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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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2021年1月の記事一覧

【エッセイ】睡眠力

家人を見ていて感心させられるのは、その睡眠力である。

周りが明るかろうが、うるさかろうが、まったく意に介さずに寝る。この世に睡眠力を競い合うスポーツ、略して眠スポーツがあったら、かなり上位に食い込めそうだ。ちなみに眠スポーツでは「ふだんとは違う枕での眠りの深さ」や、「電車やバスの座席など、シチュエーションごとの入眠タイム」を競い合う。

家人の底知れない睡眠力がモノを言うのは、朝、そのスマホの目

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【エッセイ】町中華

【エッセイ】町中華

大学生のころ、よく出前を頼んでいた町中華があった。

売りは、安くて早くて多いこと。毎日遊ぶのに忙しく、万年貧乏でお脳のよろしくない大学生が求める要素を完ぺきに満たしていた。けどまずい。とにかくまずい。判で押したようにまずい。猫が作っていたとしか思えない。

ラーメンを頼めば伸びており、スープは白湯かと思えるほど薄い。チャーシューは小ぶりで、余った丼の隙間を埋めるようにわかめが敷き詰められている。

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【エッセイ】りんご売り

【エッセイ】りんご売り

子どものころ、家にりんご売りが来たことがあった。

今でも存在しているのだろうか、りんご売り。長尺な竿を両肩に渡すようにして担ぎ、その両端には十数個のりんごを入れたかごが吊るしてある。そして「りんごだよー、甘いよー、美味しいよー」と声を張り上げて売り歩くのだ。あのころは焼き芋、チャルメラ、ポン菓子、金魚売り、竿竹売りなど、いろんな行商屋を見かけた気がする。

くだんのりんご売りは白い半袖シャツにジ

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【エッセイ】年賀状

【エッセイ】年賀状

今年はわずかしか届かなかった。

年賀状の話だ。もちろん実家や親戚、それに仕事の取引先からはそれなりの枚数が届いた。ただ、そうやって血とか銭とかでつながっていない、純然たる知り合いからの年賀状は年々着実に減っていき、今年はついに片手で数えても余る指のほうが多いくらいの枚数しか届かなくなった、ということだ。

寂しいかと訊かれると寂しいけど、そうしてわずかに届いた知人たちからの年賀状を見ていて覚える

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【エッセイ】ひとつまみ

【エッセイ】ひとつまみ

昨年末からオイシックスをよく使っている。

他業者のミールセットと比べてちょっとお高いのがネックだけど、生きることのすべてを家の中で完結させたい私のようなメジャー級の無精者には、買い物の手間が省けるのでとても助かる。なにより美味い。

レシピも美しい写真が添えてあって調理欲をかき立てられ、ほどよい時間と労力でもって、本当にこれはものぐさなじぶんで作ったものなのかと目と舌を疑ってしまうほど、立派な一

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【エッセイ】餅

【エッセイ】餅

餅。恐ろしいやつだ。

毎年この時節になると大勢の無辜の命を容赦なく奪い、恐怖を撒き散らしておきながら、当局からは一切のお咎めなく、悪びれもせずにスーパーやコンビニの棚に厚顔にも並び、次の獲物を虎視眈々と狙っているのだ。

それにしてもわからない。

なぜ餅はこれほどの大罪を常習的かつ全国的に犯していてなお、拘禁はおろか捕まりもせず、のほほんと沙婆の空気を吸っていられるのか。よほど政界に顔がきくの

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