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2003年建築基本法制定準備会会長 2012年東京大学名誉教授 2015年(株)唐丹小…

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2003年建築基本法制定準備会会長 2012年東京大学名誉教授 2015年(株)唐丹小白浜まちづくりセンター代表取締役

最近の記事

「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

2021年1月から2023年11月までの細田氏の建築にかかわる思いをまとめたものである。コロナウィルス感染、ロシアのウクライナ侵攻、そして何よりも大きな気候変動問題が思考の根幹にある。グローバル資本主義の市場経済の行き過ぎの認識も、そしてDXとAIの時代をどう受け入れるかも深くかかわっている。 問題の所在の多くは共有できるが、どうしたらよいかを読み取ろうとすると、見えてくることと、気になるところが混在するようにも感じられた。最新の論考から時間を遡るように並べられているのだが、

    • アジア人物史9巻に見る19世紀後半の激動のアジア

      明治の日本が作られた同じ時に、朝鮮半島で、中国で、東南アジアで、中東で、中央アジアで、新しい国づくりに知恵を巡らせ、奮闘した人たちがいる。中学・高校で名前を知った人もいるが、全く知らなかった人物も多い。国ごとで様子は変わっても、ここに登場する人物は、今も政治への意識や文化に影響を残しているように感じられる。 第1章では朝鮮の市井の思想家として崔済愚(1824-64)が登場する。西洋の学問とは異なる風土に根差した「東学」を創始するが、徒党の不穏な動きと見た朝鮮王朝は捉えて絞首刑

      • 「創発」vol.14, no.3(2017)に見る復興支援の評価

        きっかけは、NHKラジオ深夜便の明日への言葉(3月24日4:05am)で聞いた、キャロル・サックのアイリッシュ・ハープによるスピリチュアル・ケアの話。唐丹小中学校とのつながりは、盛岡在の高舘千枝子が相談した、桜美林大の長谷川恵美(スウェーデン留学時に高舘と知己に)による教育支援として、震災直後に始まった。高舘との経緯を踏まえた論考をネット検索で見つけたのが、東京基督教大学の「創発」vo.14, no.3であった。稲垣久和のコーディネートによる、2014年の2件のセッションを取

        • 「かわる!いけがみえき」(佐瀬健太朗著)に思う

          大田区の消費者団体「住むコト」で、以前「まだ再開発ですか」というテーマを取り上げたことがあり、2021年に商業施設と一体で新装なった池上駅ビルの写真を載せて、再開発事例としてとりあげた。さまざまな関係者の意見調整がなされたと想像するが、まちとしてよくなったかの評価は難しい。残念ながら、とても十分な検証ができていない。 踏切をなくすことによる安全性向上、駅前広場の整備、区の図書館も入る建築物として、大田区や東急電鉄としては、環境を整えたことになっているのだと思う。全体としての規

        「いま社会は建築に何を期待しているのか」(細田雅春著)読後メモ

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史

          「高層建築の世界史」を書いている著者が、昭和の巨大建築の抗争を歴史としてまとめたもの。実は、昨年末、予告の話を聴いていた。戦後の話は、自分の時代認識とともにあって、登場人物も具体的にイメージできたりするから、プロジェクトを実現しようとするエネルギーも伝わったし、敷地もわかるだけに興味深く読めた。  第1章は、戦後のテレビ放送の開始における日本テレビとNHKのタワー誕生物語。二番町に154mの日本テレビの鉄塔が正力松太郎のパワーで建てられた。一方、NHKも負けじと紀尾井町に17

          大澤昭彦著「正力ドームvs NHKタワー」に見る歴史

          小澤俊夫の「昔話の扉をひらこう」に学ぶ

          ラジオは、NHKを付けたままで寝ているのだが、その時は深夜便の再放送で、小澤征爾のお兄さんが昔話の話をしていて聞こえていた。そして、その日(2月9日)の夕方、「小澤征爾逝く」のニュースが流れた。NHKは、知っていて流したのかなと思った。アマゾンですぐに注文して取り寄せて、読んだ。本の内容のいくつかがラジオで紹介されている。 筑波大や日本女子大でドイツ語・ドイツ文学の教授を務めた。学生のときにドイツ語の学習で、グリム童話を知り、それがグリム兄弟の創作でなく昔話であることを知り、

          小澤俊夫の「昔話の扉をひらこう」に学ぶ

          「心理学が描くリスクの世界Advanced」を読む

           増田真也、広田すみれ、坂上貴之の編著である。昨年の3月22日に療養中の坂上氏が逝去されたことが、冒頭に記されている。氏とは、2009年ニュージーランドのカンタベリー大学滞在中に、ビールを飲みながら親しく実験心理学について話を聴いたことを思い出す。弟子筋にあたる広田すみれ氏より、10月に献本いただいた。3人で、築地で食事をしたこともある。追悼の気持ちで読ませてもらった。  教科書として書かれた、やはり3人による共編著の「心理学が描くリスクの世界―行動的意思決定入門」の続編であ

          「心理学が描くリスクの世界Advanced」を読む

          「超インテリア」って何?

          山本想太郎の建築思想が、「超インテリア」という言葉になった。あとがきにあるように、設計事務所の仕事も新築は少なく、インテリアかリノベーションになって来ているという。それは、多くの設計事務所に共通しているだろう。一般の人にとって、建築を考えるよりはインテリアを考える方がなんとなくとっつきやすいということがあって、それを少しふくらまして考えれば良いということになったのであろう。 戦後とにかく家を必要とした時代にできた建築基準法のお陰で、いまも新築推奨という社会制度になっている。現

          「超インテリア」って何?

