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2003年建築基本法制定準備会会長 2012年東京大学名誉教授 2015年(株)唐丹小…

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2003年建築基本法制定準備会会長 2012年東京大学名誉教授 2015年(株)唐丹小白浜まちづくりセンター代表取締役

最近の記事

「ブルックリン化する世界」(森千香子著、東大出版会、2023年11月)から学ぶ

東大出版会のUP5月号に「再開発と空間闘争の記号としてのブルックリン」という著者の記事を読み、都市の再開発と住民の視点について、これは少し学ばねばと、本書を取り寄せて読んだ次第。 ニューヨークのブルックリンで起きていること、ジェントリフィケーション、日本語では富裕化という言葉が相当するのだろうか、今までは再開発という中に存在しつつも、社会として何が起きており、そのまちに住むことがどういうことなのか、十分に意識できていなかった。「あとがき」にあるように、この問題は、全世界の大都

    • 「アジアの人物史12アジアの世紀へ」読後レポート

      アジアの人物史も、1年半読んできて、とうとう最終巻になった。自分の生きてきた時代が語られる。子どものころ、あるいは、社会人になってからも、表面的に時代の流れの中で泳いでいたものの、近隣で、どんな人物が社会に影響を与えていたのかを、いまさらになって新鮮に知らされたという次第である。12巻の登場人物は、両親の世代の人物が中心であり、歴史が今に繋がっていることを強く意識させられる。 第1章 朝鮮戦争では、何と言っても1950年に開始された戦争が、いまだ収束していない事実を明らかにし

      • 「なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?」(福島原発事故による甲状腺被爆の真相を明らかにする会編、耕文社、2024年3月)から考える

        東日本大震災の震災復興において、福島の特殊性は原発事故にある。初めからわかってはいたが、どのように復興に取り組むべきか、という点でも他の地域に比べて、はるかに困難な問題である。日本建築学会で「人為的要因による震災の防止・軽減に向けた技術・社会のあり方について」、2ラウンドの特別研究委員会を富樫豊委員長のもとで実施し、2019年3月と2022年3月の報告書にまとめているが、原発事故に対する議論は必ずしも十分ではなかった。委員会は解散したものの、その後も毎月のように富樫のコーディ

        • 寺澤行忠の「西行」

          桜の季節ということもあって、新聞の書評で見つけた「西行―歌と旅と人生―」を読んだ。アマゾン恐るべしで、朝ネットで注文したら、夕方にはポストに入っていた。辻邦夫の「西行花伝」(p.30)を1995年に読んでいたが、残念ながら記憶は薄い。本書は、西行の歌の研究者が、歌とともに西行を語るもので、かなり客観的な分析が元になっている。それでも、西行と言えば桜という基本は全編に流れている。 平安時代の武士が台頭し、平家から源氏に時代が変わるときに、平家により親近感をもち、源氏には心を許さ

        「ブルックリン化する世界」(森千香子著、東大出版会、2023年11月)から学ぶ

        • 「アジアの人物史12アジアの世紀へ」読後レポート

        • 「なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?」(福島原発事故による甲状腺被爆の真相を明らかにする会編、耕文社、2024年3月)から考える

        • 寺澤行忠の「西行」

          「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

          2021年1月から2023年11月までの細田氏の建築にかかわる思いをまとめたものである。コロナウィルス感染、ロシアのウクライナ侵攻、そして何よりも大きな気候変動問題が思考の根幹にある。グローバル資本主義の市場経済の行き過ぎの認識も、そしてDXとAIの時代をどう受け入れるかも深くかかわっている。 問題の所在の多くは共有できるが、どうしたらよいかを読み取ろうとすると、見えてくることと、気になるところが混在するようにも感じられた。最新の論考から時間を遡るように並べられているのだが、

          「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

          アジア人物史9巻に見る19世紀後半の激動のアジア

          明治の日本が作られた同じ時に、朝鮮半島で、中国で、東南アジアで、中東で、中央アジアで、新しい国づくりに知恵を巡らせ、奮闘した人たちがいる。中学・高校で名前を知った人もいるが、全く知らなかった人物も多い。国ごとで様子は変わっても、ここに登場する人物は、今も政治への意識や文化に影響を残しているように感じられる。 第1章では朝鮮の市井の思想家として崔済愚(1824-64)が登場する。西洋の学問とは異なる風土に根差した「東学」を創始するが、徒党の不穏な動きと見た朝鮮王朝は捉えて絞首刑

          アジア人物史9巻に見る19世紀後半の激動のアジア

          「創発」vol.14, no.3(2017)に見る復興支援の評価

          きっかけは、NHKラジオ深夜便の明日への言葉(3月24日4:05am)で聞いた、キャロル・サックのアイリッシュ・ハープによるスピリチュアル・ケアの話。唐丹小中学校とのつながりは、盛岡在の高舘千枝子が相談した、桜美林大の長谷川恵美(スウェーデン留学時に高舘と知己に)による教育支援として、震災直後に始まった。高舘との経緯を踏まえた論考をネット検索で見つけたのが、東京基督教大学の「創発」vo.14, no.3であった。稲垣久和のコーディネートによる、2014年の2件のセッションを取

          「創発」vol.14, no.3(2017)に見る復興支援の評価

          「かわる!いけがみえき」(佐瀬健太朗著)に思う

          大田区の消費者団体「住むコト」で、以前「まだ再開発ですか」というテーマを取り上げたことがあり、2021年に商業施設と一体で新装なった池上駅ビルの写真を載せて、再開発事例としてとりあげた。さまざまな関係者の意見調整がなされたと想像するが、まちとしてよくなったかの評価は難しい。残念ながら、とても十分な検証ができていない。 踏切をなくすことによる安全性向上、駅前広場の整備、区の図書館も入る建築物として、大田区や東急電鉄としては、環境を整えたことになっているのだと思う。全体としての規

