【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その2)
自分の「好き」を大切にする。
クラシックの変奏曲というのは、最初に原型となるメロディー(これを「主題」という)が提示されて、そのあとに、そのメロディーを改変したものがいくつもつづく。
短いもので数個、多い曲では、30個近くつづくこともある。
改変のしかたはさまざまで、少し聴けば、最初の原型のメロディー(主題)をすぐに思い起こせるものから、よほど聴き慣れていないと主題を改変したものであることに気がつかないような複雑でひねったものもある。
なお、ここでメロディーを改変することを、変奏するという。
変奏曲を聴くというのは、つまり、その後ろのほうにいろいろ出てくるいろんなメロディーを聴きつつ、そこから、最初に提示された「主題」を探り出すことなのだ。
「変奏」という技法は、タイトルに「変奏曲」とついた曲だけではなく、ピアノソナタや弦楽四重奏曲、さらに、協奏曲や交響曲といった大曲でも、その曲を成り立たせる基本として使われている。
クラシックだけではない。
ジャズの曲も、基本的には、この変奏という仕組みで成り立っている。
最初に出てきた「主題」を、そのあと、サックスやトランペットやピアノやベースやドラムスなどが変奏しながら展開していくのが、ジャズの基本的な組み立てである。
今、聴いているメロディーから、最初の「主題」を聴き取れなければ、変奏曲は、ただのぐちゃぐちゃにしか聴こえない。
クラシックでもジャズでもそうだ。
実際、慣れないと、名曲とされている変奏曲でも、ただなんとなくメロディーが流れていって派手になったり、落ち着いたりして、なんとなく盛り上がって終わってしまうようにしか聴こえない。
しかし、変奏曲を聴き慣れてくると、途中の改変されたメロディーを聴いて、「最初のメロディー(主題)をこんなふうに変えて演奏してるのか!」というのがわかって、その曲を聴くことが楽しくなってしまう。
「主題」の美しさ、その「主題」を、ぜんぜん違ったメロディーに変奏していく鮮やかさ、変奏されてできたメロディーの美しさのどれもが心に残る。
そして、「主題」そのものも、その「主題」から「変奏」されてできたメロディーも頭から離れないほど好きでたまらなくなってしまう。
例えば、ブラームスの
「ハイドンの主題による変奏曲」
や、
交響曲第4番(最終楽章がシャコンヌという形式の長大な変奏曲)
が好きな方は、最初は、わけのわからなかった変奏曲が聴きこんでいるうちに、どんどん「主題」と「変奏」の関係がわかってくるという体験をしたからだと推察される。
これは、たぶん萌えやすいということと、ブラームスが好きだということとは、実は、密接に関係しているのかも知れない。
もひとつ言うと、ブラームスは、「女性のために献身的になるくせに、好きな女性に告白できない」という経験を、生涯に何度も繰り返したと言われている。
そんな男性は、世界中に、いくらでもいたのである。
例えば、「萌え」るひとは、「幼く、若く、みずみずしく・・・」という、キャラクターの「主題」を心のなかに持っているのではないだろうか。
そして、自分の接したキャラクターが、その「主題」の「変奏」であると感じると、その「主題」がどう「変奏」されているかを、無意識に解き明かし、「主題」にも、「変奏」にも、ますます愛着を感じて、頭から離れなくなってしまう。
この「変奏」では、ほんらい「弱々しい」とあるところが、「やたらと健康そうな」になっているけど、これは「弱々しい」を変奏した結果に違いない。
また、本来「一途な」はずのところが、何かみょうにいじけているけれど、それも変奏した結果に違いない。
それが、もしかしたら、「萌え」なのではないかと感じる。
しかも、その感覚が、身体を触れたときの感覚つきで思い起こされてしまう。
それも、努力してそうするのではなく、キャラに触れたとたんに、そういう心の動きが勝手に起こってしまう。
それこそが、「萌え」なんじゃないかと思う。
この変奏を楽しむという感覚は、ヨーロッパのクラシック音楽に限られたものではないと考えられるのではないか。
