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「万能感」と「現実感」の狭間で

 誕生したばかりの赤ん坊は、自分の命を維持するために、自分の身にふれるもの、身の回りでおきたこと、それが自分にとって安全なものか、必要なことかを判断しようとする。それは命を守るために無意識になされるもので、発達初期には、快か不快かの判断だけが、本能的・反射的になされていってもよい。まだ自他の区別がつかず、自分が意図して必要なものを求めたり、確かめることができない赤ん坊にとって、快いものは自分に取りこまれ、不快なものは排除されることで命が守られる。
 本能によって命が守られながら、神経系や筋・骨格系とその機能の発達にともなって、ひとは自分以外の世界(他者や事物)を自覚するようになる。自分の思いどおりにならない自分以外の対象の自覚は、同時に自分との出会いのはじまりでもある。そうして泣けば魔法のように希望がかなう、すべてが自分を中心に動いているような幻想の世界(魔術的な有能感に満たされた絶対依存の世界)から、限界のある現実世界への移行が始まる。

○現実原則の発達

 自分で歩いて移動することが可能になると、対象に能動的に働きかけることができるようになり、経験は飛躍的に増える。同時に、自分の意志により対象に働きかけるときの自己の影響や限界も自覚するようになる(現実原則の発達)。この時期には、自分の能力の不足は遊びを通して空想の中で補われ、現実原則によって有能感が大きく損なわれることはない。スーパーマンになったりお姫様になったり、「ごっこ」という空想の世界に遊び、空想と現実という2つの世界を行き来する。子どものごっこ遊びは、実際に自分に力がつくまでの移行対象として、現実の生活への大切な架け橋となる。

 身体や認知機能が発達し、道具を使いこなすことができるようになることで、ひとは自分の力や技術の不足を道具で補う。「ごっこ」遊びにより代償していた空想の世界の有能感は、道具を使うことで現実的なものとなる。そして成長にともない、発達を促す遊びから学習へ、さらに現実世界における生活の基盤となる生産的活動へ、未熟な自己愛を満たし青年期の自己同一性の苦悩の時期を支える創造活動から昇華された芸術活動や趣味活動へと、作業・作業活動は成長のプロセスに応じて役割を変えながら、ひとの発達と生活を支える。

※引用、一部改変:精神障害と作業療法【新版】 病いを生きる、病いと生きる 精神認知系作業療法の理論と実践 (著)山根 寛

※(補足)個人的に重要だと判断した箇所を太字にしています。


 人格の成熟について思うことが、そっくり言語化されていたので引用させてもらいました。

 過去にも成熟ついて考えており、それを記事にしています。

 成熟の一つの目安として「快楽原則」からどれだけ「現実原則」に移行できているかだと思います。

 現実原則に移行するには、自分以外の他者の意識を認識し、「自他分離」を身につけることや、自分の立ち位置を俯瞰できる視点を持つことが必要に思えます。

 ASDを抱えていると「部分にとらわれて全体として総合的に考えることが苦手」とされています。ですので、自分の立ち位置を能動的に俯瞰することが難しく、成熟が遅れてしまうと個人的に感じます。

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633453.pdf

※厚生労働省 令和元年度就労準備支援事業従業者養成研修 発達障害の理解

厚生労働省

 とはいえ、歳を重ねるごとに人格が未熟であることは、かなり生きづらいので、学習を重ねて、少しでも「生きづらさ」を和らげていきたいです。

 歳を重ねても「万能感」に縛られる状態は、現実とのギャップがある場合は尚更辛いのではないでしょうか。
 肩肘を張らないような「地に足をつける」方法を今後も模索していきたいです。



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