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プリンターのイノベーション~アイデアがプラットフォームになるまで~

 日経電子版の記事【ものに印刷、予想外のヒット リコー開発物語 リコー携帯プリンター開発(上)】・【「開発中止」跳ね返した顧客の声 リコー新市場開拓 リコー携帯プリンター開発(下)】は、イノベーティブなリコーの携帯型プリンター「RICOH Handy Printer」のワクワクするような開発物語です。



 2本の記事を通読して感じるのは、この画期的な携帯プリンターの開発が、アイデアの段階からプラットフォームへと至るまで、アイデア⇨マーケティング⇨プロモーション⇨プラットフォームの全てのフェーズにおいて、学ぶべき点の多いケーススタディーとなっている事ではないでしょうか。

 さっそくピックアップしてみると――



【1】アイデア

 記事によると、この商品の出発点となったアイデアの背景には、インターネットの接続主体が、デスクトップパソコン⇨ノートパソコン⇨スマホへと変遷した潮流があります。その流れの中で、「スマホ級のプリンター」というアイデアが生まれたのです。

 それでは、「スマホ級のプリンター」とは何か?打ち出されたコンセプトが――

▶「スマホ級のプリンター」のコンセプト

(1)携帯性

(2)コンパクト

(3)いろいろなものに印字できる



 一見当たり前のようにも見えるコンセプトですが、実は、このコンセプトを実現するために導き出された答え=『紙送り機構をなくす』が素晴らしい!

 通常のプリンターには、当然のごとく「印字する機構」と「紙送り機構」が備わっていますが、その常識、当たり前を打ち破って、「紙送り機構」を無くしてしまおう、と言うのです。「紙送り機構」を残していれば、(2)コンパクトというコンセプトには大きな足枷となっていたでしょう。



 そして、『紙送り機構をなくして』プリンターを手で動かす、という発想が、『手書きのデジタル化』へと転化し昇華した事が最大のブレークスルーであった、と思います。

▶新たな次元へと昇華するアイデア

ネットの接続主体がスマホになる。

「スマホ級のプリンター」という発想

「コンパクト」の追求

紙送り機構をなくす

「プリンターを手で動かす」という発想

手書きのデジタル化』というブレークスルー



 光学センサーでXY座標、ジャイロセンサーで回転を検出することで、手の動きに追従して印字できるスペックを獲得した携帯プリンター(スマートプリンターと言った方が適切か?)は、見事に『手書きのデジタル化』のベネフィットを実現している、と思います。

『手書きのデジタル化』のベネフィット

(1)プリンターに通せないもの、大きすぎたり、小さすぎるものにも印字
  できる。

(2)プリンターに通しにくいものにも、特別なアダプターを使うことなく
  印字できる。

(3)いちいち紙送りを使って位置合わせをする面倒がない

(4)『紙送り機構をなくした』ことで、本来は木材・布などにも印字
  できるトナーのポテンシャルが生きる(紙だけでない色々なものに
  印字できる
)。

(5)手書きストレスの軽減。  など



【2】マーケティング

 携帯プリンターの開発で次に注目されるのは、そのマーケティングのプロセスです。

 記事のケースでは、徹底的な顧客先回りが実行され、その過程で、取引先が忌憚のないアイデアを出してくれる状況が、あたかも、顧客を含めた大人数での開発チームのようなポテンシャルを発揮しています。

 これは、まさにオープンイノベーションの一形態であり、記事のこの部分もとても読みごたえがあります。



【3】プロモーション

 次に素晴らしいと思ったのは、「(記事より)運動会でおなじみの『ウィリアム・テル序曲 スイス軍の行進』にのせて、手に持った小型プリンターを使い、1分の間にノートや段ボール、タグ、紙おむつ、伝票、トイレットペーパーなど約40種のモノに小気味良く印字していく」プロモーション動画です。

 ご覧になった方も多いかと思いますが、このスピーディーでハイテンションな、印象的なプロモーション動画は、僅か1分間に見事に「RICOH Handy Printer」のスペックを凝縮しており、見た人にそのベネフィットを印象付けます

 この動画は、その共感のパワーでSNS上でバズり、高額商品でありながら、会社の業務用という想定を超えて、コンシューマー需要を切り拓いたのです。



【4】プラットフォーム

 最後に注目すべき点は、この携帯プリンター(スマートプリンター)というプロダクトが、売りっ放しのモノで終わらずに、『手書きのデジタル化』という全く新しい概念のサービスへと発展していくポテンシャルです。

 アプリが印字の内容・回数・時刻などを記録し、他のシステムと組み合わせることで(=『手書きのデジタル化』)、手書きという行為がIoT化し、そこから新しい用途、サービスが生まれてくるかも知れないのです。

 そのためのSDK(ソフトウエア開発キット)も公開されているとのことで、どのような『手書きのプラットフォーム』が形成されていくのか、今後の展開が楽しみです。



 「RICOH Handy Printer」がプリンターの世界にもたらしたイノベーションは、アイデアがプラットフォームになるまでの興味深いストーリーであり、プロダクトの開発とは何か、あらためて思い起こさせてくれます。



#COMEMO #NIKKEI

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