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ウサギ仙人の子育て術③(ポジティブ思考)絶望しそうな瞬間にこそ

ウサギ仙人(ウ仙)にポジティブ思考について伝授してもらった亀子であったが、

亀子「ところでウサギ仙人様は、ポジティブ思考をどのように実践されているのですか?」

ウ仙「昨年末のことなんじゃがな。イギリスに留学している長男に会うために、次女と一緒にロンドンに向かったんじゃ」

亀子「相変わらずグローバルな兄妹ですね」

ウ仙「わしはヨーロッパに行くときは、マイルの関係で必ずKLMオランダ航空を使うことにしておってな。夜半に関西国際空港を飛び立って、まずはアムステルダムのスキポール空港に現地時間朝6時に到着した」

亀子「そこで乗り換えですか?」

ウ仙「そうじゃ。しかしロンドンのヒースロー空港行きの便は夕方18時に飛ぶので、12時間も時間があった」

亀子「空港にいるのは退屈ですよね」

ウ仙「そうなんじゃ。わしは何度もアムステルダムに行ったことがあってな。中央駅までわずか15分じゃし、次女はオランダに行くのが初めてじゃから、ちょっと入国してしまおうと思ったんじゃ」

亀子「娘さんはいくつなんですか?」

ウ仙「小学校3年生じゃ」

亀子「たしかフィリピンやシンガポール、バングラデシュに行ったことがあるって仰ってましたよね。また小学生低学年にして、アジア・ヨーロッパに行ったことがあるという恐るべし兄妹ですね」

ウ仙「わしはウサギ仙人なんじゃが、オランダといえば元祖ウサギキャラクターのミッフィー発祥の地でな。アムステルダムから20分程度でいけるユトレヒトという街にあるミッフィー博物館に行くことにしてな」

亀子「へー。ミッフィー博物館って何があるんですか?」

ウ仙「ミッフィーの絵本の中身が体験できるようなコーナーがたくさんあるんじゃ」

ミッフィ―作者のディック・ブルーナ
色を識別するためのコーナー
歴代ミッフィーの絵本展示コーナー

亀子「へー。私も子どもを連れて行ってみたいですね」

ウ仙「まぁ2~6歳くらいの子が楽しむようなところじゃな。うちの次女はもう大きくなりすぎていた感があったな」

亀子「小さいうちにオランダですか。ハードルが高いですね」

ウ仙「ここに行った後に、今度はアムステルダムのほうに移動してな」

亀子「オランダの首都ですね」

ウ仙「アンネフランクの家があるので、そこに行こうと思ってな。ただ朝からずっと重い荷物を背負っていたので、ちょっと休もうとアムステルダムの中心地のダム広場に行ったんじゃ」


アムステルダム・ダム広場

亀子「人とハトがいっぱいですね」

ウ仙「ここはオランダ人も観光客も集まる場所でな。ここでベンチに座って休んでおったら、オランダ人からスマホを渡されて『写真を撮ってくれませんか?』と話しかけられた」

亀子「地元の観光客の方ですかね」

ウ仙「いや、あれは観光客というより地元の住人という感じじゃったんじゃが、言われた通りにスマホで写真を撮ってあげた」

亀子「ウサギ仙人様は親切ですね」

ウ仙「すると『写真がとれてるか確認するからちょっと待っててくれ』と言ってスマホを確認しだしたんじゃ」

亀子「せっかく撮ってあげたのに、疑うなんて失礼ですね」

ウ仙「しばらくしてから『OK。ダンクウー(オランダ語でありがとうの意)』と言って立ち去って行った」

亀子「よかったですね」

ウ仙「それで気づいたら、わしの足元に置いておいた荷物がなくなっているのじゃ」

亀子「ええーーーーーーーーーーー!!」

ウ仙「実は写真の確認は、仲間が荷物を置き引きするための時間稼ぎじゃったんじゃ」

亀子「・・・・荷物には何が入ってたんですか?」

ウ仙「パスポートからイギリス行きの航空券まで重要な物はすべて盗まれてしまった。ホテルの予約をしていたパソコンやわし自身の着替え、Wi-Fiのルーターや持ち合わせていた現金(日本円)も一緒にすべてなくなってしまった」

亀子「出国できないじゃないですか」

ウ仙「その通りじゃ。そして写真を撮る時に横に立っておった次女に『カバンがなくなった。あやしい人見なかった?』と聞いたら、次女も状況がわかっておって『わからない。もう日本に帰れないよー』と泣き出してしまった」

