あるでん亭

映画とSF小説の感想などを書きます。 今しばらくはとにかく記事の数を増やしていくつもり…

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映画とSF小説の感想などを書きます。 今しばらくはとにかく記事の数を増やしていくつもりです。

最近の記事

【ネタバレあり】『1917 命をかけた伝令』感想-ゲームっぽさについて

 全編ワンカット(風)撮影が話題のきっかけとなり、その映像美や臨場感が高く評価される本作。せっかくなのでIMAXで見てきた。ちょうど視界いっぱいにスクリーンが広がるくらいの、普段よりも気持ち前めの座席を確保していたが座った瞬間に勝利を確信した。期待を裏切られさえしなければこれ以上ない没入感が得られるはずと、否応なく期待が高まる。  マァ~~~~~~~~期待の上をいく出来でしたね。  ワンカット風の撮影と編集のすごさもさることながら、カットの切り替えもないのにはちゃめちゃに

    • 【今泉力哉監督】『his』『mellow』『愛がなんだ』を見て考えたこと

       愛することと、愛が受け入れられることは必ずしも互いを伴っていない。しかしその隔たりに絶望することなく、希望をもって跳び越えようとする人間の姿はときに切なくも愛おしい。  立て続けに公開された『mellow』(2020.1.17)と『his』(2020.1.24)を劇場で見て、後日、『愛がなんだ』(2019)を配信で見た。いずれも今泉力哉監督の手になる映画だ。今泉監督といえばいま注目を集める恋愛映画の旗手と言われている。とくに『愛がなんだ』でヒットしたが、他に多くのオリジナ

      • 『his』感想

         今泉力哉監督の映画『his』(1月24日公開)を見てきた。  迅(しゅん)(宮沢氷魚)は同性愛者だ。ゲイであることを隠して都会で生きることに疲れ、田舎に移住してほぼ自給自足の孤独な暮らしをしている。そんなある日、8年前に自分のもとを去った元恋人の渚(なぎさ)(藤原季節)が6歳の娘・空(そら)(外村紗玖良)を伴って押しかけてくる。現在、妻と離婚調停中だという渚と空と、三人での共同生活が始まる……。  小林勇貴監督のU-NEXT配信ドラマ『すじぼり』で壊れていく半グレの青年

        • 『ジョジョ・ラビット』 踊ること・愛すること・誰かの靴紐を結ぶこと【ネタバレあり】

           『ジョジョ・ラビット』は戦争映画というジャンルのなかで新鮮な思考の経路を立てて、平和と愛の価値の劇的な「再発見」をもくろんだ――そして見事に成功した傑作だ。  本作の主人公は、ヒトラーを信奉し、ヒトラー・ユーゲントひいては親衛隊に憧れる10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)。臆病で自分に自信がないジョジョをいちばんに理解し励ましてくれるのは「空想上の友人」であるちょび髭のアドルフ(タイカ・ワイティティ)だ。ヒトラー・ユーゲントの合宿で負傷し障害を負ったジョ

        【ネタバレあり】『1917 命をかけた伝令』感想-ゲームっぽさについて

          【ネタバレなし】『パラサイト 半地下の家族』見て!!

           『パラサイト 半地下の家族』、大大大傑作でした。  パンフレットの1ページを割き、「ポン・ジュノ監督からのお願い」と題してまでネタバレを防止したい制作の思いも頷ける。そんな先読み不可能なエンターテイメント作品としての一面もあり、韓国の(日本にも通ずる)格差社会とその階層間の交わりを眼差した批評的な一面もある。  コミカルでありながら洗練された脚本にみるみる巻き込まれ、痛快・緊張・驚き・寂寥・怒りと気づけば感情をぐちゃぐちゃにかき回されている、そんな映画としてのオーソドッ

          【ネタバレなし】『パラサイト 半地下の家族』見て!!