何かの「原型」があり、その「原型」が、色々とかたちを変えて出現するのを探りあて、その「原型」との違いを楽しむというのは、ヨーロッパのクラシック音楽に限らず、さまざまな地域の、さまざまな文化に顔を出していると推定できる。
例えば、中国の漢詩だってそうだ。
最初に、漢字5文字や7文字で原型を作り、その調子と内容を少しずつ変容させて、つないでいくのが漢詩の基本的な構造である。
そして、日本の連歌(何人かで五七五→七七→五七五→七七→五七五と歌を連続させて作っていく遊び。その最初の部分=発句の「五七五」だけが独立して俳句になった。)においても、前のイメージを残しつつ、どれだけ斬新に新しい展開をつづけられるかをやってみる歌の形式である。
つまり、「原型」を探りあてようとしながら、同時に、いま聴いたり読んだりしているものが、「原型」からどうずれているかを探りあて、その「原型」と、今、聴いたり、読んだりしているものとの両方を愉しむという楽しみかたは、ヨーロッパのクラシック音楽やジャズの枠を超えた普遍性を持っていると考えられる。
<参考事例>
1.外国語に訳すのが困難!美しい言葉とその意味5つ
・もったいない
・わびさび
・切ない
・一人称
・初心
2.日本文化を学ぶのに欠かせない言葉の持つ力
・わざわざ⇔せっかく
・擬態語のキラキラ
・(例)そのほかにも雨の呼び方は400語超え
そういう心性の上に、実は、「萌え」が成り立っていて、俳句の詩情との共通点もあるのではないかというのが、私の勝手な仮説である( `ー´)ノ
最後に、短歌に較べて、決まり事だらけのように見える俳句の方が、自由に見えるのが面白いなと思えるのは、その昔、詩人ポール・ヴァレリーは、
「ヴァレリー詩集」(岩波文庫)ポール・ヴァレリー(著)鈴木信太郎(訳)
「制約は精神の自由を生む」
「精神の危機 他15篇」(岩波文庫)ポール・ヴァレリー(著)恒川邦夫(訳)
と喝破していたが、例えば、小津夜景さんの「花と夜盗」には、
「花と夜盗」小津夜景(著)
Paul-Louis Couchoud他によるフランス語の最古の句集「Au Fil de l'Eau」
の俳句による翻訳である「ACUA ALLEGORIA」(原題は「水の流れのまにまに」)や、
Dans un monde de rêve, 夢の世を
Sur un bateau de passage, 渡る舟にて
Rencontre d’un instant. ちよつと逢ふ
原采蘋(江戸後期の女性漢詩人の代表的人物。男装、帯刀の女流詩人として知られる。)の「十三夜」の短歌による翻案である「研ぎし日のまま」等が掲載されており、
「蒼茫煙望難分」
「ぬばたまの霧蒼ざむる夜となり迷子のわけをほの語らひぬ」
「増訂 原采蘋伝 -日本唯一の閨秀詩人-」(江戸風雅別集)春山育次郎(著)徳田武(増訂)
これ程までに、形式の間を自由自在に移動できるのだと感心させられ、そういうことなのかもしれないなと感じるからである。
【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その2)
「The friendly snowman
Enjoying the sun`s heat
Feeling the mistake
Susanne Hyun, Grade 6, Canada」
「人のいい雪ダルマが
気分よく日向ぼっこをしている
しまったと思いながら。」
(佐藤和夫(著)『海を越えたハイク』(スーザン・ハイアン(六年生、カナダ))より)
「あおあおと銀河にもある津波痕」
(高岡修『水の蝶』より)
「あばら組む幽かなひびき 羊歯地帯」
(三橋鷹女『羊歯地獄』より)
「うごけば、寒い」
(橋本夢道『橋本夢道全句集』より)
「うすければはしかけておりひるのつき」
(辻征夫『貨物船句集』より)
「うつしみの/くらき底ひに/湧く/いづみ」
(武藤雅治『花蔭論』より)
「おれが死んでも桜がこんなに咲くんだな」
(漆畑利男『おれが死んでも』より)
「かな女忌や石の平らに水を盛り」
(山本紫黄『早寝島』より)
「くちびるを花びらとする溺死かな」
(曽根毅『花修』より)
「ささくれだつ消しゴムの夜で死にゆく鳥」
(赤尾兜子『虚像』より)
【雑記】
外国語で作るハイク(HAIKU)は、俳句の五・七・五を、五音節・七音節・五音節として、それぞれのかたまりの詩句とみなした三行書き、十七音節(シラブル)の詩を、ハイクというそうです。
