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『月の底で泳ぐ』

夏の夜。

室内のすべての照明を落とし、いつものように二人は全裸になった。

ベランダから射し込む青白い月明りだけを頼りに、僕はめんつゆを彼女の鎖骨へと流し込んだ。

垂らしたそうめんの先に茶褐色のめんつゆがぬらりと纏わりついたところを一気にすする。

ちゅるる。

「あ……」

微かにくぐもった声が彼女から漏れた。

やおら防水シーツに仰向けになった僕のみぞおちに彼女がめんつゆを注ぎ込む。

上からゆっくりと浸されたほの白いそうめんの先端が僕のみぞおちの底をゆっくりとくすぐっていく――瞬間、ちゅるる!

「ぅっ……」

一息ですすられ反射的に体がのけ反る。その拍子にめんつゆが胸から零れ落ちた。

めんつゆを注ぎ足し、ちゅるる、ちゅるると互いにそうめんをすすり合い、腰の底の方に感じる小さな疼きを目くるめく快感の領域へと高めていく。

月の冴えた海の底。まるで二匹の青い魚になったようにむつみ合い、二人は泳ぎ続けた。

やがて魚達はめんつゆとそうめんまみれになりながらシーツの波間を渡り切り、愉悦の渦の中で同時に果てた。

「わたし、本当に好きよ」

「僕も」

「生まれ変わったらそうめんになりたい」

「それなら僕はめんつゆ」

「約束」

「うん……でもその前におかわり」

「ええ、茹でましょ」

「めんつゆも作るよ」

僕と彼女は岩礁の隙間に身を隠す小魚のように薄暗いキッチンへ滑り込んでいった。


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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。