亀子「絶望しかありませんね」

ウ仙「その瞬間、

わしが絶望すれば次女を絶望のどん底で不安にさせるだけ

だから、すぐに荷物をあきらめて『大丈夫、イギリスにはいけなくなったけど、日本には必ず帰れるから。一緒に帰ろうね』と声をかけたのじゃ」

亀子「ウサギ仙人様はどんな精神力してるんですか?」

ウ仙「実はわしも海外旅行の中でいろんな国に行ったことがあるのじゃが、荷物やパスポートや財布を無くすのは、初めての経験だったのじゃ」

亀子「私なら、それだけたくさんの物を失ったというショックで立ち直るのに一か月はかかりますよ」

ウ仙「しかし日本国内ならいざ知らず、海外では盗まれたものが帰ってくるなんてことは期待できんのじゃ。それならば、

気持ちを切り替えて、前見よう

と」

亀子「でも何もない状況でどうやって帰ってきたのですか」

ウ仙「携帯は盗まれずに済んだので、日本の知り合いに電話をかけて、在オランダ日本大使館の電話番号を調べてもらった」

亀子「パスポートを再発行してもらわないといけないですものね」

ウ仙「大使館に電話をすると、『今日はクリスマス休暇だから明日来てください』と言われた」

亀子「日本大使館なのに、クリスマス休暇ですか・・・」

ウ仙「それは仕方のないことなんじゃ。それよりも問題は大使館が首都のアムステルダムにあるのかと思ったら、デンハーグという電車で1時間くらいの場所にあるというのじゃ」

亀子「どうやってそこまで行ったのですか?」

ウ仙「幸い財布は盗まれずに済んだのじゃ。クレジットカードがあるので、なんとかそれで電車を乗り継ぐことはできた」

亀子「でも次の日に行くって、その日の宿なんかはどうしたんですか?」

ウ仙「大使館に電話をした後、乗り換えようと思っていた飛行機に別の着替えが入った荷物を預けているのを思い出してな。とりあえず飛行機が飛び立つ前に取り戻さないとイギリスに荷物だけ行ってしまうことになるから、急いで空港に向かった」

亀子「乗り換え途中で荷物を返してくれるんですか?」

ウ仙「KLMオランダ航空のヒースロー行きのカウンターに行って、スタッフに事情を説明した。そしたら『警察署に行ってポリスレポートを発行してもらわないと、荷物は返せない』と言われてしまった」

亀子「警察署に行ったんですか?」

ウ仙「いやアムステルダムの警察署を往復してたら、飛行機の出発に間に合わなくなるので、そこはスタッフに食い下がった。『必要なのならポリスレポートを後で見せに来るので、荷物だけ先に返してほしい』と」

亀子「で、どうなったんですか?」

ウ仙「空港の中に入れてくれて、『11番のベルトコンベアから荷物を出すから、その前で待ってろ』と言われた」

亀子「荷物はどうやって探してくれたんですか?」

ウ仙「名前と便名を言ったら、航空券は再発行してくれて、そこから荷物の番号を検索してくれたみたいじゃな」

亀子「荷物は無事に帰ってきたんですか?」

ウ仙「1時間以上待っても出てこなくて、飛行機の出発時間間際になったので、スタッフに言いに行っても『探してるから、とにかく待ってろ』と言われるだけじゃった」

亀子「お願いしている立場ですから、どうしようもないですね」

ウ仙「そして2時間くらい経って、次女が『出てきたよ』と指さして見つけたのじゃ」

亀子「よかったですね」

ウ仙「もう19:00近くになっておった。ヨーロッパの冬は日が短いので、もちろん外は真っ暗。その足で今度は荷物を持って、アムステルダム中央駅に移動した」

亀子「そのまま警察署に行ったんですか?」

ウ仙「次女が一日中歩き回って、かなり疲れていたので、先にホテルを取って部屋で寝かせてから警察署に行こうと思って、アムステルダム中央駅前のIBISホテルに行ったのじゃ」

亀子「ホテルは取れたんですか?」

ウ仙「パスポートがないとダメだと断られた。ここは事情を話しても『警察署へ行ってポリスレポートを発行してもらわないと部屋は確保できない』と突っぱねられた」

亀子「それには従った?」

ウ仙「仕方ないのでな。そこから歩いて10分くらいのところに警察署があったので、行ってみた」

亀子「ポリスレポートって簡単に発行してもらえるんですか?」

ウ仙「なんと警察署に張り紙がしてあって『19時から20時まではディナータイム』と書いてあったんじゃ」

亀子「もう心が折れますね」

ウ仙「そこも気持ちとして『警察が飯なんか食ってる場合かよ』という思いはあるが、それがその国のルールなら従わないといけないから、次女に『ご飯を食べに行こうか』と言って、近くのイタリア料理の店に行った」

