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【今週の1冊】2020年11月⑤『正義の生物学 トキやパンダを絶滅から守るべきか』山田俊弘(講談社)

現在、地球は第6の大量絶滅の時代と言われ、史上かつてない速さで生物が地球上からその姿を消している。その主たる原因が人間活動であるということはもはや疑いようがなく、絶滅の危機に瀕した生物の保全は緊急の課題であるとされる。

私たちも日々ニュースを見る中で、何かしらの生物が絶滅しそうだと知るとなんとなくヤバい感じがしたり、絶滅したと知るとなんとなく残念な気持ちになったりする…。生物を保全することがよいことであるということは多くの人の共通認識としてあるだろう。

しかし、そもそもなぜ私たちは生物を保全するのだろうか?本書ではそんな根本的で答えのない難しい問題に挑んでいる。具体的には、保全不要論、人間中心主義、人間非中心主義という、生物の保全に対する3つの立場について順に解説し、それぞれの問題点などについて考察している。

例えば3つの立場のうち最初に紹介される保全不要論についてみてみよう。これは読んで字のごとく、そもそも人間がほかの生物を保全する必要はないというものである。そんな馬鹿な!と思う人もいるだろうが、これにもちゃんと理屈はあるのだ。例えば「この世は弱肉強食なのだから、人間よりも弱かった種が絶滅するのは当然のことだ」という弱肉強食論はその典型的な例と言えるだろう。こういわれてみると、意外と反論するのは難しいと感じる人も多いのではないだろうか?本書では、この主張に対して、そもそも生物にとっての強さは一義的には決まらないという理由で反論している。詳しくはぜひ実際に読んで一緒に考えてみてほしい。

本書ではこの後もこんな感じでさまざまな立場に対して考察を進めていく。明確な答えのない問いなだけに、読んでいる側も自然に考えさせられる内容となっている。

個人的な話をすると、私は大学で環境科学を学んでいるため、いわゆる生物多様性の問題については当然知っていたし、その保全が重要であるとも考えていた。その考え自体は今でも変わっていないが、本書を読み、考えたことでそもそもなぜ保全するのかという根本的な部分から自分の意見を持つことができ、大学での学びがさらに深まったと確信している。生物について学ぶ学生必読の書であると思う。

とはいえ専門的で難しいことが書かれているわけではなく、平易な言葉による説明で生物学を学んだことのない人でもわかるような内容となっているため、こういった問題に少しでも関心のある人には非常におすすめである。また答えのない問いについて考えるため、思考のいいトレーニングにもなるかもしれない。是非一度読んでみてほしい。


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