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【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その7)


保井崇志さん撮影(PCのある生活)

「優しい心は庭であり、優しい思いは根であり、優しい言葉は花であり、優しい行いは果実である。」-ジョン・ラスキン-

「ラスキン」ジョージ・P.ランドウ(著)横山千晶(訳)

見る。

考える。

想像する。

そして、優しさとは、想像力です。

本書は、自分の目を鍛えろ(ただ見よ)、その上で、思考する力(そして想像せよ、われわれの行き着く先を。)を養え!、という、今こそ、持つべ力の必要性に気づかせてくれます。

何気ない日常の出来事は、徴候です。

だから、森を見る前に、まず、木を見よ、と、眼差しの哲学者であるラスキンは、強調します。

身の回りで起こる全てには、意味があり、時代の大きな流れの支流の、また、支流となっているのだから、あらゆるものの観察を通して、ラスキンは、本流に至る全てを、私たちに教えようとしてくれています。

その過程で、身体的な経験と言語表現は、対立するものではないことも、気づかせてくれます。

ラスキンは、言葉をまるで、目と絵筆のように使いこなして、読者の想像力を、かきたててくれます(^^)

ラスキンを読むという行為。

そして、理解しようとする行為。

それらは、物の新しい見方、事象の新しい経験法を、身につけることである事と、同義に感じられます。

そして、ラスキンは、観察したものを、繋ぎ合わせよ、とも教えてくれます。

観測された対象に、優劣が付けられることはないと、喝破します。

例えば、芸術、政治・経済も、私達の消費という日々の営みも、そして、ラスキン本人の人生も、すべて、同列に置かれています。

木を見た後は、森に入り、森を作れ、というわけですね。

耳が痛い(^^;

これは、また、19世紀から幅を利かせ始めた「専門化」への反論でもあります。

見たこと、そこから思考したことを、繋ぎ合わせて、より大きな絵画を作るのが大切なのだと、そう教えてくれます。

そう、繋ぎ合わせる際に糊となるのが、正に想像力です。

現代の多品種少量生産の時代に、自分が所有しようとするものが、誰によって、どんな環境で作られているのか、などと誰が想像できただろうか。

しかし、消費者民主主義全盛の21世紀において、ラスキンのこの考えは広がりつつある様です。

そして、自分の行為が与えるインパクトを、各自が考えることで、個人の行為が、より大きな運動となっていく筈です。

つまり、見ること、想像することは、やがて行動することに繋がって、森にさらに木を植えよと、ラスキンが説く、この手法と精神は、ジョージ・P. ランドウが取り組んでいたハイパーテキストの手法にほかなりません。

「ハイパーテクスト 活字とコンピュータが出会うとき」ジョージ・P. ランドウ(著)若島正/河田学/板倉厳一郎(訳)

この視点は、現在でも、十分、通用する手法であり、複雑な情報を巧みに繋ぎ合わせるのみならず、読者が、自主的に動き、自らの知のネットワークを広げていくことを誘引してくれます。



確かに、やってみなければ分からないのだから、頭の中で考えてばかりいないで、まずは、自分でやってみなさいと、そう言われることがありせんでしたか。

私自身、やってみようと思ったことは、ずいぶんと挑戦して、さまざまな体験をしてきましたが、心のどこかでは、その真逆の考えも、同時に、

「やってみたところでどれほどのことを自分は知りうるのだろうか」

という疑問を感じたりもしましたが、荒野も海も天国も、全て同じように、人それぞれ、自分にとっての真実でしかないのかなと思ったりします。

でもそうやって、人間という動物は、情報や経験の断片を組み合わせて、イメージの世界を作り上げている。

それが想像力で、人間を人間たらしめているもののひとつであり、その力は偉大ではあるが、実際に行動することが、全てではないことを、この詩を読むことで思い出させてくれます。

*****

I never saw a moor
By Emily Dickinson

I never saw a moor,
I never saw the sea;
Yet now I know how the heather looks,
And what a wave must be.