亀子「ウサギ仙人様の切り替えがすごいですよね」

ウ仙「それから20時を過ぎて、警察署に行ったら、事情聴取が始まった」

亀子「それって日本語は通じるんですか?」

ウ仙「もちろん英語じゃよ。犯人の年齢や来ていた服の色、どんな風貌だったかなどいろんな質問をされた。荷物に入っていたものもすべて聞かれて、日本の住所や連絡先もすべて書類に記入しなければならなかった」

亀子「それだけでも大変な作業ですね」

ウ仙「それからその事情聴取を基に、ポリスレポートをパソコンで作成してくれるんじゃが、ものすごく時間がかかってな。できる頃には22時も過ぎておった」

亀子「娘さんはずっと待っていたんですか?」

ウ仙「荷物を枕にして、ベンチで横になって寝てたよ」

亀子「健気な娘さんですね」

ウ仙「そしてそのポリスレポートを持って、IBISホテルに戻ったら、部屋は空いておった。しかしクレジットカードの機械がうまく作動しないので、『現金払いでないと泊まれない』ということになってしまった」

亀子「えーーーー!一難去ってまた一難どころか、一つ一つに二難も三難もやってきますね」

ウ仙「そうなんじゃ。仕方がないので、アムステルダム中央駅内にキャッシングマシーンがあるのは知っておったから、次女をそのホテルのフロントに置いて、中央駅に現金を引き出しに行ったのじゃ」

亀子「なんとか宿泊できたのですね」

ウ仙「それが、キャッシングマシーンは21時までしか営業していないかったのじゃよ」

亀子「えーーーーー!もう何もかもうまくいかないですね」

ウ仙「構内地図を確認したら、中央駅の中には全部で12台のキャッシングマシ―ンがあった。24時間やっているものもあるはずだと思って、すべてしらみつぶしにあたったのじゃよ。最後の12台目でなんとかユーロを引き出すことができたのじゃ」

亀子「運の良さがハンパじゃないですね」

ウ仙「こういう状況の中ではスラムダンク・安西先生の『

あきらめたら、そこで試合終了ですよ

』なんじゃよ。

一喜一憂せずに、やるべきことを一つ一つやっていくしかない

んじゃ」

亀子「その精神力には驚かされます」

ウ仙「こうしてなんとかホテルに泊まることができたのじゃ。次女はすぐに寝てしまった。わしも疲れてはおったが、次の日の大使館訪問に向けて考え事をしていたら、まったく寝れなかったのじゃ」

亀子「不安はなかったのですか?」

ウ仙「不安は多少あったが、パスポートを無くして帰国できなくて永住したという話は聞いたことがないからな。『なんとか帰れるだろう』とは思っておった。しかしこんな時に限って海外旅行保険に加入してなかったので、帰りの航空券代など少なくとも数十万の損失は覚悟しないといけないということはベッドの中で考えておった」

亀子「私なら疲れで押しつぶされそうです」

ウ仙「次の日の朝は、次女を早めに起こして、9時の大使館開館に向けてアムステルダムを出発したのじゃ」

亀子「ゆっくり寝かしてあげたいですけどね」

ウ仙「役所の窓口というのは時間がかかるのでな」

亀子「なるほど」

ウ仙「まだ真っ暗な中、パスポートに代わる帰国のための渡航書という書類を発行してもらうために写真がいるので、中央駅でそれを撮って、デンハーグに向かった」

亀子「日本大使館はすぐに見つかったんですか?」

ウ仙「細かい場所まではわからないから、タクシーに乗って大使館に行ってもらった」

亀子「帰国のための渡航書というのは発行してもらえたのですか?」

ウ仙「いや『帰りの航空券を確保しろ』と言われた。というのも、帰りはロンドンからパリ経由で帰るエールフランスの便を予約していたんじゃよ。帰りの便の経由地をその書類に書かないといけないということでな」

亀子「どうやって取ったんですか?」

ウ仙「日本にいる家族に連絡して、ANAのホームページからフランクフルト経由の羽田帰国便を確保してもらった」

亀子「羽田?関空に帰ってくるのではなかったのですか?」

ウ仙「帰国をしてしまえば、国内はなんとかなるのでな。次の日のアムステルダム出発便はそれしかなかったんじゃ」

亀子「それで帰国のための渡航書を発行してもらえた」

ウ仙「今度は『発行する機械が調子悪くなったから、少し待ってくれ』と言われた」

亀子「運が良いのか、悪いのかわかりませんね」

ウ仙「そうしているうちに昼休みの時間になってしまった。役所だから12時から13時までは昼休みなんじゃよ」

亀子「待ってたんですか?」

ウ仙「わしだけなら、そのまま待っておくんじゃが、次女に昼ごはんを食べさせないといけないのでな。大使館のスタッフに聞けば、歩いて15分くらいのところに食料品を売っている店やレストランがあるということだったので、次女を連れてそこに行った」

