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【ネタバレなし】『グレタ GRETA』感想

 クロエ・グレース・モレッツ曇らせたい!!!!
 そんな作り手の熱い思いが全編を通してありありと伝わってくる、とてもいい映画だった。違ったらごめんなさい。

 地下鉄で忘れ物のカバンを拾った女の子が落とし主の未亡人と出会い、それぞれの愛する家族と離別した寂しさがきっかけとなって交流が始まる。年の離れた友人関係というだけでなく互いに母の、娘のぬくもりを求める二人の交流は、しかし一方的に歪み始めて……。『グレタ GRETA』というタイトルはこの未亡人の名前であり、この作品はつまりグレタさんが怖すぎるサイコスリラーとなっている。イザベル・ユペール演じるこのグレタの怖いことといったら。
 スリラー映画を何本かでも見たことがあればだいたい想像がつくだろう。画面奥の暗闇や、片側を見つめる登場人物のまさに逆サイドの画面外。徐々に高まる音楽、あるいは音楽が途切れて訪れた静寂に堪えきれなくなってきたまさにその瞬間。そういった「来るぞ」という瞬間は必ず存在するし、そこで実際に何かが起こる場合も、何も起こらず気を緩めれば次のシーンが本命である場合もある。
 そうした「瞬間」を外さない。外さないどころか、こちらが処理しきれていないのにガンガン畳みかけてくるタイプの最恐の未亡人はしかし、静かにたたずんでじっとこちらを見つめているだけという場面がひじょうに多い。だというのに、それがめちゃくちゃ怖い。むしろ激昂してくれたなら「もうこれ以上おどかされずに済む」と一息つける、そんな塩梅ですらある。ピントさえ合っていないのにそこにはっきりと存在する、そんな恐怖もあるのだと思い知った気分だ。

 スリラー映画である以上そちらがメインの見どころともなろうが、怖い目に合うほうのリアクションもまた表裏をなす見どころのはずだ。その点で、冒頭で叫んだのが僕の本作についての心からの感想である。
 One more say!!
 クロエ・グレース・モリッツ曇らせたい!!!!
 クロエ演じるフランシスのハッとして怯える表情も、グレタを拒絶する決然とした表情も、パニックになっても激昂しても打ちひしがれて背中を丸めてもどうしたって顔がかwもとい、どの表情も生々しく哀れで、なにか聞こえが悪いがあえて言うと犠牲者としてひじょうに“そそる”のだ。
 公開(11/8)からこれ(11/20)だけ経ってから見ておいてなんだが、こればかりは見てくださいというほかない。

 脚本についても、「畳みかけてくる」と上述した通りの濃密ぶりに、さらに畳みかけるどんでん返しの連続で上映時間の五割増しで長く感じたほどの満足感だった。ありがちな「ホッとさせてからドーン」を本当にさまざまなレベルで使い分けてくるので楽しい。あまり多くを語れないが、いくつものバッドエンドとグッドエンドを見せてもらったようで、どこかアドベンチャーゲームじみてもいた。

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