ショートショート『機密情報』

ショートショート『機密情報』

ある国で革命が起こり、独裁政権が倒された。

革命軍が広大な宮殿になだれ込むと、そこにはぽつんと巨大な金庫が残されていた。ウワサによると、なんでも重要な機密情報がしまってあるらしい。

機密情報とは何か?
独裁者の逃亡先か? あるいは世界を揺るがす新兵器か?

革命新政府は色めきたち、早速金庫を開けようとした。
だが金庫は特殊合金でできており、ドリルにも高温のバーナーにもレーザー光線さえもビクともしない。
X線も通さないので内部の構造もわからない。

高性能の火薬を大量にしかけて爆破する案も出たが、さすがに金庫は壊れるだろうが、それでは金庫の中身が保障されない。

唯一、開ける方法は金庫のドアについているダイヤルを合わせるしか手はなさそうだ。

金庫のダイヤルもやはり巨大で、数字、アルファベット、キリル文字……さらにひらがなや漢字まで、数万文字が円形の周囲に彫刻されたものである。

さて、どうしたものか?
新政府の中でも意見が分かれたが、最終的にはやはり正攻法でいくしかないだろうという事になった。

そこで世界中から、金庫、鍵開け、暗号解読、果ては人工知能まで、とにかくダイヤルの番号解読に関係ありそうな専門家を集めてことにあたったが、しかし、糸口は全くつかめなかった。

新政府は長期戦を覚悟した。
金庫を開ける為に、莫大な金額が国家予算から割り当てられた。

金庫を開ける為の研究機関の設立、研究者を養成するための大学の創設、解析のための巨大なコンピュターを作る工場群の建築。そこで働く人々の生活を支えるショッピング街や流通機構の整備。高層マンションが林のように建設され、新たに電車や地下鉄の路線を引く工事がはじまった。

こうして、独裁者の宮殿跡は巨大な学園都市となり、この国の新たな主要都市となった。都市は際限なく規模を拡大し、膨大な予算を消費し続けた。

そうこうするうちに数十年の月日が流れ、ついに金庫の開く日がやって来た。

ダイヤルの番号は数百文字に及ぶ長いものであったが、解析の結果三回入力を失敗すると自爆するように出来ていた。この日の為に開発された『ダイヤル回しロボット』が慎重にダイヤルを回す。

そして、扉が開いた。この時点で感極まって号泣する者、失神する者が続出した。

いざ、開いたとなるとなかなか金庫に入る勇気がでてこない。人々は金庫の中に入ることを躊躇していたが、意を決した代表者が金庫の中に侵入した。

体育館のようにだたっ広い空間……その真ん中に紙切れが一枚、落ちている。これが『重要機密』、なのだろうか!?

その紙切れには、
『ダイヤルの番号』が書かれていた。


(了)










Bパターン ====================


いざ、開いたとなるとなかなか金庫に入る勇気がでてこない。人々は金庫の中に入ることを躊躇していたが、意を決した代表者が金庫の中に侵入した。

体育館のようにだたっ広い空間……その中央に小さめのログハウスが立っていた。ログハウスの前には老人が一人、立っていた。

「ようこそ、私の家へ……よくこのシェルターを開ける事ができたな。君は年を取ってはいるが、見覚えがある。革命軍の指導者の一人だな」

元独裁者は悪びれずまっすぐに代表者を見つめて言った。

「私をどうするかね? 捕らえて処刑するかな」

しばらくの沈黙の後、代表者は応えた。

「あなたのおかげで、ここに世界でも有数の科学都市ができました。わが国は今では世界をリードする先進国です……。いまとなってはその点は感謝しております。ですが、私の一存ではあなたの処遇は決められません。私と来ていただきましょう」

「わかった」
老人は手早く小さく荷物をまとめ、代表者と一緒に金庫から出てきた。

元独裁者は年をとって人相も変わっており、また事前に「機密情報を持ち出す為」という名目で人払いがなされていた事もあり、気づく者はいなかった。

政府内で元独裁者である老人に対する裁判が開かれた。
非公開の、一種軍法会議のような裁判であったがこれは老人を衆人の目から守る為でもあった。

裁判は議論百出し、難航したが結局老人は釈放された。
この国では死刑は廃止されていた事、老人はすでに数十年の禁固刑をうけていたのと同様であった事、過去と決別していており、また老いさきは長くない事、そして何より老人を金庫から連れ出した『代表者』が老人の弁護に回ったことが大きかった。

老人は学園都市のすみにひっそりと住居をかまえた。

そして、余生を歴史の研究をささげたという。


(了)

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