          「かわる!いけがみえき」(佐瀬健太朗著)に思う

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史

          「高層建築の世界史」を書いている著者が、昭和の巨大建築の抗争を歴史としてまとめたもの。実は、昨年末、予告の話を聴いていた。戦後の話は、自分の時代認識とともにあって、登場人物も具体的にイメージできたりするから、プロジェクトを実現しようとするエネルギーも伝わったし、敷地もわかるだけに興味深く読めた。  第1章は、戦後のテレビ放送の開始における日本テレビとNHKのタワー誕生物語。二番町に154mの日本テレビの鉄塔が正力松太郎のパワーで建てられた。一方、NHKも負けじと紀尾井町に17

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史

          小澤俊夫の「昔話の扉をひらこう」に学ぶ

          ラジオは、NHKを付けたままで寝ているのだが、その時は深夜便の再放送で、小澤征爾のお兄さんが昔話の話をしていて聞こえていた。そして、その日(2月9日)の夕方、「小澤征爾逝く」のニュースが流れた。NHKは、知っていて流したのかなと思った。アマゾンですぐに注文して取り寄せて、読んだ。本の内容のいくつかがラジオで紹介されている。 筑波大や日本女子大でドイツ語・ドイツ文学の教授を務めた。学生のときにドイツ語の学習で、グリム童話を知り、それがグリム兄弟の創作でなく昔話であることを知り、

          小澤俊夫の「昔話の扉をひらこう」に学ぶ

          「心理学が描くリスクの世界Advanced」を読む

           増田真也、広田すみれ、坂上貴之の編著である。昨年の3月22日に療養中の坂上氏が逝去されたことが、冒頭に記されている。氏とは、2009年ニュージーランドのカンタベリー大学滞在中に、ビールを飲みながら親しく実験心理学について話を聴いたことを思い出す。弟子筋にあたる広田すみれ氏より、10月に献本いただいた。3人で、築地で食事をしたこともある。追悼の気持ちで読ませてもらった。  教科書として書かれた、やはり3人による共編著の「心理学が描くリスクの世界―行動的意思決定入門」の続編であ

          「心理学が描くリスクの世界Advanced」を読む

          「超インテリア」って何?

          山本想太郎の建築思想が、「超インテリア」という言葉になった。あとがきにあるように、設計事務所の仕事も新築は少なく、インテリアかリノベーションになって来ているという。それは、多くの設計事務所に共通しているだろう。一般の人にとって、建築を考えるよりはインテリアを考える方がなんとなくとっつきやすいということがあって、それを少しふくらまして考えれば良いということになったのであろう。 戦後とにかく家を必要とした時代にできた建築基準法のお陰で、いまも新築推奨という社会制度になっている。現

          「超インテリア」って何?

          アジア人物史6巻はポスト・モンゴル

          前巻で、モンゴルの時代がアジアをダイナミックに展開したことを見た。そして、その後の影響がさまざまな地域で、入り混じりつつ、微妙に異なる文化をもつ国々として現れた。15世紀から16世紀の話である。中国は明の時代。日本は、少し距離を置いた存在になっているようでもある。 最初に登場するのは、イスラム文化のティムール帝国である。ティムール(1336-1405)が、サマルカンド中心に政権を確立していくが、チンギスの子孫を王に擁立したり、チンギス家の女性と結婚したり、モンゴル帝国の権威を

          アジア人物史6巻はポスト・モンゴル

          アジア人物史5はモンゴル帝国

          13世紀は、モンゴルの時代。ユーラシアを武力でかき回したともいえるし、ユーラシアを一つの商圏、文化圏にした時代とも言えるようだ。 まず第1章は、チンギス・カン(1155?-1227)。生年が明らかでない(1155年亥年は『集史』による)ということは、子どものころは、多くの部族社会の一つの有力集団のリーダーの子テムジンで、さまざまな記録があって定まっていない。チンギス・カンの金言の一つ「軍隊の指揮官にふさわしい者は、自分の飢えと渇きから判断して、他人の状態を推察し、道中は計算し

          アジア人物史5はモンゴル帝国

          「存在を抱く」木下晋+村田喜代子 対談(藤原書店)

          木下さんからスマホへのメールがあって、12月4日(日)のNHKテレビ、中江有理の番組で「存在を抱く」の紹介を見た。アマゾンで取り寄せて、読ませてもらった、画家と小説家の対談。「存在」とは、木下にとっては妻であり、村田にとっては亡夫なのかもしれないし、あるいは、生命界であったり、地球であったりするのかもしれない。 終わりの方で、村田は「心底、正直なのね、あなたは。」(p.244)と言っているのが、まさに、この対談の内容でもあると思った。人前ではなかなか言えないけど思っていること

          「存在を抱く」木下晋+村田喜代子 対談(藤原書店)

          「”捨てる物“からビジネスをつくる」(山翠舎 山上浩明)の視点

          長野市や小諸市で、古民家活用をビジネスとして展開している人の話。具体的に古木の市場を作ったり、さまざまな店舗の改修に関わって成功している事例が語られていることから、楽しく読みやすい。 長野市にある古民家の管理に悩む人の話を聴いて、熱海の旅館で再利用することが出来た話も良い。(p.64)著者は事業構想大学院大学で学んだことが生きていることを(p.68)書いているが、実は、自分もかつて、唐丹のプロジェクトを「こんなことを考えている人間もいる」ということで話させてもらったことがある

          「”捨てる物“からビジネスをつくる」(山翠舎 山上浩明)の視点