見出し画像

【ネタバレなし】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』感想と見どころ

「お前は橋の下から拾ってきた子なんだよ」

 幼いころ両親にそう告げられて大泣きした経験をあなたはお持ちだろうか。幸いにしてぼくにはその経験がない(か、少なくとも記憶にない)。ともあれ世代や地域を超えてよく知られた脅し文句であることは確かだし、それだけ効果が見込める、つまり言われた子はかなりのショックを受けるものなのだろう。
 本作に登場しのちに怪人“ブライトバーン”となるブランドン・ブライヤー君はひと味もふた味も違う。彼の場合に直すとしたらこうだ。
「お前は裏の林に落ちてきた宇宙船の残骸から拾った子なんだよ」
 そもそも彼の場合、本編開始以前に自分が養子であることを知って育ってきたのだが、二度目の発覚となる今回の内容はぶっ飛びすぎている。そのうえ事実はどうあれ、自分が人間にはない力を持っていることにはもう気づいてしまった……。

 平たく言えば、「スーパーマンが、子供時代に悪堕ちしていたらどうなっちゃっていたか」。『ブライトバーン/恐怖の拡散者』は、そんなヴィランの誕生を思春期の到来にありがちな様々なエピソードを通して描いていく超人ホラー作品だ。実際、そうしたイベントをネタバレにならない程度にざっと羅列するとこうなる。
・「大人の男の証」として貰ったプレゼントを「まだ早い」と父親に取り上げられる
・ちょっと優しくしてくれた女の子が気になったり、裏切られた気分になったりする
・マットレスの下に隠したオカズが父親に見つかる
・自分のかっこいいサインを考えて、そのノートを母親に見られる
・帰宅が遅くなり理由を聞かれて嘘をつく …etc
 出来事だけを書いたら本当にこうなる。信じて。

 共感性羞恥というのか、文字列だけでもゾワゾワくるものはある。のだが、本編を見たら輪をかけてゾクゾクすること請け合いだ。またその際、きっと感情的に肩入れしているのはブランドンその人ではなく両親や周囲の人間に対してだろう。裏で起きていることを知るわれわれ観客だからこそ、引っかかりを覚えつつも「まともな大人の対応」をしてしまう彼らにやきもきさせられる。
 というか単純にブランドンに感情移入できない。表情もほぼ変わらないし(褒めてる)。
 そう、これは思春期の少年の癇癪と超人的パワーという二重の不条理にさいなまれる大人たちの物語なのだ。流行りのヒーローとかヴィランとかいうより、怪獣ものや天災パニックのほうが枠組みとして近い。

 肝腎のというか、それぞれの小クライマックスともいうべきホラーシーンの話もしておこう。
 超スピードで瞬間移動しまくるブランドンを視界にとらえられないものの、画面外からの音で嫌なことが起きているのが分かる→ブランドンがはっきりと画面に映ったら確定演出。ぶっちゃけてしまえばこの一点張りと言えばそうなのだが、手を替え品を替えて見せてくれたと思う。
 そんなことより、人体破壊がえげつない。こればかりは目を背けたくなる人がいるかもしれないので注意されたいが、むしろ最終的にこの形に持っていきたいがために多少の不自然をごり押してつくったようなシーンもあるので見どころのひとつだろう。これがアニメシリーズだったなら、各話で異なる破壊描写が盛り込まれて、ひょっとするといわゆる処刑用BGMなんかもあったかもしれないというほどだ。

 ホラーとしての怖さはない。「スーパーパワーで次は一体どんなことをしてくれるんだろう」という怖いもの見たさの興奮と、破壊描写のインパクトはかなりあった。あとは随所が本当に元ネタのスーパーマンそのままでクスッときたくらいか。そんな総評。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?