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【エッセイ】翻訳の戦友

ゲームなんかの翻訳を始めて15年くらいになるが、基本的に家にこもってやる孤独な仕事なので、家人以外の人と会う、ということがほとんどない。

加えて内弁慶が出不精になったようなお家大好きな性格なので、自分から意識的に外へ出ることを義務付けない限り、本当に外へ出ない。

そしてコロナ禍により、そうした性行に拍車がかかった。コロナ以前は気の進まない飲み会に誘われるたびに断る口実を考えていたものだが、今は「コロナ」という無敵の切り札で、あらゆる会合を負い目なく断れる。自分にとっては数少ない、コロナがもたらした恩恵のひとつだ。

そんな社交性が終わっている自分にも、たまにどうしても会ってみたい人物が現れる。ゲーム翻訳者のN氏もそんな人だった。

もともとN氏を知ったのは約8年前、ツイッター上でのことだ。確かN氏がゲーム翻訳のことをつぶやいていたのを見つけたのだが、それ以上に独自の文法を用いたつぶやきが強烈で、あ、これは面白い人だ、と本能的に直感したのを覚えている。こうした直感はよく当たる。

そんなこんなで出不精に鞭うって大阪へ出向き、初めてリアルで対面したN氏は果たせるかな、めちゃくちゃ面白かった。この酒席にはやはりゲーム翻訳者のF氏も同席していて、三人の道が互いの知らぬうちに交錯していたことを知り、NDAの重圧に怯えつつも仕事の裏話で大いに盛り上がった。

なんとN氏とは同じホテルの同じフロアに泊まっていて、実は会合へ向かう際、私はホテルのエレベーターの前でN氏を見かけていた。もちろん実際に会う前なので面識はないのだが、その人物はいかにもN氏のようなオーラを醸していて、形容しがたい気まずさを覚えた私は、次のエレベーターに乗って会場へ向かった。

現地に着くと、それは案の定N氏だった。

そのN氏は数年前に翻訳会社を立ち上げるなどして忙しそうで、最近はなんだか縁遠くなってしまったけど、彼がいなかったら今の自分のゲーム翻訳人生がなかったのは確かだ。

あの会合で、色んなことが大きく動いた。

恩人とはちょっと違うけど、自分が死の床に入った時には声をかけて「さんきゅ」と言いたい一人だ。

ちなみにそういう人は、内弁慶が出不精になった社交性が終わっている自分にも20人くらいはいる。

ちゃんと数えたわけじゃないけど。

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