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【ネタバレ】IT/THE END-“それ”の倒し方-

 ネタバレなしの感想(というか何やらよくわからないもの)は既にアップしたので、今度はクライマックスで何が起きたのかぼくなりに解釈したことを書きたい。

 再集結した〈ルーザーズ・クラブ〉はそれぞれに降りかかる精神的・身体的な危機を乗り越え、“それ”を滅ぼすための「チュードの儀式」の供物となる思い出の品を持ち寄る。このパートはやや間延びした感はあったし評価が低いのも分からなくはないが、それはさておき。成功するかに思えた儀式はしかしながら失敗に終わり、“それ”は再び自由を取り戻して〈ルーザーズ〉に襲いかかるのだった。それもそのはず、チュードの儀式で“それ”を滅ぼせることが証明されている=実際に滅ぼしたのならば“それ”が今ここに存在するはずがないのだ。さらに儀式を突き止め〈ルーザーズ〉を先導したマイクが、かつて行われた儀式の結末―失敗し、参加した者は皆殺しにされた―について仲間にあえて伝えていなかったことが判明する。「また失敗に終わるのでは」と皆が思うことで実際に失敗するという最悪の結末を避けたいがゆえの彼なりの行動だったが……といったところでひとつ。

 また戦闘の最中、リッキーが「浮かべられ」ようとしている一方で“それ”もまた動きを止めており、彼を助けて“それ”を殺す千載一遇のチャンスという場面。こちらが抱く恐怖や敗北のイメージを糧により力を増す“それ”を殺すには、なによりまず「殺せる」と信じることが重要に思える。「ピエロを殺せ」。エディは言い聞かせて、槍に見立てた鉄柵の一本を投げて見事命中、“それ”に大ダメージを与えるが、油断した瞬間に背後から胴を貫かれて結果として命を落とす。槍が命中し、もだえ苦しむ敵の姿を見た彼のひと言目は「マジか」だった……というのがふたつ目。

 劇場で鑑賞中、ぼくはつい思ってしまった。「チュードの儀式もマイクも役に立たねえな!!」と。「エディ殺すことないやろ……」とも。チュードの儀式、成功!やったね!では話にならないが、目的が展開を二転三転させるためだけならば必要以上にマイクを愚かにしすぎだしエディに厳しいんじゃないか。チュードの儀式は結果からいって本当に役に立っていないが。

 これらはいずれも、結局のところ、二人ともこの方法で“それ”を倒しきれると100%信じ切ることが出来なかったがゆえの失敗なのだ。一方では儀式の成功率を上げるためとはいえ仲間をたばかった後ろ暗さと、そうまでして目を背けたがゆえに却って深く脳裏に根を下ろした最悪の想像。また一方では、あまりにも凶暴かつ強大な姿をした敵をちっぽけな武器と頼りない自分の力で殺せると信じ込めなかったある意味当たり前の想像力。これらが原因となって、その時点で得られたはずの最良のシナリオを妨げた。

 シーンは続く。

 “それ”が自分たちの恐怖や敗北感を鏡映しにして強大な姿を得るのなら、反対に心の中で徹底的に矮小化してやれば弱くなるのではないか。荒唐無稽にも思えるが、糸口はつかんだ。在りし日のいじめられっ子たちが様々なひどい言葉を浴びせていくごとに、“それ”は巨大な蜘蛛の怪異から見慣れた(?)ピエロ姿に、やがてどんどん小さく弱弱しくしぼんでいくのだった。残された〈ルーザーズ〉は視線を交わすと黙ってうなずき、“それ”の化身の心臓をえぐり出すと重ね合わせた手で握り潰す。

 巷では「レスバトル最弱おじさん」という属性が新たに付加されたといってペニーワイズが早くも玩具にされているようだ。確かにインパクトがあるし、ヒロインの機転から一転攻勢というシーンでもある。しかし重要なのはやはり残された五人が黙って手を取り合うところで、“それ”を萎ませるのはあくまで弱弱しい姿を目にして勝利の確信を得るための下ごしらえでしかない。確信があればこそ言葉はいらない。それはちょうど、ぶつぶつと自分に言い聞かせていたエディとは対照的だ。この描写があって初めて成否を分けたものが何だったのか分かるし、一連の展開に説得力が出るいいシーンだとぼくは思った。


 “それ”との闘いが畢竟、確信を得られるかどうかという勝負だったとまとめたところで。

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 ペニーワイズにプロシュート兄貴、ぶつけてみたくない?

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