ショートショート「苦手」


キールは北の大地に住むシベリア虎、森の帝王だ。

ずば抜けて大きな体を持ち、無敵の強さを誇る。
羆や他の虎、人間までもが彼を恐れ敬うのだ。
そんな彼にも苦手なものがあった。

満月だ。

思い起こせば一年ほど前になる。
山中で出会った人間を襲ったところ、逆に噛まれてしまったのだ。
以来、満月の晩になると彼はこそこそと誰もしらない洞窟に隠れ、じっとしている。

なぜなら、満月が昇ると、彼は狼に変身してしまうのからだ。
山中であった人間はなんと、実は『狼男』でおかげで彼は『狼虎』となってしまったのである!

そう……満月になると彼は、とても弱くなってしまうのだ。
強敵ばかりのシベリアで一匹狼ほど不安はものない。

こうして森の帝王は満月の夜になると、頭を抱えぶるぶる震えながら眠れない一夜をすごすのである。

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