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山梨山小屋逗留日記 三日目

 昨日より20分ほど遅く起床。家族はすでに屋外で作業している。私が起きたと気づいてクリームシチューの残りを温めて朝食。
 日曜日なので今日までどこも混雑しているだろうということで、空いているところを適当に周ることを伝えると、灯油を買い足すおつかいと、夕食は各自なので自分が食べたいものを買ってくるようにとのお達しがあったので、車のトランクに灯油タンクを積み込みも忘れない。
 起床時間の遅れを素早い化粧で取り戻し、九時過ぎには出発し、本日最初の目的地である地元ではヤマノカミサマと呼び親しまれている『新屋山神社』へ向かう途中、空を覆う膨大な煙を目にし、山火事ではないかと驚く場面があり、思わず車を停め、写真を撮影して作業中の家族に送信してしまった。それくらいの煙の量だった。そんなこんなでちょっと山道を迷子になりつつ到着。こんなところに、という家屋と企業に囲まれた山間部の中にある小さな神社だった。
 車を降り拝殿までショートカットせず、鳥居の始まる場所まで戻り、奉納の文字が刻まれた幾重にも連なる鳥居を前に立つと、鳥居の鮮明な朱色に比較的新しい社殿なのではと感じる。
 足元に視線を落とすと、立派なつくしが群生している。自分は昔からつくしが好きだったがここ数年、足元で季節を感じる余裕もなかったなと感傷的になったりする。
 紙垂が揺れる鳥居をくぐり、拝殿へと辿り着く。白を基調とした社殿に黄緑や水色の彫刻が映える。拝殿手前の狛犬さんとは別の狛犬さんが向拝柱の上に鎮座していた。
 色の鮮やかさからやはり新しい神社に見えるが、天文3年(西暦1534年)に創建、昭和48年(1973年)に改築があったという。
 富士山麓の神社7社には『神玉巡拝』という参拝の証に『神玉』それぞれを繋ぐ『神紐』七つ集めると願い事が成就するという神玉が販売されている。
①     富士山小御嶽神社
②     新屋山神社
③     北口本宮冨士浅間神社
④     小室浅間神社
⑤     新倉山富士浅間神社
⑥     冨士御室浅間神社
⑦     山中諏訪神社
 私は今日で②③④⑤⑦まで制覇したが、これを書きながら改めて①と⑥に行けていないことに気づいた。
 河口湖周辺は常に大混雑大渋滞なので、ついいつも避けてしまい目に留まらなかったのかもしれない。もう一件なんて山小屋から一番近いのになぜ気づかないのか自分。
次回山小屋に来た際には必ず足を運ぶことを誓った。
 全然関係ないが、魔王天神社という非常にごつい名前の神社がある。急で長い石段を登り切った先に広がる無人で静謐な拝殿に手水場の水音だけが響く。足腰に自信がある方はぜひ足を運んで欲しい。
駐車場を出てすぐ隣に北口本宮冨士浅間神社に立ち寄る、道が細いので大渋滞だが、ギリギリ一台分の駐車場を見つけて参拝に向かう。
 北口本宮冨士浅間神社は、日本三奇祭、日本10大火祭りに数えられる『吉田の火祭り』の舞台でもある。
昨年は到着した日の夜が祭りの最終日で、祭りの熱気の残滓が街中に散らばっていた様子が見て取れた。
 巨木となった杉並木の合間に歴史を感じさせる石灯籠が並んでいる。敷地面積がとても広いのもあるが、車のわりに人が少ないことに拍子抜けしながら砂利道の参道をきょろきょろしながら進んでいると、豪奢な正統派和装のご夫婦が前撮りをしていた。
参拝中に、ご夫婦の親族らしき人が神前式の前のご挨拶をしていたので、このあと式があるのだろう。
神前式は親戚の結婚式で一度だけ体験したことがあるが、あの厳かな雰囲気はとても好きだ。
 参拝を終え、富士吉田方面へ向かうがまあ車列が大渋滞である。遅々として進まない。急ぐ旅ではないのでのんびりと車窓からの風景を覗き込むと、今朝方目にした煙が更に近くなり、視界に入る青空のほとんどを覆うほどになっていた。渋滞の原因に関係するのかは全くわからないが、本当に大規模な山火事が起こっているのではないかと考えてしまうが、これだけの状況でもサイレンは一切聴こえてこない。そのアンバランスさが更に謎を深めた。
