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『ブエナビスタソシアルクラブ』の『El Cuarto de Tula』はエロくて不謹慎?

ヴィム・ヴェンダース監督が大嫌いです。
その理由は、『ベルリン・天使の詩』がモノローグ進行のオーディオドラマみたいだからです。あんなんだったら、もう映像化の必要じゃないじゃないですか。
また、『パリ、テキサス』の主人公が、最後にベラベラ自分のことを話すからです。最後の最後に、「自分はあーだこーだで何やかんやだったんだ。だからああなって、今こうなんだ」ってアンタ、そりゃないでしょ?  今までの旅は何だったの? 道中で徐々に明かされなきゃダメでしょう? ひどくないですか?

そのヴィム・ヴェンダース監督が、『ブエナビスタソシアルクラブ』というドキュメンタリー映画を撮っています。その映画に出てくる『El Cuarto de Tula』という曲の歌詞がエロいんです。スペイン語なんですが、キューバ的スペイン語なんです。Cuban Spanish、Español Cubanoなんです。

内容は、トゥーラという人の家が火事になって大変という歌詞なんです。が! その火事が、実は夜の情事のメタファーになっているんです。下手すりゃ死ぬ火災を夜の情事に喩えるって、エロくて不謹慎だと思いますか? さすがラテンのノリだと思いますか?
ま、RCサクセションの『雨あがりの夜空に』みたいなもんですね。
平安時代にも、自分の燃える恋心を、その時分に大噴火した富士山を以ってして喩えてる和歌が多いんです。

我妹子(わぎもこ)に逢ふよしをなみ駿河なる富士の高嶺の燃えつつかあらむ
愛しいあの子に会えないよーん、俺の富士山のてっぺんみたいに燃えてんのにさぁ

みたいな感じです。まあ、京都にいる人は呑気でいいですよね。東国にいる人はたまったもんじゃないでしょうけど。

それにしたって、「不謹慎だからなかったことにしよう、自粛、自重しよう」なんて野暮天も野暮天。もしそんなことを言い出す人がいたら「この作品は時代背景や芸術的価値を鑑みて〜」みたいな但し書きを添えておけばいいでしょう。

さて、くだんの『El Curato de Tula』がどれだけエロいのか、翻訳してみましょう。
ただ翻訳するのはアレなので、韻を踏みながら訳します。なぜなら、この歌詞は韻を踏みまくりだからです。
そもそも、漢詩はもちろん、和歌だって韻を踏んでいます。欧米の歌詞や詩などはふんだんに韻を踏んでいる、というか韻を踏まないほうが珍しいんじゃなかろうかと思うほどです。ダンテの『神曲』なんて原文で読まなきゃ意味がないと言うぐらいなんじゃないでしょうか。原文で読んだことないし、これから読むこともないでしょうけど。
なので、下手くそながら押韻を意識して超超超、超絶意訳してみました。曲を聴きながら読んで頂ければ幸いです。


El Cuarto de Tula

トゥーラの部屋

En el barrio La Cachimba se ha formado la corredera
En el barrio La Cachimba se ha formado la corredera
Allá fueron los bomberos con sus campanas, sus sirenas
Allá fueron los bomberos con sus campanas, sus sirenas
¡Ay, mamá! ¿Qué pasó? ¡Ay, mamá! ¿Qué pasó?
カシンバあたり、駆け抜けた衝撃
カシンバあたり、駆け抜けた衝撃
鐘とサイレン鳴らし、やって来た野次馬たち(※本当は消防士たち
鐘とサイレン鳴らし、やって来た野次馬たち
「はい!? ママ、これって何!? はい!? ママ、これって何!?」
※もう一回繰り返し

El Cuarto de Tula, le cogió candela 
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ
※もう二回繰り返し

¡Que llamen a Ibrahim Ferrer, que busquen a los bomberos!
Que yo creo que Tula lo que quiere señor es que le apaguen el fuego
イブラヒム・フェレールをすぐ! 見っけろ消防衆!
終息を希求するトゥーラ、そんな風(ふう)だ

Al Cuarto de Tula, le cogió candela 
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Ay, por ahí viene Eliades, en tremenda corredera
Viene a observar el cuarto de Tula que ha cogido candela
超絶衝撃の中です、テクテク来たのはエリアデス
で、すぐ、トゥーラの火事を見物

El Cuarto de Tula, le cogió candela 
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Carlos y Marcos están mirando este fuego
Si ahora no se apaga, se apaga luego, candela
カルロスとマルコスが炎を指す
「今は消えぬ、あとで消える」

El cuarto de Tula, le cogió candela
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Puntillita, ve y busca a Marco', pa' que busque al Sierra Maestra
Que vengan para acá rapido que la Tula, mira cogió candela
プンティージ、行きぃ、マルコ氏を探しに。氏ならシエラ・マエストラをキャッチ
さっさ来い、トゥーラん家、見ろや火

El Cuarto de Tula, le cogió candela
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Hey, Marcos, coge pronto el cubito Y no te quedes allá fuera
Llénalo de agua y ven a apagar el cuarto de Tula,Que ha cogido candela
おう、マルコス、バケツを早く、よせボケっとした様子
水をいっぱい、消しに来い、トゥーラの火

El cuarto de Tula, le cogió candela
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Tula está encendida ¡Llama a los bomberos!
Tú eres candela ¡Afina los cueros!
トゥーラは火の海! まだか消防士達!
アンタは炎、鳴らせボンゴ!(革=打楽器のボンゴ、で正しいのか?)

Al Cuarto de Tula, le cogió candela
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ

Candela, muchacho
Se volvió loco, Barbarito ¡Hay que ingresarlo!
超燃えてんぞ、ガキんちょ
バルバリートよ、彼女はキチガイのよう。病院つれてこう

El Cuarto de Tula, le cogió candela
Se quedó dormida y no apagó la vela
部屋ん中、ローソク点けたんだ、トゥーラが火照った
そのまんま、寝ちゃったんだ
※何かもう、すげー繰り返し

ヴィム・ヴェンダース監督『ブエナビスタソシアルクラブ』

やあ、もう、メチャクチャな日本語です。申し訳ありません。

どうしても「corredera」の意味が通りませんでした。おそらく「formar la corredera」で慣用句になってるのでしょうけど、キューバ独特の言い回しなのでしょうか? 詳しい方がいたら教えてください。
てなわけで、手持ちの『英語ースペイン/スペインー英語』の辞書を引いたんですが、それでも意味が通りません。ネット辞書で引いても何が何だかサッパリです。
そこで、ネットに転がってる英語訳詞から意味を拝借。

我が本棚に眠っている辞書してもわけワカメ

「cogió=coger」は「取る、つかむ、乗る」の点過去三人称単数なのですが、コイツが中南米や西インド諸島では「セックスする」って意味にもなるので要注意ってことは、大抵のスペイン語教材に載っています。
西インド諸島と聞いて、南アジアのインドを思い浮かべた人、南アジアにキューバなんてないよと思った人、こっそりググりましょう。カリブ海なんてヒントを与えておきます。

とまあ、こんな感じで火事の話として聴いてもいいんですけど、激しい夜の営みっていうメタファーにもなってるらしいので、結婚式なんかで流したらダメですからね。火事だし、セックスだし。
ちなみに、よく、「メロディが素敵!」なんて言っちゃって、歌詞の内容も考えず、結婚式で不倫ソングや失恋ソングを流す人が多いらしいので、そちらも注意したいところです。
そこの夫婦! 笑われてますよ。

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