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【若干ネタバレ?】『ドクター・スリープ』感想

ドクター・スリープ 11月29日鑑賞

 「モダンホラーの金字塔」といわれる『シャイニング』の40年後の物語、映画『ドクター・スリープ』もまた傑作だった。「原作から乖離している」と原作者スティーブン・キングから批判されしばしば議論を呼んできたキューブリック版『シャイニング』へのオマージュをふんだんに取り入れつつ、あくまで小説「シャイニング」の続編である「ドクター・スリープ」を映像化する。それは一種の離れ業でもあるのだが、マイク・フラナガン監督は絶妙以上の着地を見せてくれた。
 らしい。残念ながらぼくはまだいずれの原作も読んではおらず、「改変問題」についてざっと知るばかりだ。そんなぼくでも本作を映像化されたキング作品として、映画『シャイニング』の続編として、そしてより重要なことに一本の映画としてとても楽しめた。スティーブン・キング作品を愛すれば愛するほど、キューブリック版『シャイニング』を愛すれば愛するほどもっと楽しめるご褒美的な側面はあっただろうと思うので、いずれ原作を読んで再挑戦したい。ひとまずはキューブリック版だけ見てもう一度見ようかな。

 
 今作では、映画『シャイニング』ではタイトルとしてそのまま採用されつつも要素として放置ぎみだったシャイニング(=特別な精神感応能力)を軸に作品世界を広げ、ダニー(ダン)と恩人ハロラン以外にもシャイニングを持つ者がわんさかいる一方、そんなシャイニングを食い物にする化け物たちもまた存在することが明かされる。化け物は自身らを「真実の絆(トゥルー・ノット)」と称し、シャイニングをもつ者を殺して生気を奪ったり、ときには強力な能力者を仲間に引き入れたりして数世紀を生き永らえる。
 かつての少年ダニーことダン(ユアン・マクレガー)が、絶大なシャイニングをもち「トゥルー・ノット」に目をつけられた少女アブラ(カイリー・カラン)を助け導く形で物語は動き出す。悪玉の主役ローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)もまた強力なシャイニングをもち、両者の対立によって転がっていく物語は半ば能力バトルものの様相すら呈している。

 実の父に殺されかけたトラウマを抱え、母の病没後は転々として孤独に生きるダンが、師ハロランがしてくれたようにアブラを助けようとする。それと同時に自身とあの「オーバールック・ホテル」との運命に決着をつけるのだが、ここに「トゥルー・ノット」との観念的な対立があるのが興味深い。
すなわちは「(血縁の有無をおいて)個々の生命は尽きるが水平的・垂直的に広がり続いていくこと」と、「閉じた輪の中ですべてを共有しながら個として永らえること」という正反対のありようをそれぞれがとる点においてである。
 ダンはホスピスで働き死を見つめ続け、若いアブラは生に満ち満ちている。一方で半ば死を超越した存在であるローズは、風貌以上に超然としており年齢もつかみづらい。またダンはトラウマやアルコール依存に苦しみながら、アブラは他人の心が読めるがゆえの孤独を抱えながらも社会に居場所を求めるのに対して、ローズたちはヒッピーのような装いをしながら獲物を探し求めてトレーラー生活をしている。
 そのどちらがより永久なのか、結論は見てのお楽しみだし、見ても結論は出ないかもしれない。


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