明治時代に俳句は、イギリス人のバジル・ホール・チェンバレン、ラフカディオ・ハーン(日本名は小泉八雲)、フランス人のポール・ルイ・クーシュー等の日本に来ていた学者たちによって自国に伝えられました。
小泉八雲(ハーン)の俳句の翻訳は、アメリカの詩人に影響を与え、「ハイク」として普及していったそうです。
第二次大戦後に、
日本文学研究者ドナルド・キーン、
「正岡子規」(新潮文庫)ドナルド・キーン(著)
禅の鈴木大拙も、
「禅と日本文化 新訳完全版」(角川ソフィア文庫)鈴木大拙(著)碧海寿広(訳)
俳句の普及に貢献してくれましたね。
1960年代から、小学校児童に、英語でハイクを書かせる運動がアメリカで起こり、これが、世界各国に、再び、ハイクを波及させる契機となったそうです。
アメリカの小学校の教科書に出ているハイクの規則は、次の通りです。
「日本のハイクには次のような特徴があるのをおぼえましょう。 (『言語とその使い方』スコット・フォーズマン社)
1.ハイクには韻(ライム)はありません。
2.それぞれの詩はイメージあるいは印象をあらわします。
3.題材は自然で、しばしば季節的なものです。
4.それぞれの詩は三行です。
5.各行は五・七・五音節です。
あなたは日本風なハイクがかけますか。」
私達日本人でも、五・七・五と指折り数えながら、苦吟をするのですが、アメリカやイギリスの小学生たちが、同じように音節(シラブル)を数えながら、ハイクをつくっているのを想像するのは、なんだか何とも可愛らしい光景ですね(^^)
季語とは言わなくても、例えば、「かたつむり」、「雪だるま」とか「日向ぼっこ」等、自然を詠む(季節的)という特徴が作品に籠められていて気持ちが良いなって、そう感じられます。
【参考記事】
「俳句では、なにかをいわないスリルを残しておくことが賞讃される。」小泉八雲(『霊の日本』)
「日本のエピグラム(俳句のこと)は一瞬のあいだ開かれた小窓である。」バジル・ホール・チェンバレン(『芭蕉と日本の詩的エピグラム』)
「俳諧のエッセンスは簡潔な驚きである。」ポール・ルイ・クーシュー(『レ・ハイカイーーに本の抒情的エピグラム』)
「俳句は、われわれがいつも知っているのに、しっているとはしらなかったことを知らせてくれる。」R・H・ブライス(『俳句』)
「俳句=無心に書き下ろされた客観的イメージ。」アレン・ギンズバーグ(『日記ーー1950年代初期から60年代初期』)
日・EU英語俳句コンテスト結果発表(優秀作品の紹介)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/shuno19/haiku_02.html
<最優秀賞>
Unfolding a map
the cherry petals connect
Europe and Japan
Eduard Tara (Romania)
(仮訳)
地図を広げると
幾片(いくひら)の桜が結ぶ
欧州と日本
エドワルド・タラ(ルーマニア)
<最優秀賞>
Snowmen
Shoulder to shoulder
Warm each other
野﨑晴(ノザキ ハル)さん
福岡県 福岡工業大学附属城東高等学校 1年生
<優秀賞>
reading a book
feeling the wind
long night of autumn
松居ほなみ(マツイ ホナミ)さん
滋賀県 米原高等学校 2年生
Frozen air
White breath
Take my hand
濱田悠歌(ハマダ ユウカ)さん
神奈川県 青山学院横浜英和高等学校 1年生
【参考図書】
「Writing Haiku A Beginner's Guide to Composing Japanese Poetry - Includes Tanka, Renga, Haiga, Senryu and Haibun」(English Edition)Bruce Ross(著)
「松尾芭蕉を旅する 英語で読む名句の世界」ピーター・J・マクミラン(著)
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