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【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その1)


黒田明臣さん撮影

短歌は、もともと、歌垣(※)等で詠われた様に、そもそも、耳で聞くものでした。

※:百科事典マイペディア

歌垣【うたがき】
古代の風習で、春秋に多数の男女が飲食を携えて山の高みや市などに集い、歌舞を行ったり、求愛して性を解放したりする行事。
東国の方言で【かがい】といった。
万葉集や常陸(ひたち)国風土記に見え、常陸の筑波山や大和の海柘榴市(つばいち)で行われたものが名高い。
貴族の間で行われるようになると野趣を失い、踏歌(とうか)がこれに代わった。

や‐しゅ【野趣】
〘名〙 (形動) 野山や田舎に漂う自然の趣。自然で素朴な感じ。ひなびた味わい。また、そのさま。

踏歌【とうか】
古代の群集舞踏。
〈あらればしり〉とも。
足で地を踏み、拍子をとって歌う。
中国の風を伝えたもので、宮廷では新年の祝儀として踏歌節会(せちえ)が行われ、正月14日または15日の男踏歌は清涼殿東庭で、16日の女踏歌は紫宸(ししん)殿南庭で行なわれた。
いずれも早くすたれたが、熱田神宮など神事としてこれを伝えているところもある。

最近では、【参考図書】に記載した通り、種々のテキストが普及しているため、目で鑑賞した結果、その作品に、様々な鑑賞・評価論が付いて回っています。

それはそれで、味わう楽しみがあると思うのですが、原点に戻って、耳で味わう機会が、もっとあっても良いのではないかと、そう思います(^^)

俳句も同様ですが、短歌は、韻律を刻む定型の文、言葉をコンパクトにすると、万葉集や古今集も、そうですが、作者を離れて、同じ土俵に上げて比べることが出来るので、面白い点だなと、そう感じます。

また、あるキーワードをベースにして、別なものを集め直したり、並べ直したりすることで、別な顔(一面)を見せてくれます。

更に、コンパクトであるため、並べることで競い合わせる(歌会等)ことも出来たりするので、益々、面白いですよね(^^)

これに対して、詩とか散文は、このようなことを、無理すれば、やれないことはない(実際、色んな詩の賞や文学賞が存在しています。)かもしれないけど、やはり、韻文に比べて、やり難いと思われます。

この様に、コンパクトになり、SNSの発展も手伝って、流通し易くなった定型詩は、様々な人に届けられ、それを解くことで、いろいろな形に読まれることになります。

例えば、ある人が読む短歌(俳句も同様ですが)は、どんな場所(その人の世界観等)に立っているのか、現在いる場所だけを観察していては、たぶん、わからないのではないでしょうか。

知るとわかるには、格段の差があります。

知ることは、単に、情報・知識を頭の中に入れるだけですが、その入れた情報・知識を、真につかむためには、それを分解していって、理屈として、構造として、わかる(分かる/判る/解る)状態にしなければなりません。

そう言えば、グラフィックデザイナーの原研哉さんは、「デザインのデザイン」の中で、

「デザインのデザイン」原研哉(著)

「デザイナーは受け手の脳の中に情報の構築を行なっているのだ」と言っていましたが、短歌を読む場合にも応用できて、その短歌の詩情を誰かに教えようとする立場にたって、

以前、どこにいたのか?

そして、今後、どこに向かおうとしているのか?

その様な変化の過程を、見聞きする(想定や想像する)ことで、その教えを受ける人の脳の中に、理解という建築を行う様に思考してみると、今いるであろう場所(詩情)が、推察できるのではないのかなと、そんな風に感じます。

人の本質が、日々の変化の中にこそ、顕現化するという側面があって、そのためにつかう知識や技能は、自分一人に閉じずに、どんどん人に教えてあげるのが良いと思うんだけど、ね(^^)

と言うことで、あまり難しいことは考えずに、そんな目や耳で鑑賞しても、なんだか味わい深いなって感じた短歌を、これから、毎週10首づつ、合計で百首選んでみたいと思っているので、お手すきの際にでも、選んだ短歌を朗読して頂き、その世界観等を堪能頂ければ幸いです(^^)

【百人一首(近代・現代短歌)】ある世界(その1)

「クラビクラと呼ばるるときを知らぬままふたつの窪みはみづを拒みぬ」
(佐藤せのか『西瓜』第六号より)

「ラス器の無数の傷を輝かすわが亡きのちの二月のひかり」
(松野志保『われらの狩りの掟』より)

「音立てずスープのむときわがうちのみづうみふかくしづみゆくこゑ」
(菅原百合絵『たましひの薄衣』より)

「何度でもめぐる真夏のいちにちよまたカルピスの比率教えて」
(岡本真帆『水上バス浅草行き』より)

「鏡面に揺るる水銀 カデンツァのゆび砕くごと冬はゆくべし」
(金川宏『アステリズム』より)

「罪を知り海を知らないあの場所でかすかに揺れている水たまり」
(島楓果『すべてのものは優しさをもつ』より)

