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2020年3月の記事一覧
桜の咲く頃【ショートショート】
「こいつが咲く頃には思い出すのう」
おじいが庭のソメイヨシノを見ながらポツリと言った。
「お前に怖い話をしてやろうか」
「怖い話?いいよ、怖い話なんて」
「それが本当だと思えば怖い話で、おとぎ話だと思えば美しい話になる」
おじいは話をやめる気はなさそうだった。仕方なく僕は聞くことにした。
「むかしむかしのことだった。この村に、それはもう美しい娘がおってな」
「おじいもその人のこと好きだったの?」
便利すぎる世の中【ショートショート】
午前7時半。ベッドに揺さぶられながら起床。オキテクダサイ。キショウノジカンデスヨ。オキテクダサイ。ベッドの枕元から流れるアナウンスを止める。
昨晩、疲れてそのまま寝てしまったので、風呂に入る。裸になって、部屋の隅の小部屋に入る。昔あった、部屋置きのシャワーのような大きさだ。パジャマは脱ぎ捨てておいても良い。自動洗濯機が拾い上げて洗っておいてくれるからだ。バスルームに入りボタンを押す。すると化学分解
エスパー イエツサン【ショートショート】
隣の家津さんは、エスパーであると公言して憚らない。
ある自治会の時、自治会長が、それでは今日はこれで、と言った途端に立ち上がり、実は私はエスパーなんです、と言ったのだ。そしてすとんと座った。座って何事もなかったかのような涼しい顔をしていた。
家津さん、推定年齢58歳。早期退職をして、退職金で隣の中古住宅を現金で買ったという噂だ。推定金額500万円。家族はなく、ずっと独身を貫いてきたんだそうな。推定
圧迫面接【ショートショート】
毎日が辛かった。不採用通知の紙切れの山。電話が鳴るたびに、今度こそはと期待してしまう癖がついた。今日こそは…。今日こそは受かってみせる。
意気込んできたが、ひどい圧迫面接だった。いや圧迫面接にしてもひどすぎるだろう。面接官がはなっから頬杖をついている。最初から採用する気なんかないんじゃないだろうか。
「それはどうしてですか?」
何度何を答えても掘り下げるような質問で返される。しかも重箱の隅をつ