見知らぬ人から話しかけられるということ。

入場制限の続くスーパーで買い物をしていた時のこと。
英国のスーパーたる物、茶の品揃えはなかなかのもので、アールグレイが欲しいだけなのになんでこんなに種類があるの、、、選択肢がありすぎると人間の幸福度は逆に下がる気がする、、、等と膨大に陳列された茶葉のコーナーでグネグネ思案していた。


そんな時、すぐ傍、と言ってもきちんとソーシャルディスタンスを保って2m先にいた、サングラスを掛けた白人のご婦人が「ねぇ、あなた、この中でどれがダイエットにいいお茶か知ってる?」と声をかけてきた。


東京で育った私にしてみれば、ロンドンという都市は見知らぬ人から声を掛けられる機会は相対的に多いのだが、それでもこの非常事態に入ってからは無茶苦茶に久しぶりだったので、驚いてしまい咄嗟に返事が出なかった。


と同時に瞬間的に理解したのは、恐らくご婦人は東洋的な痩せるお茶の情報を何かしらで見聞きしたはいいものの、どれのことかわからず、「さっきから店員の姿は全然ないけど、ちょうどいいとこにアジア系の若者が来たからちょっと聞いてみよっかな〜」という状況だったであろうことだ。


こちらも別に急いでいるわけでもなし、「僕も別にお茶に詳しいわけではないんですが...」と勿体ぶった前置きし、期待されているであろう役割を演じるため、知りうる限りの知識を大雑把に披露しつつ、最後は緑茶とかジャスミン茶よりも、この辺に置いてある烏龍茶の方が油を取り除く作用があると思います〜などど締め括ってしまった。


結果なんと、そのご婦人は、実際に私がテキトーにオススメした烏龍茶を3箱もお買い上げされていたので、働いているわけでもない私の功績をスーパー側から評価してもらいたいところである。


という冗談はさて置き、話しかけられ方というのも色々あるものだ。
男性である私は、客として丁寧な対応をされるには"Sir"という呼称で呼ばれるのだが、これはいつまで経っても慣れない。


呼ばれるたびに「いや、自分如きの人間は"Sir"と呼ばれる程のものでは.......」と、なんとなく恐縮してしまう。


以前、比較的気軽に誰でも入れるタイプの店で接客をしていた際に、こちらが若い(ように見える)という特性も手伝って、客の方から気軽に"Mate"と呼ばれて来た経験が圧倒的に多いせいだろうと思う。


感覚的には日本語で「お客様」と呼ばれてしまった以上は、ちゃんと「お客様」しなきゃ、と少し背筋が伸びる思いがするのと同じことな気がする。


なんにせよ、ばか丁寧に"Thank you, sir"と言われるよりは、
カジュアルに"Cheers, mate!"と言われる方が私は気が楽だ。


更に場面が違うと、つまり相手との関係性がどれくらいフォーマルから遠いか、という話だが、いまだに慣れない呼ばれ方として"My friend"とか"Bro"も挙げられる。


頑張って人見知りを隠して生きているタイプとしては内心「いや、いきなりそんな同じ目線で来られても......」と若干引いてしまうのが情けないのだが、それはそれで相手からの誠意なので引いている場合ではない。


ちなみにここまでの呼称の多くは男性から寄せられるもので、女性、特に年配の方から稀に"Dear"とか"Darling"と呼ばれることもあるのだが、これもこれで内心「え....今Darlingって呼ばれた....?」などと毎度毎度照れてしまう。
今のところ身についたのは、どんな呼ばれ方をしてもいちいち動揺せぬ慣れ、ではなく、動揺している自分を無視して「私その文化わかってます」という顔をする能力なのであった。

必ずやコーヒー代にさせていただきます。よしなによしなに。