「重力に逆らって翔ぶ鳥の目よ 逆らふ者の美しい目よ」
(片岡絢『カノープス燃ゆ』より)

「水と塩こぼして暮らす毎日に水を買いたり祈りのごとく」
(辻聡之『あしたの孵化』より)

「庭から呼ぶ生きものの声あるような苔盛りあがる美しい冬」
(源陽子『百花蜜のかげりに』より)

「壺とわれ並びて佇てる回廊に西陽入りきてふたつ影伸ぶ」
(睦月都『Dance with the invisibles』より)

【参考図書】
「うたかたの国 ─日本は歌でできている」(Seigow Remix)松岡正剛(著)

「千夜千冊エディション ことば漬」(角川ソフィア文庫)松岡正剛(著)

「桜前線開架宣言」山田航(編著)

「はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル」瀬戸夏子(著)

「短歌タイムカプセル」東直子/佐藤弓生/千葉聡(編著)

「現代万葉集」(日本歌人クラブアンソロジー2020年版)日本歌人クラブ編(編)

「現代短歌の鑑賞101」(ハンドブック・シリーズ)小高賢(編著)

「短歌のガチャポン」穂村弘(著)

「シン・短歌入門」(NHK短歌)笹公人(著)

「生きていくための短歌」(岩波ジュニア新書)南悟(著)

「和歌文学の基礎知識」(角川選書)谷知子(著)

「僕という心理実験~うまくいかないのは、あなたのせいじゃない」妹尾武治(著)

「シンクロニシティ 科学と非科学の間に」ポール・ハルパーン(著)権田敦司(訳)福岡伸一(解説)

「世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論」カルロ・ロヴェッリ(著)冨永星(訳)

「思考が物質に変わる時 科学で解明したフィールド、共鳴、思考の力」ドーソン・チャーチ(著)工藤玄惠(監修)島津公美(訳)

【参考資料(松岡正剛の千夜千冊)】
0259夜 『赤光』 斎藤茂吉
https://1000ya.isis.ne.jp/0259.html

0298夜 『春日井建歌集』 春日井建
https://1000ya.isis.ne.jp/0298.html

0312夜 『サラダ記念日』 俵万智
https://1000ya.isis.ne.jp/0312.html

0343夜 『私というひとり』 篠田桃紅
https://1000ya.isis.ne.jp/0343.html

0351夜 『山羊の歌』 中原中也
https://1000ya.isis.ne.jp/0351.html

0374夜 『百姓の一筆』 田中佳宏
https://1000ya.isis.ne.jp/0374.html

0399夜 『省略の文学』 外山滋比古
https://1000ya.isis.ne.jp/0399.html

0408夜 『日本語を書く部屋』 リービ英雄
https://1000ya.isis.ne.jp/0408.html

0413夜 『寺山修司全歌集』 寺山修司
https://1000ya.isis.ne.jp/0413.html

0437夜 『沖縄は歌の島』 藤田正
https://1000ya.isis.ne.jp/0437.html

0627夜 『短歌一生』 上田三四二
https://1000ya.isis.ne.jp/0627.html

0692夜 『記憶の茂み』 斎藤史
https://1000ya.isis.ne.jp/0692.html

0779夜 『はじめちょろちょろなかぱっぱ』 高柳蕗子
https://1000ya.isis.ne.jp/0779.html

0804夜 『伝統の創造力』 辻井喬
https://1000ya.isis.ne.jp/0804.html

0900夜 『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治
https://1000ya.isis.ne.jp/0900.html

0939夜 『吉井勇歌集』 吉井勇
https://1000ya.isis.ne.jp/0938.html

1022夜 『絹と明察』 三島由紀夫
https://1000ya.isis.ne.jp/1022.html

1048夜 『北原白秋集』 北原白秋
https://1000ya.isis.ne.jp/1048.html

1070夜 『闇の奥』 ジョーゼフ・コンラッド
https://1000ya.isis.ne.jp/1070.html

1148夜 『一握の砂・悲しき玩具』 石川啄木
https://1000ya.isis.ne.jp/1148.html

1247夜 『かみなりさま』 中西悟堂
https://1000ya.isis.ne.jp/1247.html

1270夜 『星餐圖』 塚本邦雄
https://1000ya.isis.ne.jp/1270.html

1409夜 『〈弱さ〉のちから』 鷲田清一
https://1000ya.isis.ne.jp/1409.html

1414夜 『東日本大震災』 伊坂幸太郎・斎藤純・佐藤賢一・高橋克彦ほか
https://1000ya.isis.ne.jp/1414.html

1466夜 『美しく愛しき日本』 岡野弘彦
https://1000ya.isis.ne.jp/1466.html

1500夜 『柿本人麻呂』 橋本達雄 編
https://1000ya.isis.ne.jp/1500.html

1526夜 『かさねの作法』 藤原成一
https://1000ya.isis.ne.jp/1526.html

1527夜 『本から引き出された本』 マイケル・ディルダ
https://1000ya.isis.ne.jp/1527.html

1599夜 『枕詞論』 近藤信義
https://1000ya.isis.ne.jp/1599.html

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<俳句>
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