 そんな渋滞も『道の駅富士吉田』と『ふじさんミュージアムパーク』の分岐がある箇所を起点に解消されてくる。
まずは『ふじさんミュージアムパーク』入り口へ左折、この施設は富士吉田市歴史民俗博物館であり、富士山信仰、富士吉田市の歴史、民俗、産業が展示されています。同時に企画展も開催されている。前回中を見回ったので、チケットなしでも覗けるグッズ販売コーナーにある民俗資料の書籍が目当て。ただ前回買うだけ買ってしまったので、めぼしいものがなかったので向かい側にある道の駅に向かおうかなと考えていると、施設を見学していた人が受付の女性に何か質問していた。
 耳を澄ませると「今日はいつになったら富士山が見えるのか」という内容だった。その質問に「午後になれば多分」と答えていた。このやり取りから、あの煙は山火事ではなく人為的に発生されたものの可能性が出てきたが、いまだ原因はわからずじまいである。
 通りの向かいにある道の駅富士吉田には、広大なエリア内に「富士山レーダードーム館」「ふじやまビール ハーベステラス」「mont-bell」「キッズランド」があり、名物の吉田のうどんを始めとするグルメを楽しんだり、お土産の買い物にも大変適している。
 富士山レーダードーム館は2022年にフルリニューアルされている。内部には1999年まで使用されていた富士山レーダードームの実物が展示されていて、展示のラストには『富士山頂寒さ体験』が出来る。昨年体験した時は、確か寒さを二種類選べたと思う。
 私は確か富士山頂にブリザードが吹き荒れている時の気温を選んだ。どうせなら安牌は選ばないタイプである。
 30秒間だっただろうか、画面に映し出される風吹きすさぶ富士山頂の風景と鼓膜を震わす風の轟音、そして半袖で耐えられるはずのない身を切るを通り越して剝き出しの肌が激痛を感じるほどの冷風が身体に叩きつけられる。
室外に出ると真夏だったがその高気温すらありがたみを感じられる体験型アトラクションだ。
 この施設のもうひとつの目玉はお土産コーナーにもある。ここは、聖地と呼ばれるほど『ゆるキャン△』グッズの宝庫なのである。ここを目当てに来る人も多い、私は昨年Tシャツやステッカーを買った。
今年は、二日目の浩庵キャンプ場で購入したステッカーの富士山レーダードーム館限定バージョンをゲットした。
 こちらのステッカーは、道の駅富士吉田限定バージョンもあるので、再び道の駅に移動し、今日は購買欲を押さえて並ぶ品々を眺めながら、翌々日に買う予定のお土産を脳内にリストアップして車に乗り込む。
道の駅から通りに出ると、車はスムーズに進みだした。
山中湖に向かうと、いつのまにか煙は落ち着き青空の下に右手側に自衛隊演習場から始まる富士山が見えてくる。
 前回来て偶然知ったのだが、『温泉むすめ』というものがある。公式ホームページを読むと『日本の各温泉地に宿る下級の神さま、温泉むすめ。温泉地の人々とともに暮らし、東京はお台場にある『温泉むすめ師範学校』に通いながら自分の温泉地を訪れる人に癒しや笑顔を与える為の術を学んでいる』らしい。例えば有名な草津温泉なら草津結衣奈ちゃん、伊香保温泉なら伊香保葉凪ちゃんがいて、提携している宿泊地やお店で限定グッズが買えるようになっている。設定も細かく決められていて、キャラ原案や声優さんも全部違うので見ていて楽しい。オタク心と収集癖がうずく。
 山梨県では、『河口湖多佳美』ちゃんと『山中湖忍』ちゃんがいる。私はどっちかというと山中湖忍ちゃん推しである。
グッズはすでに購入済みなので、新商品が出ていない限りいらないかな、と思っていたが、今回の山梨行き直前に下調べをしたところ、河口湖には天晴、山中湖には白鳥の湖という遊覧船があり、乗らなくても温泉むすめがプリントされた御船印が購入出来ると知り、これを買いに山中湖の乗船場に向かう。
 山中湖はさすがに普段より混んでいるとはいえ、観光のメッカとも言える河口湖よりも人は少なめで、静かな時間が流れていた。