          マックス・チャンが今、俺の中でアツい

          カンフーアクション俳優のマックス・チャン(張晋)の話をします。 年が明けて、親戚一同の集まりに粛々と参加し、初詣も行ったりなんかして、それでも合間あいまでめちゃくちゃ時間をもてあます三ヶ日。寝正月ではいけないと思いつつ、これ以上出かける気力も湧かない。寒いし。 そんなときこそカンフーだ!!!!(は????) 年明けのふわふわした頭で難しい映画は見たくないし。しっとりした映画なんて見てたら寝るし。 なんでも中国では『イップ・マン』シリーズ最終章がすでに公開され、スターウ

          マックス・チャンが今、俺の中でアツい

          【ネタバレあり感想】『マリッジストーリー』よかった!!

           「Netflix映画がゴールデングローブ賞最多ノミネート」、「アダム・ドライバーがすごい演技をしている」あたりでもう見るほかないと思っていた。たいして作品数を見ているわけではないが、ぼくはアダム・ドライバーが好きなのだ。とくにジャームッシュの『パターソン』で彼にハマり、何度も見返した。  監督は『フランシス・ハ』『ヤング・アダルト・ニューヨーク』のノア・バームバック。夫のチャーリー役がアダム・ドライバーで、妻のニコールを演じるのはスカーレット・ヨハンソンだ。ノミネートは作品

          【ネタバレあり感想】『マリッジストーリー』よかった!!

          【若干ネタバレ?】『ドクター・スリープ』感想

          ドクター・スリープ 11月29日鑑賞  「モダンホラーの金字塔」といわれる『シャイニング』の40年後の物語、映画『ドクター・スリープ』もまた傑作だった。「原作から乖離している」と原作者スティーブン・キングから批判されしばしば議論を呼んできたキューブリック版『シャイニング』へのオマージュをふんだんに取り入れつつ、あくまで小説「シャイニング」の続編である「ドクター・スリープ」を映像化する。それは一種の離れ業でもあるのだが、マイク・フラナガン監督は絶妙以上の着地を見せてくれた。

          【若干ネタバレ?】『ドクター・スリープ』感想

          【ネタバレなし】『グレタ GRETA』感想

           クロエ・グレース・モレッツ曇らせたい!!!!  そんな作り手の熱い思いが全編を通してありありと伝わってくる、とてもいい映画だった。違ったらごめんなさい。  地下鉄で忘れ物のカバンを拾った女の子が落とし主の未亡人と出会い、それぞれの愛する家族と離別した寂しさがきっかけとなって交流が始まる。年の離れた友人関係というだけでなく互いに母の、娘のぬくもりを求める二人の交流は、しかし一方的に歪み始めて……。『グレタ GRETA』というタイトルはこの未亡人の名前であり、この作品はつまり

          【ネタバレなし】『グレタ GRETA』感想

          『ひとよ』解題(?)【ネタバレ】

           白石和彌監督の『ひとよ』を見てきた。「邦画史上最高傑作誕生」の煽りはやりすぎなんじゃないの、などと思いつつ、色々なライターや映画ファンのレビューや批評なんかを事前に見て、抜群に期待感を高められた状態で劇場に足を運んだ。  それが先日16日のことで、四日ほど「書こうかな、書きたいけど何を書いたらいいか分からないっていうか引き込まれすぎてギャグシーン以外ほとんどメモ書いてないし」と頭を悩ませていた。解題、ということになれれば儲けもの程度の期待を自分にしながら何かを書いていく。

          『ひとよ』解題(?)【ネタバレ】

          【ネタバレなし】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』感想と見どころ

          「お前は橋の下から拾ってきた子なんだよ」  幼いころ両親にそう告げられて大泣きした経験をあなたはお持ちだろうか。幸いにしてぼくにはその経験がない(か、少なくとも記憶にない)。ともあれ世代や地域を超えてよく知られた脅し文句であることは確かだし、それだけ効果が見込める、つまり言われた子はかなりのショックを受けるものなのだろう。  本作に登場しのちに怪人“ブライトバーン”となるブランドン・ブライヤー君はひと味もふた味も違う。彼の場合に直すとしたらこうだ。 「お前は裏の林に落ちてき

