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条件付対価|アーンアウト、セラーノート

今回はM&Aにおける条件付き対価について簡単に書いていきたい。条件付き対価は英語ではcontingent payment、もしくはcontingent considerationと言う。ここではアーンアウトおよびセラーノートについて、実際に日本企業による買収ないし売却案件で使用された事例を開示資料を見ながら追ってみることにする。

アーンアウト |Earn-out

アーンアウトとは、M&Aにおける価格調整のうちクロージング後の一定の事象・条件の発生・充足に基づき買手が売手に対して買収対価の一部を追加的に支払う手法を言う。
株式市場に公開しており株価が客観的に測定可能な上場会社の案件ではなく、非上場会社の案件 (Private company)で見られる。
(例:大企業のカーブアウトやPEファンドの投資先の売却の案件等)

買手と売手で価格目線のギャップがある際に(特に売手の目線が高いが、買手はそこまでの金額を出せない場合)、買手が一定の条件達成/実現の度合いに応じて支払うものである。

業績達成の条件・追加的に支払う対価は、一般的には財務数値(EBITDAなど)が一定の数値を超えたら双方で合意したフォーミュラに従い計算する。

EBITDA以外にも売上高(例:特定の製品の売上高が一定値を超えた場合等)の達成を条件にすることもある。
なお対象とする期間は1年間が一般的であるが、それより長い期間(3年など)もありうる。

実例:京セラによるOPTIMAL SYSTEMS GmbHの買収

以下は今日セラの2021年3月期の有価証券報告書の企業結合にかかる注記の抜粋である。

ドイツのO社買収に係る対価は現金120.9億円に加えて、業績連動型条件付き対価 (Earn-out, contingent payment)23.76億円を加えた144.66億円が買収対価になる旨の記載がある。

京セラ|2021年3月期有報|企業結合に関する注記

実際にアーンアウトモデルがどのように計算されているのかは外部からは当然知りえないが、有報では公正価値と記載があるのでIFRSに基づき確率加重平均等をして試算したと推察される。

京セラのM&’Aに係る開示で特徴的と思われるのは、取得した資産・負債の内訳を記載し、各案件で計上されたのれんの金額を明示していることにあろう。

他にもPPAに伴い識別された無形資産の内訳を明示しているところも他の会社ではあまり見られないところである。
*例えば、取得日に引き受けた無形資産7,011百万円の内訳が下のテーブルに記載されている。

セラーノート|Seller note

Seller noteはアーンアウト同様に条件付対価の一種で、クロージング後に行われる価格調整である。

米国のM&A実務でよく見られ、いわゆる分割支払いに近く売手が買手に対して買収に係る資金の一部を融資するセラーファイナンスとも言える(要は、買手が売手から受け取る支払手形)

取引金額のうち何パーセントをSeller noteによるファイナンスの対象にするかは案件によるが、一般的には30-70%程と言われる(のちに紹介する資生堂案件では50%)
売手は買手に対して債権を負うことになるので、買手の信用力が重要であることは言うまでもない。

アーンアウトと同様に、売手と買手で価格の目線にギャップがある場合にも使用される。
つまり、「売手は高値で売りたいが、買手はそこまでの価値は対象会社 / 事業にはなく、minimum XXドルを支払いたいが、一定の年限を設けてある条件を達成 (例: 20XX年度のEBITDAがXX百万ドルを超過、等)したらSeller noteによる追加的な決済を行う」といった場合である。

入札の最初の段階から買手がSeller noteの使用を主張することは考え難く、最終入札ないし相対交渉に入った段階で提案されることが多い。

実例:Advent Internationalによるローラメルシエ等ブランドの買収 (from 資生堂)

米国の大手PEファンド: Advent Internationalによる、資生堂傘下の「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」「ベアミネラル(BAREMINERALS)」「バクサム(BUXUM)」ブランドの買収はSeller noteが使用された実例である。
 
同案件は2021年12月に実行されたため、2021年12月期の資生堂の有価証券報告書の企業結合に関する注記に詳細が記載されている(下記参照)

資生堂|2021年12月期有報|企業結合に関する注記


資生堂|2021年12月期有報|企業結合に関する注記

同事業は売上高523億円に対し営業損失73億円と記載されており、償却費等の数値は明らかでないもののEBITDAはおそらくマイナスか、非常に小さい数値だったと推察される。

今回の案件では注記の末尾にあるように、売手による継続的関与 (製造委託・調達契約)が明示されているので、Seller noteの決済年限に渡り売主の資生堂アメリカが経営上一定の関与をするという事であろう。
 
譲渡対価はSeller note込みで$700M、価格調整(運転資本等)に伴い$118Mを譲渡先法人に拠出しているのでネットすると582Mが売手に入ることになる。

その他|Management Rollover

他にありうる類型としては、ディール実行後に対象会社の経営陣が残り彼らに株式の一定の持ち分を保有させるという方法もある。(Management Rollover)

ストックオプションを付与し、業績条件をクリアしたらストックオプションの権利を行使し、キャピタルゲインを得られるようにすることが可能である。

日本では中々ないと思うが、米国ではPEファンド関連の案件で散見される。

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