マガジンのカバー画像

掌編小説

16
掌編小説を纏めました! サクッと読めるので、ちょっとした時間に(*´-`)
運営しているクリエイター

#掌編

幸せを頬張る

【写真で掌編小説】

「幸せを頬張る」

もったいないことをした。

今日の昼食はオムライスを食べてしまった。

ダイエットをしているのに、帰り道でこんなに美味しそうなパンケーキを見つけてしまうとは。

隣を歩く友人がパンケーキの看板に反応した。

「ちょっと寄ってみる?」

その言葉に頷く。

お店の中は甘い香りに溢れていた。

鼻先をくすぐる香りに絆される。

友人はパンケーキを頼み、私はアイ

もっとみる
吹き抜ける風のように

吹き抜ける風のように

【写真で掌編小説】

「吹き抜ける風のように」

夜から朝へ、朝から夜へ。

移ろいを繰り返しながら進んでいく。

ある人は新しい足跡を未来と呼び、振り返った足跡が過去だと言う。

けれども、これまでの足跡に、もう一度足跡を重ねてみる。

すると、先ほどまであった綺麗な一つの足跡が、不恰好で大きな足跡へと変わった。

そうか……。

未来は新しい足跡を刻む事ではない。

時間を刻む事なのだ。

もっとみる
黒猫のざわめき商店

黒猫のざわめき商店

【写真で掌編小説】

「黒猫のざわめき商店」

「いらっしゃい」

振り返ると、ざわめきがあった。

道を歩くのは黒猫と僕。

「君が言ったのかい?」

黒猫は「にゃあ」と応え、ざわめきの中へ向かう。

後ろを付いていく。

迷いそうなほどの緑に囲まれると、黒い野良猫は木陰に寝転んだ。

隣に座りなよ、と言われた気がした。

僕は黒猫の横に腰掛け、時間を過ごす。

黒猫は自由に毛づくろいをする。

もっとみる
思い出の味

思い出の味

【写真で掌編小説】

「思い出の味」

初めて食べたキャンディクッキーはとても甘かった。

これまで、クッキーは少ししょっぱいものだと思っていた。

けれど、ステンドグラスのような透き通ったキャンディは甘く、クッキーのしょっぱさよりも勝っていた。

君が必死になって作ってくれたのは、今でも覚えている。

台所を占拠し、何人も立ち入らせないようにしていた。

初恋の相手に渡すのだとい

もっとみる
三月は待ち遠しく、四月は切ない

三月は待ち遠しく、四月は切ない

【写真で掌編小説】

「三月は待ち遠しく、四月は切ない」

 三月の半ばを迎えると、外の桜並木に蕾はついていないかと心待ちにしてしまう。

 校舎の窓越しに見る桜は、まだまだ咲く気配がない。

 この桜に会える時間は、もうあと少ししかない。

 待ち遠しい桜と、幾ばくもない時間に心は惑う。

 そして、芽吹きを覚える時間を過ぎ、蕾を開くと、私たちは別れを迎えた。

「もうこの季節に出会えることは

もっとみる
魔法よ、とどけ

魔法よ、とどけ

【写真で掌編小説】

「魔法よ、とどけ」

 いつもと同じ。ほとんど変わらない。

 君との距離も何も変わらない。

 隣を歩いていても、宙を泳ぐ手を掴むことも出来ない。

 でも、今日は友達に魔法をかけてもらった。

 私はいつもとほとんど変わらない。

 左手にそっと添えてもらったネイルは勇気の印。

 今日こそ、君に言わなきゃ。

 左手を見つめて自分におまじないをかける。

 す

もっとみる