圧迫面接【ショートショート】

毎日が辛かった。不採用通知の紙切れの山。電話が鳴るたびに、今度こそはと期待してしまう癖がついた。今日こそは…。今日こそは受かってみせる。

意気込んできたが、ひどい圧迫面接だった。いや圧迫面接にしてもひどすぎるだろう。面接官がはなっから頬杖をついている。最初から採用する気なんかないんじゃないだろうか。

「それはどうしてですか?」
何度何を答えても掘り下げるような質問で返される。しかも重箱の隅をつつくような。努めて笑顔で答えるが、相手は無表情である。何度やっても慣れない。緊張と場の空気に飲まれ、自分が何を喋っているのかもわからなくなってきた。もうこのまま何も言わずに立ち上がり、後ろのドアから出ていきたいと、何度も思った。

その時だった。
「どうしたケロ?」
「は?」
突然目の前にカエルが現れた気がした。いや、面接官がカエルになってしまったように見えた。
「それでどうしたって言うんだモー」
いや違う。カエルかと思ったら牛だった。…そんなことあるだろうか。カエルと牛を見間違えるなんて。いや、そもそも動物がここにいるはずがない。
「なぁんか言ったらどうだねきみぃ。黙ってポカーンとして、どうしたんだコン」
今度はなんだ?どうやらキツネか?どうやら僕はもうだめらしい。きっと疲れておかしくなってしまったんだ。もうだめだ。
泣き出しそうになりながら僕は言った。
「申し訳ありません。私はちょっと…具合が悪いみたいで…。せっかくお時間頂いたのに…失礼致します」
顔を上げる勇気がなかった。うつむいたまま立ち去ろうとしたら、何やら騒がしくなったのが気になって、思わずちらっと上目遣いで見てしまった。
するとそこには、カエルに牛にキツネにブタ、ヤギ、ヒツジ、虎、猿、トラ、へび、トカゲ、と様々な動物がひしめき合っていた。
一体これは、どうしたって言うんだ。あまりのことに立ち上がりかけた椅子にへたり込んだ。腰が抜けて立ち上がれない。
「た」
声が出ない。口はパクパクするのに音が出ない。恐怖のせいか声を発することができない。
「た、た、す」
絞り出す。
「た、す、けてー!」

自分の叫び声にハッとして我に返った。
「もしもーし、土田さん、きこえてますか?」
電話の向こうから声が聞こえる。
「あ、は、はい、大丈夫です」
「では、来月1日から勤務して頂けますか?制服はこちらで支給致しますので。初日は研修を行いますので、持ち物は…」
一週間前に受けたところからの採用通知だった。
僕は不安からおかしくなってしまったのか、いや、それとも何かに化かされたのか。
採用が決まった今となっては、化かされたのであってほしいと切に願う。

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