。 東京都内に住んでるのにレインボーブリッジって全然遠く

          渡れ、レインボーブリッジ

          東京タワーの話

          「神はサイコロを振らない」という小説がある。 テレビドラマ化された時は小林聡美を見たいがためにオンタイムで視聴していたのだが、東京タワーが舞台となるシーンがあった。 そのシーンが印象的だったのか、無難に学校生活を送ることが非常に不得手だった高校生の私は、ある日学校をサボって東京タワーにのぼったことがあった。 東京タワーにのぼる、にも色々あるが、なぜかその日の私は電車ではなく家から数時間かけて徒歩で向かい、着いた頃にはもはや階段で展望台まで向かうよう余裕はなかったので、大人

          東京タワーの話

          McFlyとキングスクロス駅のこと

          私がひょんなきっかけから渡英するより遥か昔、ワンダイレクションがこの世に存在するより前に高校生だった私は、UKロックづいている友人からMcFlyというバンドをお薦めされてCDをipodに曲を入れるなどしていた。 その友人とは違い、英語の勉強するモチベーションなんて皆無で、音楽への興味も特になかった私であったが、歌詞など一切わからないまま聴いた輸入盤のCDに収録されていたこの曲がやたらと気に入ってしまい、今でもたまに思い出したように聴くことがある。 それから時は流れて10年

          McFlyとキングスクロス駅のこと

          餃子とPodcastの食べ合わせ

          料理をするのが好きだ。 というか、料理をしながらPodcastを聴くのが好きだ。 自炊ばかりしているのは経済的な理由もあるが、手を動かすこと自体が好きだし、食べることも好きだからである。 とはいえ、料理をするだけでは心が手持ち無沙汰である。 手を動かしながら手元に目線を集中させる必要があるために、読書やテレビは並行して楽しめる娯楽ではないので、必然的に料理のお供は聞き流せるものになる。 私は怠惰な人間なので、自分を高めるために実用的なものを聴いたりはしない。 ふふ

          餃子とPodcastの食べ合わせ

          ロンドンで経験したロックダウンの覚え書き

          昨年、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックに伴い、英国はロンドンで生活していた私はロックダウンを体験することとなった。当時の乱雑なメモをまとめて書き起こしてみた。 2020年 ・1月24日前後中国の春節もあり人で賑わうチャイナタウンからチャングクロスロードを挟み、シャフツベリーアヴェニューとの交差点に面したシェイクシャックのカウンター席にて、友人との会話の中で、世間より一足遅れてcovid-19ウイルスに関する情報を初めて耳にする。 ・2月 記憶にある限りは特に何事も

          ロンドンで経験したロックダウンの覚え書き

          2016年2月

           2016年の2月に、一人でニューヨークを旅行した際に付けていたメモのような日記を見つけ、読み返している。  5年も前のことであっても、その時の情景や、前後の出来事までもが次々と脳裏に蘇ってくるもので、人間の記憶とは不思議なものである。  私は写真のことは記憶の外付けHDDだと常々思ってきたのだが、どうやら同じことが日記にも言えるらしい。  就職した方がいいのかな、と思って就職してはみたものの、働く中で将来への展望を見いだせず、かつ肉体的疲労を伴う長時間労働に完全に心が

          思い出すこと

           私は大叔母のことを、彼女の下の名前で呼んでいた。  子供の私は、彼女が肉親らしいというはボンヤリと把握してはいたが、彼女が実際には祖母の妹だったということは、随分大きくなるまで気づいていなかった。  私がごく幼い頃からすでに私の人生に存在していた大叔母は、記憶にある最初の頃から上の前歯が全然なかった。 幼い頃の私が知っている彼女以外の大人達は前歯が生え揃っていたので、いつも彼女の前歯の不在を不思議に思っていた私は、どうして前歯がないのかと、子供の無神経さでド直球に訊い

          思い出すこと

          迫り来る湿度と共に

          低気圧や雨にHPを削られ続けている皆様、ごきげんよう。 頭痛や眠気に抗えないことを言い訳に自分の作業効率の悪さを肯定することで精神を保っている私ですが、日本で夏を過ごすのは数年ぶりなので、夏が来るより前に自律神経がやられそうです。 じめついているとはいえ、同時に気温も上がってくることで、我が家にも冬場はお目にかからなかったような数種類のクモさんをメインに、小さな羽虫さんたちも含めて、徐々に小さなお友達のご来客が増えてまいりました。 5月の今でさえそうなのだから、夏になっ

          迫り来る湿度と共に

          植物の名前を知らない

          植物の名前を知らない。 もうすぐ30歳になる私はまぁまぁいい大人であるが、道を歩いていて、ご近所の前庭に生えているは「植木」だし、友達とピクニックに整然と立ち並んでいる木々は「木々」であり、花壇の花は「花壇の花」なのだ。 満開の時期に強めに自己主張してくる桜の木だって、咲いていなければそれが桜かどうかも私には判別しかねる。 自分が人より植物の名前に詳しくないらしいというこに気づいた瞬間は、かなり幼い頃に遡る。 小学校低学年のある朝、いつものように幼馴染と並んで二人で通

          植物の名前を知らない

          アカシックレコードとまだ見ぬイタリア。

          学生の頃、そういう時代にはよく訪れる、誘われて行ってみたけど実際何の集まりだかよくわからないまま流れで参加しちゃうタイプのライフイベントのひとつが発生した際、その場で出会った友達の友達の友達くらいの人に、アカシックレコードを読んでもらったことがある。 ちなみにこの文章を書いている今もアカシックレコードが一体なんなのかをよく理解していない私なので改めてググってみたが、結局よくわかんなかったけどそれでも言うなら概ね宇宙的なアレソレに分類される事象らしい。 また、私は別になにも

          アカシックレコードとまだ見ぬイタリア。

          心にギャルを飼う

          前職は接客業だった。 鬱屈とした青春時代を過ごしてしまったタイプの人間なので、気分良く会話をスッススッス交わせるような居心地の良い人間関係に後ろ髪を引かれながら退職した。 接客業も色々だと思うが、私の前職のように、店頭に立つ従業員たるもの、単価の安からぬものを販売するのがミッション的な職場では、客とどういう会話をするかというのが最重要スキルであり、同僚間の人間関係の良し悪しなんていうのは前菜かデザートみたいなもので、間違っても胃もたれをもたらしてくるメインディッシュのよう

          心にギャルを飼う

          見知らぬ人から話しかけられるということ。

          入場制限の続くスーパーで買い物をしていた時のこと。 英国のスーパーたる物、茶の品揃えはなかなかのもので、アールグレイが欲しいだけなのになんでこんなに種類があるの、、、選択肢がありすぎると人間の幸福度は逆に下がる気がする、、、等と膨大に陳列された茶葉のコーナーでグネグネ思案していた。 そんな時、すぐ傍、と言ってもきちんとソーシャルディスタンスを保って2m先にいた、サングラスを掛けた白人のご婦人が「ねぇ、あなた、この中でどれがダイエットにいいお茶か知ってる?」と声をかけてきた。

          見知らぬ人から話しかけられるということ。