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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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#ゲーム

【エッセイ】扉の向こう

【エッセイ】扉の向こう

エレベーターの前に立って、ふと思う。

これからマンションの一階まで下り、チャリを駅まで駆って高速バスで羽田に向かい、飛行機に飛び乗ってタラップを降りたら、そこは雄大なグリーンランドかもしれない。

それってすごく素敵なことだ。

仕事と生活に追われる日々の中ではふと、自分が籠の中の鳥になったように思える瞬間があるが、決してそんなことはない。実際のところ、目の前のエレベーターからグリーンランドまで

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【エッセイ】エレベーター

【エッセイ】エレベーター

人目を忍んで死体でも運んでいるような、後ろめたい気分になっている。そのわけはと問われたら。

マスクをしていないからだ。

なんでかというと、マンションの七階にある我が家から二階のゴミ捨て場までゴミを出しに行くだけだからで、しかも今はもう真夜中近いので、ふつうはゴミを持って玄関を出て、エレベーターに乗り、二階で降りてゴミを捨て、再びエレベーターに乗って自宅に戻るまで、誰にも会わない。

そのはずだ

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【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

【エッセイ】続・弁当屋にいた頃

前回に続いて、弁当屋にいた頃の話を。

当時は一軒家を買い上げた社員寮に、男四人で暮らしていた。その家は背高な雑草に囲まれ、玄関からは異臭が漂い、全体的に壁がこう、くすんだオレンジ色をしていた。元はもっと違う色だったと思われるが、経年劣化や汚れによって、なんとも微妙な色に染め上がっていた。

環境への適応力には自信がある私だが、この家に関しては一目見た瞬間、あ、こりゃ知り合いを呼べないわ、と即断し

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【エッセイ】メガネ店と坊主の関係

【エッセイ】メガネ店と坊主の関係

ふと思った。

メガネ店のスタッフにはスキンヘッドが多くないか。しかも丸刈りよりツルツル。剃髪している。

ひょっとしたら私がたまたま、何らかの事情で坊主にしている/なっているメガネ店のスタッフにばかり遭遇してきた可能性もあるが、個人的な経験上、特に国内老舗ブランドのメガネ店ではかなりの確率で、坊主の男性スタッフを常駐させている。

その理由はきっと、彼らが自社商品のディスプレイを兼ねているからだ

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【エッセイ】翻訳の戦友

【エッセイ】翻訳の戦友

ゲームなんかの翻訳を始めて15年くらいになるが、基本的に家にこもってやる孤独な仕事なので、家人以外の人と会う、ということがほとんどない。

加えて内弁慶が出不精になったようなお家大好きな性格なので、自分から意識的に外へ出ることを義務付けない限り、本当に外へ出ない。

そしてコロナ禍により、そうした性行に拍車がかかった。コロナ以前は気の進まない飲み会に誘われるたびに断る口実を考えていたものだが、今は

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