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【ネタバレなし】『IT/THE END “それ”が見えたら終わり』雑多なこと

 『IT/THE END “それ”が見えたら終わり』の上映時間は、パンフレットによると169分とある。Twitterや映画情報サイトでの事前情報にも、たしかにそんなようなことが書いてあった気がする。いやマジで? そんなに長かったか? むしろ短く感じるくらいだった。
 思えば、二年前に公開された前編のラストで「CHAPTER ONE」とスクリーンに映し出された―今作のパンフレットで原作のキングも言及している―ときからの個人的な待望の作品でもあった。映画館からの帰り道で、原作についてネットで検索して第二章の存在を知った(ついでに、あらすじとオチを知ってしまった)。たびたび上がってくる情報や公開されたビジュアルに歓喜したりもした。
 はっきり言って、主人公のグループ〈ルーザーズ〉の後ろに立ったつもりで見たときの主観的な恐怖は前編よりだいぶ縮小している。しかしながら、『IT』の魅力はそれが無茶苦茶に怖いホラーでありまた、あるいはそれ以上に冒険と成長の物語でもあることだ。その点でいえば今作は、前編以上に濃厚で深刻で悪辣で、最後には爽快感を得られる映画だ。きっと前編に引き続き見た人はそれぞれ様々な感想を抱きつつも、「ようやく終わったね」と知らない者同士でも顔を見合わせることが出来ると思う。爽快感というのはそういう意味だ。
 大人になった〈ルーザーズ〉は子供時代の誓い(同時にこれは“それ”との因縁という呪いでもある)に従って“それ”と戦い、同時にそれぞれの問題に進展や決着を見出した。ぼくもまた、あの「CHAPTER ONE」の字幕によって『IT』の呪いにかかったのかもしれない。第二章ってどんな話になるんだろう? これよりもっと怖いってこと? 二年前に抱いたそんな好奇心(ホラーにおいて、好奇心は命取りでもあり物語のエンジンでもある)に突き動かされてまんまと映画館に足を運んだぼくは、少なくとも制作陣のいい食い物ではあっただろうが。

 そんな好奇心のひとつめがキャストだった。作中では“それ”の再来までに27年の歳月が経ったが、現実では二年である。大人になった〈ルーザーズ〉は違う役者が演じるほかない。仮にどれだけ違う顔が出てきたとしても、話の筋や名前から頭では同じ人物だと理解できるだろうがしかし……と、正直思っていた。しかし監督が「同じ目をしていること」にこだわったと語り、そこを強調したビジュアルも出たほどのキャスティングが公開されてびっくり。さらに本編でエディやリッチーを見たときには笑いすらこみあげてきた。脱帽だ。
 全然本筋に関係ないけど、〇〇〇まで出てくるし。

 その二・ホラー。上にも書いたが、怖さはそこまでパワーアップしていないというか、もっと言えばパワーダウンしているというか。しかしこれには納得できる理由があると思うのだ。ぼくの偏った見方でないと信じたいが、①まさに恐怖を感じているところの登場人物に移入するか、②死角から迫る脅威に観客だけが気づかされている、というのがスリラーシーンの一般的な呈示方法だろう。②はまだやりようがあるが、①にかんして、〈ルーザーズ〉はすでに“それ”を「わけのわからないもの」「敵いっこないもの」だと認識していないし、トラウマに訴える手口も知り尽くしている。平たく言えば、逃げる足もあれば化身の姿かたちによっては暴力でも抵抗できるのだ。ではどうやって彼らを恐怖させしめるのかといったところで、とにかくビジュアルやそれ以上の暴力に全振りしている。それらに直面して彼らが抱くのは、前編で自分用にあつらえられた絵画の女の化身に対してスタンリーがまんまと抱いた恐怖心とは違う。生理的嫌悪や単純な命の危険のほうが勝ってくるはずだ。とはいえ、それが怖くないわけではないどころか一部は本当に目を覆いたくなるものもある。しかしそこで展開しているのは、恐怖でもてあそぶ捕食者とその獲物という構図ではなく、“それ”の憎悪こそ際立つがあくまでクリーチャー退治だとも言える。
 一方で、“それ”への敵対者としての〈ルーザーズ〉ではない被害者もまた存在する。あくまでホラーを追求するならば、そちらのシーンを深掘りして打ちひしがれるのがいいのでは? いいのではってなんだ?

 その三・冒険と成長といきたかったが、これについて本筋に立ち入らずに語るのはさすがに難しい。よってネタバレというか、すべて見たうえで本編の構成や設定の意味、めちゃくちゃだがめちゃくちゃなりに筋が通っている点など色々考えたことを別の記事にしたい。

   なんにせよ、そんな前編から引きずって高めに高めた期待をそれなりに納得できる形でしっかり料理してもらえたことに、映画自体の出来もさることながら、たしかな満足を得たといったいうのが感想。前後編連続上映とかやってるところないですか?

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