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【今週の1冊】2021年3月①『生物多様性を問いなおす-世界・自然・未来地の共生とSDGs』高橋進(ちくま新書)

突然だが、生物多様性という言葉をご存じだろうか?

一言でいえば多様な生物が存在しているということだ。具体的には①遺伝子の多様性、②種の多様性、そして③生態系の多様性が含まれている。

生物や環境を学んでいる人はおそらく何度も聞いた言葉だと思うが、以前どこかで、この言葉の世間一般での認知度が意外と低いということを聞いたことがあり、とても驚いたことを覚えている。本書でも言及されているが、私たちは日々の生活(特に消費活動)のなかで世界の生物多様性に多大な影響を及ぼしている。また仕事柄、直接的に生態系の改変に関わっている人も少なくないだろう。そんな中でこういった知識が知られていないというのは、とても恐ろしいことではないだろうか?

本書では、様々な環境政策や環境に関する国際会議に関わってきた著者が生物多様性に関するトピックを解説し、自然共生社会の実現に向けた考え方を提案している。具体的には、先進国と途上国の間の問題、自然保護と先住民の問題、環境倫理、将来に向けた取り組みといったことについて豊富な具体事例を解説し、それらをもとにタイトルにもある「3つの共生」の考え方を提案している。

なかでも先進国で暮らす私たちにとって、先進国と途上国の間の問題、すなわち南北問題についての部分は、ショッキングであるとともに知っておかなければいけないことのように思える。先進国の発展の裏には、途上国からの生物資源の略奪(バイオパイラシー=生物資源の海賊行為)があったと言える。現代においても、資本主義の経済原理の下でこの状況は続いており、そうして得た利益は途上国の人々に還元されない構造になっている。例えば東南アジアではエビ養殖のために貴重なマングローブが破壊されているが、その主な輸出先は日本である。また、私たちがよくバーベキューで使っている東南アジア産の木炭は多くがマングローブ由来だ。マングローブは生物多様性が高いだけでなく防災林としての機能も高く、その破壊は現地で暮らす人々が得られる自然の恵みを大きく減少させることにつながる。いいものが安く手に入るということの裏には往々にしてこのような構造があり、私たちも知らず知らずのうちに加担しているのだ。

本書ではこの他にも多くの事例を通して、生物多様性についての理解を深めることができる。また、最近話題のSDGsとのつながりも解説されている。とてもわかりやすく、専門知識が無くても理解できる内容となっているので、読み物として、またこうした分野に興味がある人のための入門書としてお勧めの1冊だ。




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