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武田敦
2024年2月27日 07:00
エリザが、長い首を大きく曲げて、わたしの耳元、顔のすぐそばに、自分の大きな顔、大きな右目を寄せてきた。彼女の肌のぬくもりが感じられる…… 『妙ね。これでお別れだと思ってたんだけど。私、デビルの背に乗って旅する吟遊詩人、風のデイテって絵柄の一部になっちゃったのかしら』 わたしは、幾分すまなそうな目で彼女を見上げていたと思う。 エリザが、大きな目をぱちくりさせた――ウインク⁈ 『安心
2024年2月26日 07:00
「ブラボー!」 「風のデイテ!」 「エリザ嬢!」 そして、この荒野の真っただ中に、わたしの名を連呼する大合唱が沸き上がった―― デイテ!デイテ!デイテ!…… デイテ!デイテ!…… ……
2024年2月22日 07:00
2024年2月21日 07:00
わたしは、自身の稀有な体験を物語りながら、それが自然と叙事詩となっていくのを意識した。物語は、起承転結のループを繰り返し、一つの『結』が、次の『起』になる。物語のボルテージが、どんどん上がって、クライマックスへと……。そして、本当に、『風のデイテ』、デビルの背に乗って旅する吟遊詩人が、誕生した――
2024年2月14日 07:00
少し間を置いて―― 「さあ、そろそろ歌わせてもらいます。……何でわたしがエリザと仲良くなれたのか?出会いの物語……そして、この鉱山への旅の物語!」 わたしは、ギターを慣れた手付きでケースから出し、エリザの傍らで立ち位置を決めた。……いつの間にか、最初円を描いてわたし達を取り巻いていた観客……鉱山の住人は、半円を描いてわたし達の前に陣取っている……思い思いの姿勢で、立ったままの者もいれば、地べ
2024年2月12日 07:00
「俺には最初から分かっていたぜ。ちょっと年増だけど、どえらい別嬪さんだってな!」 エリザが、首をもたげるや、その若い男の方を角でどつくようにした。 若い男は、驚愕して危うく後ろにこけそうになった。 住人たちがどっと沸いた。 「おい、ステファン、デビルには人間の言葉が分かるって、ばあ様から聞いてなかったのか!『大年増』は余計だぜ」 「俺は『大年増』だなんて言ってねえ!熟れ頃の『年増』って
2024年2月8日 07:00
エリザは、バタバタと勇壮な羽音を立てて、とてもカッコよく逞しい四本の脚を接地させた! 首をもたげて、ぐいと周囲を睨みつけた。 百人近い住人達は、老いも若きも、男も女も、全くの無言で、口をぽっかり開けて、視線はわたしとエリザを交互に見ている……エリザ、わたし、エリザ、わたし――全員の首が振り子のように左右に動く様に思わず吹き出しそうになる…… 次はわたしの番!カッコよく、エリザの首から飛び降
2024年2月7日 07:00
ついに、わたし達は街の上空に達した。エリザは、まるでわたしの意を介したかのように、小さな街の外郭を一周し、土埃の舞う中央の広場へと向かった。 今や、街の住人は、さっきまでとは逆に、広場へと雪崩を打っていた。デビルの背にわたしが乗っていることに気付き、そのデビルが、広場へと舞い降りようとしているのだ。皆驚愕に目を見開いて、口々に叫びながら上空のわたし達を指差している…… 「いてっ!」 わたし
2024年2月2日 07:00
わたしは、目を見開いた。――あと数秒であそこを! そして……やんぬるかな、やっぱり目を瞑ってしまった。エリザの逞しい首に指先から足先まで全身でしがみつきながら…… フッと風圧が弱まった……先刻までのわたし達が大気を切り裂く槍のようだとすれば、まるで凧のように…… 恐る恐る目を開いたわたしは、盆地の中とはまるで違う弱い気流の中を、エリザの背に乗ってゆったりと滑空していた。眼下の風景は、つい昨
2024年2月1日 07:00
わたしは、いよいよ新しいステップを踏み出すんだと思うと、わくわくしてきた。シャルルの助けなしに、一人で道を切り拓いていく……でも、ちょっと待って!作戦も計画も何も考えてなかった! 「ままよ!」 アドリブ、即興は、吟遊詩人の十八番じゃない! エリザは、西の方角へ――という事は、無人地帯のさらに奥地という事か――鼻先の角を向けると、風を捉えて一気に急上昇し、わたしが何だか空気が薄くなってきたん
2024年1月31日 07:00
それで、会話は途切れた。わたし達二人(?)とも、何となく黙り込んでしまった……心が読める二人の間で沈黙なんてものがあるとすればだが…… わたしは、悠然と滑空するエリザの首筋につかまりながら、気流がその強さを増してきていることに気付いた……太陽はどんどん高くなっていく……エリザは、ちょっと体の一部を動かすだけで、自在に虚空を切り裂いていった。 『そろそろ行きましょう!』 彼女は、この時を待っ
2024年1月29日 07:00
「はあー……」 とても気持ちのいいため息が出た。 「今気付いたんだけど、エリザ、この盆地に、人間は住んでいないのね?」 エリザは、少し羽ばたいてから答えた―― 『そう。素晴らしい所なんだけど、人がたくさんいる海岸地帯から隔絶された山岳地帯の中にあって、しかも、昼夜、季節の寒暖の差が激しい……あなた達の言葉で何と言ったかしら、自然保護区?』 「保護区……」 『……公園に指定されているよ
2024年1月28日 07:00
彼は、最後にもう一度わたしに視線を据えた後、しなやかな身のこなしでエリザの横に並んだ。 ――二人で何か会話を交わしているようだ。……テレパシー?…… わたしは、ヒューヒュー吹き付ける風に、たまらずゴーグルをかけ直した。 やがて、何事もなかったように、赤い鱗の巨獣は去って行った。 『彼、あなたのことが気に入ったみたい』 「えっ?……」 わたしには、エリザが愉快そうに笑っているのではない
2024年1月27日 07:00
『他のデビル達が、私の背中にいるあなたに気付いたみたい――』 彼女が言い終わるか終らぬ時、彼女の言葉を待っていたかのように、わたし達の頭上に影が差した。 ぎょっとして見上げると、エリザより一回りは大きい、毒々しい赤みを帯びた鱗のデビルが、カッと目を見開いてわたしのことを見下ろしていた……5標準メートルもない…… エリザとその巨大なデビル――わたしは、オスに違いないと思った――は、大空に同じ