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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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2021年7月の記事一覧

【エッセイ】スキットル

【エッセイ】スキットル

そういやさ、おまえ持っていたよな、スキットルを。

そいつを西部劇のクリント・イーストウッドみたいにジーンズの尻ポケットに突っ込んで、ふと喉が乾くと、真っ昼間からそいつの金属製の口を慣れた手つきで回し開け、中に入っているウイスキーを美味そうに一口、二口煽ってから、ぷはあ、と息を漏らし、最後に必ずこう言ってたよな。

「俺ってさ、これがないと生きてけないんだよね」と。

ところがだ。久しぶりに会った

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【エッセイ】脳細胞

【エッセイ】脳細胞

このごろ物忘れがひどい。

三秒前まで覚えていたタスクを思い出せず、意識の中に手を突っ込んでかき混ぜてみても、「ハズレ」と書かれた紙切ればかり掴んでしまって結局何も思い出せない。モヤモヤだけが残る。

それでふと、脳裏をよぎった。

子どもの頃、近所の友だちとよく「脳細胞の殺し合い」をやっていたことを。

この遊びって全国区なのだろうか。

そこはよくわからないが、とにかくこれは二人で対戦するゲー

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【エッセイ】扉の向こう

【エッセイ】扉の向こう

エレベーターの前に立って、ふと思う。

これからマンションの一階まで下り、チャリを駅まで駆って高速バスで羽田に向かい、飛行機に飛び乗ってタラップを降りたら、そこは雄大なグリーンランドかもしれない。

それってすごく素敵なことだ。

仕事と生活に追われる日々の中ではふと、自分が籠の中の鳥になったように思える瞬間があるが、決してそんなことはない。実際のところ、目の前のエレベーターからグリーンランドまで

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【エッセイ】風になりたい

【エッセイ】風になりたい

風になりたい。

そういうお前(おれ)は手足に車輪をつけ、四つん這いになって崖から飛び立て。そしたらすぐさま風になれるし、ついでに塵にもなれるだろう。

どういう導入部なのかさっぱりわからないと思うが、今からするのは自転車の話だ。

かれこれ四十年以上自転車に乗っていて、いまだに不思議だなあと思うのは、ぼくの心と対向チャリの乗り手の心がシンクロし、互いが譲り合おうとするがばかりに正面衝突してしまう

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