亀子「昼ごはんは無事に食べれたのですか?」

ウ仙「わしは何も食べる気がしなかったので、スーパーで次女が食べたい物をだけを買って、近くの教会の入り口のベンチに座って、食事を食べさせたのじゃよ」

亀子「なんかわびしいですね」

ウ仙「帰国するためには何でも耐えるしかないと思って過ごした」

亀子「昼休みが終わって、無事に発行してもらえたのですか?」

ウ仙「13時過ぎに戻ったら、機械が直ったということで、発行してもらえた」

亀子「これで帰国できますね」

ウ仙「大使館員から『ところでコロナワクチンは3回以上受けましたか』と訊ねられた」

亀子「なんて答えたんですか?」

ウ仙「わしは2回しかうってないし、次女は1回もうったことがなかった」

亀子「まさかPCR検査しろと」

ウ仙「その通りじゃ。『PCR検査は空港で受けられるのか』と聞いたら、『空港の検査場は中国人がやっていて、日本に帰っても結果を信用してもらえない』と言われた」

亀子「じゃどうしたんですか?」

ウ仙「『アムステルフェーンという日本人が多く住んでいる街に、いい検査場があるからそこに行ったほうがいい』と言われた」

亀子「そこに行ったんですか?」

ウ仙「仕方がないからな。連絡先を教えてもらって、電話をかけたら英語で道順等を教えてくれた」

亀子「よかったですね」

ウ仙「しかし実際に検査場に行こうと思ったら、アムステルダム南駅からバスに乗って、あるバス停で降りてそこから歩いて30分以上もかかる場所だったのじゃ。通りの名前をすべて教えてもらって約束の時間に間に合うように行くのはなかなか骨が折れることじゃった」

亀子「何もかもがスムーズにいかないですね」

ウ仙「そうじゃな。PCR検査が終わったら、医師から『検査結果をメールで送るからメールアドレスを教えてくれ』と言われたのじゃが、わしはパソコンを盗まれているからメールが見れないのじゃ」

亀子「どうしたんですか?」

ウ仙「結果をプリントアウトして紙媒体で渡してほしいとお願いした。そしたら『結果が出るまで2時間待たないといけない』と言われたんじゃ」

亀子「えーーーー!また待ち時間2時間ですか?」

ウ仙「『ところでどこのホテルに泊まっているんだ?』と聞かれ、駅前のホリデイインホテルに荷物を置いてきたので、それを伝えたら『2時間後に持って行ってあげる』と言ってくれて、なんとか待たずに済んだ」

亀子「なんとかなるんですね」

ウ仙「ホテルに戻ったら、『これでようやく帰る準備が整った』と思ったら、さすがに疲れが出て、寝てしまったのじゃ」

亀子「検査結果はどうなったのですか?」

ウ仙「翌朝、レセプションに問い合わせたら、預けてくれておった」

亀子「いい医師でよかったですね」

ウ仙「それで次の日にアムステルダム・スキポール空港からANA便でフランクフルト経由で羽田空港に戻ってきた」

亀子「やっと帰国できたんですね」

ウ仙「窓から東京の街が見えた時は、『戦後の引き揚げの人たちもこういう気分だったのかな』と思ったほどじゃったよ。もちろん引き揚げの人たちはわしの何十倍も苦労してるんじゃろうがな」

亀子「いやー、苦労話を聞いていたら、びっくりしますよ」

ウ仙「余談じゃが、フランクフルト空港到着も遅れてな。30分しか乗り換え時間がなかった。案の定、荷物の乗り換えができておらず、人生初のバッゲージロストも経験した」

亀子「踏んだり蹴ったりですね」

ウ仙「まぁ大変じゃったが、

苦労を乗り越えると、次女とは絆ができるな

亀子「娘さんはよく耐えましたね」

ウ仙「たしかに忍耐強い子になったと思うな。大人でも経験したことのない3日間を過ごしたからな」

亀子「ウサギ仙人様の切り替えもすごいですけど、娘さんの忍耐力にも驚きですよ」

ウ仙「さすがに次女も『しばらくは海外に行きたくない』とは言っておるな。しかし結婚式のときの親への手紙のネタをこれになるんじゃないかというくらい密度の濃い時間を過ごすことになったのじゃ」

亀子「帰ってこれたから、笑い話にできることですね」

ウ仙「海外じゃから、

一つ一つがうまくいかないことだらけじゃった。しかしそれも後から見れば『いい経験になる』という思いで、やるべきことをやった結果

じゃな」

亀子「こんな話は他では聞けないですよ。本当にウサギ仙人様と娘さんのポジティブ思考には、頭が下がります」

またこれで亀子のウサギ仙人に対する見方が変わった。(つづく)

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