          アジア人物史6巻はポスト・モンゴル

          前巻で、モンゴルの時代がアジアをダイナミックに展開したことを見た。そして、その後の影響がさまざまな地域で、入り混じりつつ、微妙に異なる文化をもつ国々として現れた。15世紀から16世紀の話である。中国は明の時代。日本は、少し距離を置いた存在になっているようでもある。 最初に登場するのは、イスラム文化のティムール帝国である。ティムール(1336-1405)が、サマルカンド中心に政権を確立していくが、チンギスの子孫を王に擁立したり、チンギス家の女性と結婚したり、モンゴル帝国の権威を

          アジア人物史6巻はポスト・モンゴル

          アジア人物史5はモンゴル帝国

          13世紀は、モンゴルの時代。ユーラシアを武力でかき回したともいえるし、ユーラシアを一つの商圏、文化圏にした時代とも言えるようだ。 まず第1章は、チンギス・カン(1155?-1227)。生年が明らかでない(1155年亥年は『集史』による)ということは、子どものころは、多くの部族社会の一つの有力集団のリーダーの子テムジンで、さまざまな記録があって定まっていない。チンギス・カンの金言の一つ「軍隊の指揮官にふさわしい者は、自分の飢えと渇きから判断して、他人の状態を推察し、道中は計算し

          アジア人物史5はモンゴル帝国

          「存在を抱く」木下晋+村田喜代子 対談(藤原書店)

          木下さんからスマホへのメールがあって、12月4日(日)のNHKテレビ、中江有理の番組で「存在を抱く」の紹介を見た。アマゾンで取り寄せて、読ませてもらった、画家と小説家の対談。「存在」とは、木下にとっては妻であり、村田にとっては亡夫なのかもしれないし、あるいは、生命界であったり、地球であったりするのかもしれない。 終わりの方で、村田は「心底、正直なのね、あなたは。」(p.244)と言っているのが、まさに、この対談の内容でもあると思った。人前ではなかなか言えないけど思っていること

          「存在を抱く」木下晋+村田喜代子 対談(藤原書店)

          「”捨てる物“からビジネスをつくる」(山翠舎 山上浩明)の視点

          長野市や小諸市で、古民家活用をビジネスとして展開している人の話。具体的に古木の市場を作ったり、さまざまな店舗の改修に関わって成功している事例が語られていることから、楽しく読みやすい。 長野市にある古民家の管理に悩む人の話を聴いて、熱海の旅館で再利用することが出来た話も良い。(p.64)著者は事業構想大学院大学で学んだことが生きていることを(p.68)書いているが、実は、自分もかつて、唐丹のプロジェクトを「こんなことを考えている人間もいる」ということで話させてもらったことがある

          「”捨てる物“からビジネスをつくる」(山翠舎 山上浩明)の視点

          佐藤究の現代小説「テスカトリポカ」に驚く

          2週間ほど前の読売新聞の書評に、佐藤究の最新作が取り上げられて、テスカトリポカで直木賞を取った天才作家と紹介されていたので、興味をそそられて、最新作よりは、直木賞の方を取り寄せて読んだ。 確かにミステリーだとはいうのだが、ほとんどの場面が、強烈な殺しや麻薬、生贄や臓器売買と、すさまじい世界が描かれている。また主要な言葉がスペイン語だったり、アステカ語だったりして、なかなか頭にはいらないのが、新鮮といえば言える。 最初の舞台がメキシコでの麻薬密売人仲間の殺し合いだったのが、生き

          佐藤究の現代小説「テスカトリポカ」に驚く

          唐丹から吉浜まで歩く

          今まで日本全国50000㎞を歩いたという吉村さん(83歳)。釜石の唐丹町小白浜の潮見第に、釜石から歩いて来てくれた。7,8年ぶりで、いろいろ話ができて楽しかった。翌日は、盛まで歩くというので、吉浜までつきあうことにした。 朝、8時8分に潮見第出発。途中、唐丹駅の横の「ひまわり」で、吉村さん、飲み物買うと行ったのに、飲み物忘れて、用心にと、おにぎり2個と飴を買う。荒川までは、新道峠(清水峠)の山越えの道はやめて、旧道を歩いて進む。荒川の橋を渡り、ススキの原を抜けると、浜街道入口

          唐丹から吉浜まで歩く

          「修道院からモダニズムへ」(浅野忠利著)から学ぶもの

          著者の浅野氏とは何度もお会いしているものの、建築について議論というような機会は、あまりなかった。1976年、筆者が竹中工務店で社内留学制度に合格し渡英する前に、留学の10年先輩ということで、助言をもらったことを覚えている。テーマも違うし、行先もドイツとイギリスで、どこまでちゃんと話を聴いたのか定かではない。 1966年から1968年までウルム造形大学に留学され、その成果の延長として自分としてのテーマを探求しつつ、再度2017年に3か月訪欧したことを機に、本にまとめられたもので

          「修道院からモダニズムへ」(浅野忠利著)から学ぶもの

          公共善エコノミー(C. フェルバー著、池田憲昭訳)メモ

          「持続可能社会と地域創生のための建築基本法制定」の読書会で、今津賀昭氏より強く推薦された本である。資本主義社会の行き過ぎをどのように変革するかについての明解な指針を与えてくれている。翻訳故にいくつかのすっきりしない言葉もあるが、2010年に書かれ、日本語版が2022年だということも、新しい社会への希望を語る。 まえがきで経済を語るアリストテレスの言葉として、「オイコノミア」は、すべての人間の良い生活を目標にし、お金はその際、手段であるのに対し、「クレマテイスティケ」は、経済の

          公共善エコノミー(C. フェルバー著、池田憲昭訳)メモ