遊覧船が白鳥なのも、鳥の餌が売っているのもいい。自分はゆっくりとした時間を過ごすのが苦手だ、社畜時代は休みがなさ過ぎて休み方がわからなかった。一度外出したら分刻みで予定を入れてしまう。常に人生欲張りセットである。今度来た時は遊覧船に乗ってみようと思う。まったくいつになったら時間の過ごし方が上手になるんだろう。
 帰りに『山中湖文学の森公園』に寄った、園内にある『三島由紀夫文学館』と『徳富蘇峰館』を鑑賞した。
平岡公威少年時代の作文やあどけない笑顔の家族写真が微笑ましいく、徳富蘇峰氏は集杖家だったらしく、多種多様な杖が無造作に立てかけられていて圧巻だった。
館内はしんとしていて、じっくり時間をかけて展示物を読みふけってしまった。
文学館を後にして、富士河口湖町方面に戻る。
 前半に書いた神玉を取り扱っている神社のひとつ『小室浅間神社』にはお馬さんがいる。農耕や荷駄として住民の生活を支えてきた馬を第一の神使としているそうで、流鏑馬神事も行っており神馬舎と御神馬がいるのである。
結構な町中にあり、住民の生活空間のど真ん中にある神社である、他の神社のような派手さはないが朴訥とした雰囲気とのんびりとして親しまれているお馬さんが見られるので自分的には好きな場所である。
でもさすがに日曜日、駐車場がいっぱいで道が狭い場所をおそるおそる走りようやく停める。
 お馬さんにご挨拶をしていると腹に響く太鼓の音が上がり、どこから聴こえるのかと探すと、神馬舎横にある神楽殿で今まさに神楽が行われているところであった。
『武楽座』というグループによる奉納演武だったようである。
連獅子を彷彿とさせる装束を付けた演者さんの動の舞、天女や巫女を連想させる装束を付けた女性演者さんもいて、外国人観光客の方が多く、テンションも高かった。
 いいタイミングで来られてよかったなあと思いつつ、混みすぎてお馬さんに再度ご挨拶して退散。
今日の観光は終了。
 夕食の買い出しにご当地スーパーセルバさんへ、そんなにお腹が減っていないのでお土産候補を物色するのに夢中で、結局自分が買ったのは豆苗、豆もやし、ハツ130g、チーズタルトを購入。
 灯油を買いにモールへ移動。
恥ずかしながらホームセンターで灯油を買うのが初めてで、灯油券を買ってから店員さんを呼ぶボタンを押すのだと知らず、先に店員さんを呼んでしまった。丁寧な店員さんから説明を受けて最寄りのレジで灯油券を買ってお渡しし、無事灯油ゲット。
 山小屋の夜は基本6℃~7℃なので灯油ストーブがないと厳しいし、修繕に使う器具にも灯油を使うのである。
帰宅して諸所に灯油を差して任務完了。
家族は先にお風呂を作って入っている間、私は自分の夕食を作る。
 山小屋初日の買い出しで買っておいたトルティーヤにふりかけるタイプのミックスチーズを乗せてフライパンで焼いてチーズトルティーヤと、豆苗、豆もやし、ハツをダシ、ニンニクチューブ、家族が持ち込んだ焼酎(人がめったに来ないので料理酒がない)で漬け込んだものを炒めてコショウで軽く炒めて、どちらも茶色い二品が完成。

 一滴も酒が飲めないのに、酒のアテのような料理しか作れないが、味は悪くなかった。
 ひとっ風呂浴びて缶ビールを開けてプハァーとしている家族と3チャンネルしか映らないテレビでご当地ニュースを見ていたら「富士山の麓にある陸上自衛隊の演習場で「火入れ」と呼ばれる野焼きが行われた」というニュースが流れてようやく朝の煙と富士山ミュージアムパークで聴いた話が繋がった。まさにエウレーカ‼である。
 「火入れ」では、三つの会場で合わせて約1,900ヘクタールが焼かれるそうだ。
 ニュースを見ながら、いろいろな事情あっての考えさせられる野焼きであることもわかった。今日でまた一つ賢くなった。
 ハンドメイド作品の制作をして二時頃に就寝。
明日は平日だ、忍野八海に行くぞ。

つづく

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