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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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#短編

ショートショート「相撲」

ショートショート「相撲」

深夜、家に帰りダイジェストニュースを見る。

「いじめ問題で揺れる○○中学で、校長とPTAによる話合いが行わ
れました。」

画面に土俵が映り、二人の男が現われる。枯れ木のような体に白い
まわしをつけた初老の男。校長だ。緊張で顔は真っ青。全身ぷるぷる
している。それに対し、体重200Kgはありそうな巨漢。PTA会長だ。
「見合って~、八卦よい!!」
豪快なPTA会長の上

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ショートショート「color」

ショートショート「color」

ある日、牛乳を飲むと私は真っ白になってしまった。

肌の色は白、髪はプラチナブロンド、瞳の色も銀のまじったような白だ。
こんなことになるなんて、牛乳を飲みなれていないせいだろうか?
もともと牛乳ぎらいのやせっぽちの私は、牛乳を飲んだのは幼稚園以来だ。
だけど、こんな話、聞いた事がない。

医者に行ってみると考えられないことではないという。
牛乳の製造元にいってみなさい、とすすめられた。

私は郊外

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ショートショート「ダイアル」

最終電車に乗ると、ほとんど人がいなかった。

だだっ広く空いた席の端に中年の男性が一人、いびきをかきながらぐっすり眠りこけている。

男性の横を通り過ぎようとした時、私は妙な事に気がついた。

男の頭はてっぺんだけ禿げているいわゆるザビエル禿なのだが、なぜか頭頂部にダイアルがついているのだ。

……見ると、円周にそって矢印(←、→)がついている。

なんだ、これは?と思うと同時に、困った事にどうし

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ショートショート「ペガサス」

失恋してムシャクシャしたので、気晴らしに山登りをした。
山頂についた。いい眺めである。
ここで普通なら「ヤッホー」などとサワヤカに叫ぶところだが、そんな気が起きるはずもなく、
「バカヤロー」と叫びながら、空に向かって大きめの石を投げた。
すると、下のほうから『ぷぎゃっ!!』みたいな何か叫び声?のような音が聞こえた。
何事かと思うのも束の間、羽の生えた真っ白い馬がゆっくりと視界の下の方から昇ってきた

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ショートショート「僕とかぞく」

僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。

僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。

もう一匹、

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ショートショート「愛」

私の母は変顔が得意だった。

娘である私を赤ん坊の頃から大笑いさせていた。

まったく、私はいつでも必ず笑ってしまうのだ。

小中高校の卒業式では変顔を連発され、

卒業写真の顔が微妙にゆがんでいるくらいだ。

そんな母ともついに、別れの時が来た。

病院で泣きじゃくりながら年老いた母の手を握る。

「とうとうお迎えがくるようだ。
達者でくらしなさい。
どうか幸せに……」

母の声が途絶えた。

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ショートショート『能力』

特別な人間になりたい。
俺は霊山にこもり、厳しい修行のすえついに神様に会えた。

「お願いです! 超能力をくださいっ!!」(必死)
「え~? 気がすすまないなあ」
「なんでもいいのでどうか一つお願いします!!」
……そして得られた能力は、
『人が食べているラーメンをうどんに変化させる能力』だった。

俺が飲み屋でヤケを起こしてあばれていると、
薄汚れた前掛けをした小太りの男に話しかけられた。

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ショートショート「苦手」

キールは北の大地に住むシベリア虎、森の帝王だ。

ずば抜けて大きな体を持ち、無敵の強さを誇る。
羆や他の虎、人間までもが彼を恐れ敬うのだ。
そんな彼にも苦手なものがあった。

満月だ。

思い起こせば一年ほど前になる。
山中で出会った人間を襲ったところ、逆に噛まれてしまったのだ。
以来、満月の晩になると彼はこそこそと誰もしらない洞窟に隠れ、じっとしている。

なぜなら、満月が昇ると、彼は狼に変身し

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ショートショート『機密情報』

ショートショート『機密情報』

ある国で革命が起こり、独裁政権が倒された。

革命軍が広大な宮殿になだれ込むと、そこにはぽつんと巨大な金庫が残されていた。ウワサによると、なんでも重要な機密情報がしまってあるらしい。

機密情報とは何か?
独裁者の逃亡先か? あるいは世界を揺るがす新兵器か?

革命新政府は色めきたち、早速金庫を開けようとした。
だが金庫は特殊合金でできており、ドリルにも高温のバーナ

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ショートショート「心の重さ」

ショートショート「心の重さ」

気は晴れないが、くよくよしていても仕方がない。

私は一週間ぶりに円盤型のロボット掃除機のスイッチを入れた。

すると掃除機は掃除をしないで、所在なさげにウロウロと動き回っている。

そして私を見つけると、近づいて来てしゃべり始めた。

見ると、エラー表示が出ている。音声ガイダンスのようだ。

「本機の自重が前回稼動時より約3キログラム減っています。重要なオプション

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ショートショート「威光」

ショートショート「威光」

シンバの村の中央の広場には、守り神がいた。

それはただ大きく、真っ黒で何物にも似ていない。

昔、爺さんが生まれる前、村人達が寝ている間に突然現われ、ずっとそのままそこにいるのだ。

言い伝えによると、神はずっと眠っているのだそうだ。年に一度の祭りの際は神を起こそうとする儀式もある。聖なる棒で神をたたくのだ。だが、神は決して起きない。

シンバの村の神を恐れて、周辺の

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ショートショート 「不思議」

ショートショート 「不思議」

世の中に不思議な事など、ない。
すべて科学的に証明できるはずだ。

俺はTVプロデューサーだ。
かねがね超能力は実在するのに、インチキ扱いされるのを不満に感じていた。俺は自分の生放送の報道番組に本物の超能力を持つ男性、A,Bの両名を出演させた。司会は人気キャスターのC女史。気の強い事で知られる、俺好みの美人だ。何度誘っても落とせないが。

さて、放送当日。
まずは、

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ショートショート「挑戦」

休暇で山深い田舎の村に行った。
川に行くと、きれいな水だがドジョウがたくさんいる。
あまりに多くいるので民宿のオヤジに理由を聞いてみた。
なんでも上流に秘密があるらしい。

オヤジの案内で上流へと川をたどる。
ちょっとした山登りだ。
ずいぶん行った頃、誰もこないような山奥で大きな池についた。
その先は切り立った崖で、見事な滝になっている。
池には色とりどりの鯉が、それこそウジャウジャいる。

その

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ショートショート「大雪」

朝、起きると天気予報がやっていた。
『今日は大雪です。外出は控えましょう!』
どうせ、東京で『大雪』なんてタカが知れてる。
雪国育ちの俺は無視して会社に向かった。

外に出ても、曇り空だが雪どころか雨さえ降っていない。
ところが、大通りにでても車も人も全くいない。
『まさか、みんな天気予報を真に受けてるのか?』
そう思った瞬間、空から何かが降ってきて道端に駐車してあったママチャリを中心から真っ二つ

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