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【エッセイ】餅

餅。恐ろしいやつだ。

毎年この時節になると大勢の無辜の命を容赦なく奪い、恐怖を撒き散らしておきながら、当局からは一切のお咎めなく、悪びれもせずにスーパーやコンビニの棚に厚顔にも並び、次の獲物を虎視眈々と狙っているのだ。

それにしてもわからない。

なぜ餅はこれほどの大罪を常習的かつ全国的に犯していてなお、拘禁はおろか捕まりもせず、のほほんと沙婆の空気を吸っていられるのか。よほど政界に顔がきくのか、法曹界の大物の弱みを握っているのか。

その理由については諸説あるが、煮詰めていくと(餅だけに)、餅はうまい、ということに尽きよう。

餅はすごくうまい。焼いてもうまい。煮てもうまい。ピザに入れてもうまい。蕎麦にのせてもうまい。どう食ってもうまい。凍らせておけば日持ちもするし、おまけに安い。なので誰しも餅の恐るべき殺傷力については承知していながら、その味や使い勝手のよさ、生活への浸透度、並びにコストパフォーマンスの高さを鑑み、凶悪犯罪については黙認せざるを得ないというのが実情であろう。フグなどと同じである。

そのため私たちはその恐ろしさを喧伝して餅を怒らせ、やみくもに犠牲者を増やしてしまうのではなく、餅という存在の清濁を併せ呑んだうえで、共存する道を選んだのだ。

かくいう私もこの恐ろしい餅の魅力に負け、今年もまた命の危険を顧みずにいくつか食らってしまった。情けないかぎりだ。

だがそんな折、偶然にもやつらの弱点に気づいた。それは「焦げやすい」ということだ。

やつらときたら、グリルにぶち込んでほんの数十秒でも私がよそを向いていたらもう、黒焦げになって膨れっ面をしている。いつもの白々しい、ふてぶてしい顔など見る影もない。

すでにもう何体かどす黒く焦がしてやった。いい気味である。

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