I never spoke with God,
Nor visited in Heaven;
Yet certain am I of the spot
As if the chart were given.

*****

荒野を見たことはない
エミリー・ディキンソン

ヒースの荒野を見たことも
海を見たこともないけれど
でも ヒースがどんなものか
波がどんなものか知っている

神様と話したことも
天国に行ったこともないけれど
その場所は分かってる
地図を渡されたみたいに

「ディキンソン詩集(対訳)アメリカ詩人選 3」(岩波文庫)エミリー ディキンソン(著)亀井俊介(編)

*****



私達一人ひとりは、世界の大きさから見れば、取るに足らない存在かもしれません。

そうであっても、これまでの道程で、多くの人に出会い、経験を重ね、揉まれて、今の姿があるのも事実ですよね。

つまり、自分という存在には、出会った世界の全てが刻まれているとも言えます。

季節ごとに出会う野の花は、名前を、私達が知らなくても、その土地の気候や土壌に適応して、精一杯の花を咲かせます。

そこには、その土地の記憶が、息づいています。

目に見えているのは花ですが、そこに至るまでの過去を栄養として咲く花。

一輪の花にも、その花独自の魅力があることを感じることはできます。

それを思うと、一輪の花の先に、それぞれに異なる、あらゆる花の姿が見えてきませんか?

それは、何者にも代えがたい能力(想像力)のようなものと言えます。

ラスキンの言葉、

「ただ見よ、そして想像せよ、われわれの行き着く先を」

のように、どのような小さな存在にも、刻まれた歴史と、そこに宿る魅力を認めること。

どの野の花も、同じに見えているようでは、詩人への道は、険しそうですが(^^;

逆に、見えているもの以上のことに、想像力を働かせること、思いを馳せることができれば、宇宙も、無限も、手にすることができるやもしれないから、ね(^^)

*****

Auguries of Innocence
By William Blake

To see a World in a Grain of Sand
And a Heaven in a Wild Flower,
Hold Infinity in the palm of your hand
And Eternity in an hour.

*****

無垢のゆくえ
ウィリアム・ブレイク

砂粒ひとつに 世界を見て
野の花ひとつに 天国を見る
そのために 君はその手に 無限の宇宙をつかみ
ほんのひとときに 永遠の時をつかむんだ

「ブレイク詩集 対訳 イギリス詩人選 4」(岩波文庫)ウィリアム ブレイク(著)松島正一(編)

*****

そう信じられる、こんな詩を読んで、気持ちを新たにしてみたり(^^)

素人ながら思うのは、詩(俳句や短歌も含む)を書くことも、絵も、音楽の表現も、伸びた枝葉は違っていても、根っこはひとつであることに気づけるかどうか。

そうであれば、案外、みんなやらないだけで、誰でも、できるんじゃないかって、何に?

詩は、みんなのもの。

であれば、誰もが詩人?

自分の中の「詩人」が目覚める?

(かもしれないから)

世界の一部でも、思い切り吸い込むような気持ちで、読んでいます(^^♪

【百人一句(俳句)】そこにクローズアップ(面白味を見ようと)してみると(その7)

「人閒を乗り繼いでゆく神の旅」
(堀田季何『人類の午後』より)

「水枕ガバリと寒い海がある」
(西東三鬼『西東三鬼全句集』より)

「水涕や鼻の先だけ暮れ残る」
(芥川龍之介『澄江堂句集 印譜附』より)

「生涯の影ある秋の天地かな」
(長谷川かな女『長谷川かな女全集』より)

「精神はぽつぺんは言うぞぽつぺん」
(阿部完市『地動説』より)

「青いそうして空」
(青木此君楼『句集此君楼』より)

「切株はじいんじいんと ひびくなり」
(富澤赤黄男『蛇の笛』より)

「切通し抜け紺碧の揚羽となる」
(橋本輝久『殘心』より)

「雪はげし書き遺すこと何ぞ多き」
(橋本多佳子『命終』より)

「窓開けて虫の世界に顔を出し」
(深見けん二『深見けん二俳句集成(余光)』より)

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