          【ネタバレなし】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』感想と見どころ

          『ブルーアワーにぶっ飛ばす』-線路の話-【ネタバレではない】

           京都での劇場公開最終日の手前くらい(確認したら10月23日)に見て、だらだらと感想を書くことを先延ばしにしていた映画にとりかかる。といっても、語りたいのはほんのワンシーンだったりする。他に見どころがなかったとかそういうわけではなく、ここがとにかく刺さった。うまく言葉にならないこの作品の空気感を人に伝えるとしたらここだと思うし、このシーンからいろいろと想像してぼくなりに何か腑に落ちたものがあった。  ちなみにトップの画像は本編とは無関係です。  それがトレーラーにも収録さ

          『ブルーアワーにぶっ飛ばす』-線路の話-【ネタバレではない】

          【ネタバレ】IT/THE END-“それ”の倒し方-

           ネタバレなしの感想(というか何やらよくわからないもの)は既にアップしたので、今度はクライマックスで何が起きたのかぼくなりに解釈したことを書きたい。  再集結した〈ルーザーズ・クラブ〉はそれぞれに降りかかる精神的・身体的な危機を乗り越え、“それ”を滅ぼすための「チュードの儀式」の供物となる思い出の品を持ち寄る。このパートはやや間延びした感はあったし評価が低いのも分からなくはないが、それはさておき。成功するかに思えた儀式はしかしながら失敗に終わり、“それ”は再び自由を取り戻し

          【ネタバレ】IT/THE END-“それ”の倒し方-

          【ネタバレなし】『IT/THE END “それ”が見えたら終わり』雑多なこと

           『IT/THE END “それ”が見えたら終わり』の上映時間は、パンフレットによると169分とある。Twitterや映画情報サイトでの事前情報にも、たしかにそんなようなことが書いてあった気がする。いやマジで? そんなに長かったか? むしろ短く感じるくらいだった。  思えば、二年前に公開された前編のラストで「CHAPTER ONE」とスクリーンに映し出された―今作のパンフレットで原作のキングも言及している―ときからの個人的な待望の作品でもあった。映画館からの帰り道で、原作につ

          【ネタバレなし】『IT/THE END “それ”が見えたら終わり』雑多なこと

          『THE GUILTY/ギルティ』-多分ネタバレなし-

           劇場公開時に見られなかった話題作。ちょうど『[LIMIT]』や『ALONE』、あと『search/サーチ』あたりのソリッドシチュエーションものを何本か見て面白いなと思っていた時のはず。  ソリッドシチュエーションものとは、たとえば主人公が密室に監禁されたりして、舞台となる空間が制限されるなかで展開していく物語のジャンルだ。外部との連絡の制限や身体的拘束、さらに時間的なプレッシャーなんかが加わることで切迫した状況が展開していく。希望と緊張、そして絶望とを行き来する登場人物の

          『THE GUILTY/ギルティ』-多分ネタバレなし-

          『楽園』の祭りのシーン-主役3人以外の「楽園」について-

           映画館で『楽園』を見ながら、何度か半券を見てタイトルを確かめようとした。地獄の間違いだろ。  どこまでも広がる青田の真ん中を、くたびれた農道がひらすらまっすぐに貫いている。遠くに見える街並みは山々をいただき、そのすべてが抜けるような青空に抱かれているようだ。その大きな風景の中に、黄色い帽子をかぶり赤いランドセルを背負った小さなちいさな少女ふたりが道脇の草むらに半ば埋もれながら、シロツメクサの花冠をつくっている。そんなオープニングだったと思う。本編を見終わって、もはや記憶に定

          『楽園』の祭りのシーン-主役3人以外の「楽園」について-