青野晶

第9回&第10回林芙美子文学賞最終候補 🫶ジャズダンス/バレエ/歌/ミュージカ…

青野晶

第9回&第10回林芙美子文学賞最終候補 🫶ジャズダンス/バレエ/歌/ミュージカル🫶 アイコンを描いてくれたのは漫画家の芦藻くん(@akiraturu )

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「嘘つきたちの幸福」第1幕(全4幕)

青野晶「噓つきたちの幸福」 ■第1幕 第1場  アビー王子が革命家の女を殺そうと誓ったのは、昨日今日の話ではない。ただそれを今日と決めたのは、シャワル城で革命家の女をとらえたという報がもたらされたためだった。この好機を逃すわけにはいかない。アビー王子の優しく穏やかな心は、王都スファンに放たれた炎のごとく急激に熱せられたのである。 必ず殺してやる。今夜。私の手で殺してやる! アビー王子は胸に沸き立つ黒炎に、自身を焼き焦がす思いで誓った。 ところが決意の直後「革命家の女

    • 【エッセイ】マッチョと即興ショートコント「ナンパ」

      新しいトレーニングジムがオープンしていることに気付いた。ここ、新しくジムできたんだ、と思っていたら、背後から見知らぬマッチョに話しかけられた。 「おねーさん、おねーさん、ちょっといいですか?」 マッチョは黒のタンクトップだった。新しくできたジムの前に立っている。 「今って時間ありますか?」 「ないです」 私は早足に通り過ぎようとした。新しくできたジムの前に立つマッチョ。パーソナルトレーナーに違いない。全然暇だけど、ジムの入会案内を受ける時間ならないなと思った。 「ちょっと待っ

      • セルフレジに私の値段を聞いてみたい 11

        初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 10|青野晶 (note.com) ■星野結(7) 山本美咲の誕生日の夜にようやく「誕生日おめでとう」のメッセージを送信できた。帰りの電車が止まらなければ、そんなことはしなかったかもしれない。……いや、関係ないか。電車が止まっても止まらなくても、このプラネタリウムにたどりついてもたどりつかなくても、結果は変わらなかった気がする。 もう山本美咲

        • セルフレジに私の値段を聞いてみたい 10

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 9|青野晶 (note.com) ■山本美咲【15】 個別指導室に入ったけど、珍しく速水くんの姿がなかった。いつもは私より早く塾についているはずなのに。私は徹底して時間外労働をしないから、塾に到着するのは授業開始直前なのだ。 キャスター付きの丸椅子に座り、時計を見上げた。十五分遅れるようなら電話をかけようかな? 使ったこともないのに折り目だけはた

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          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 9

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 8|青野晶 (note.com) ■山本美咲【14】 大学の採用試験に合格したと電話で言った時、大輝は信じられないという感じで叫んだ。 「やったじゃん! 美咲ちゃん! すごいよ! 言ったでしょ! 俺が言う通りに嘘をつけば絶対に内定出るって!」 「うん。ありがとう」 「内定のお祝いしようか。誕生日も近いし、プレゼント、奮発するよ。何がほしい?」  

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 9

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 8

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 7|青野晶 (note.com) ■山本美咲【12】 赤坂のレストランに着くと、ステージから広子が「ここに座れ」と乱雑なジェスチャーで伝えてきた。最前列のテーブルだ。私は昨夜広子に言われたことを思い出す。「みんな真面目に聞くから緊張するんだよね。わかりやすい場所に座ってバカみたいに喋っててくれる?」。私は広子に指定されたテーブルに向かう。後ろから

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 8

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 7

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 6|青野晶 (note.com) ■山本美咲【11】  個別指導ブースの机には、速水くんだけがいた。私は報告書ファイルと塾長が用意した新品のテキストを抱えて、キャスター付きの椅子にかける。授業開始のチャイムがなるのと同時に、私は速水くんを見た。 「速水くんこんにちは! 授業、振り替えてもらっちゃってごめんね!」 「私、どうしても妹のコンサート行き

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 7

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 6

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 5|青野晶 (note.com) ■山本美咲【9】 天気予報は夕方から雨だっていうのに、そんなの嘘でしょってくらい気持ちよく晴れた朝だった。私はリクルートスーツを着込み、玄関で傘をつかみ、離し、ドアを開けて空を見上げ、また傘をつかみ、離し、結局持っていくことに決めた。 個人面接の会場と聞いたオフィスの一室に入ると、愛想の良い面接官が迎えてくれた。

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 6

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 5

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 4|青野晶 (note.com) ■星野結(4) 個別指導の担当が山本美咲じゃなくなった。どうやらあれは振替授業だったから、たまたま山本美咲に当たっただけらしい。星野結が普段受ける個別指導の授業を担当は、和泉と呼ばれている小柄な女だった。和泉は山本美咲と仲が良いらしい。山本美咲と和泉が二人で歩調をそろえて駅の方から歩いてくるのを、星野結は個別指導

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 5

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 4

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 3|青野晶 (note.com) ■山本美咲【5】 髪が濡れていることに気付いて目が覚めた。泣いていたらしい。桜の夢を見ていた。スマホを見る。午前十時。終わった。一限なんか履修するもんじゃない。私はベッドから起き上がり、鈍い頭を働かせた。五限は……卒論の中間発表だっけ。あ、USB家に置いてきた。もう休もうかな……。いや、ここで休んだら卒業できない

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 4

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 3

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) 前回の話→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 2|青野晶 (note.com) ■山本美咲【4】 大輝と付き合い始めた大学一年生の秋に、私はいろんなことを辞めた。たとえばジム通い。それからバイト。掛け持ちしていた■■クレープと■■アイスクリームのバイトをやめた。それでもやっぱりお金ほしさに塾講師を始めることにした。放課後の中学生しか相手にしない塾講師は、平日の夕方から夜だけ働けばいい。何より

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 3

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 2

          初めから読む→セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1|青野晶 (note.com) ■山本美咲【3】 私と広子は京成線の快速電車に乗って、船橋競馬場駅で降りた。イケアまでは徒歩二十分くらい。 「ねえ、私の値段を調べる前にお昼でも食べようよ」 広子はそう言って、ららぽーとに入っていった。「ランチをおごるよ」と言ったら、広子は遠慮なく最上階のレストランに踏み入った。シーザーサラダ、きのこのスープ、ビーフストロガノフ、キッシュのランチセットに加えて、果肉たっぷりのマンゴータルトも

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 2

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1

          青野晶「セルフレジに私の値段を聞いてみたい」 ■山本美咲【1】  広子が左手首に商品バーコードを刻んだのは、大学が夏休みに入って二日目の夜だった。 「お前、明日ひま?」 広子は姉の私を「お前」と呼ぶ。 私はスマホから顔を上げずに「ひま」と答えた。深夜のリビングに二人。誰も見ていないテレビはループ設定のYouTubeみたいに、二〇〇年ぶりに天皇陛下が生前退位するというニュースを流し続けていた。 「明日セルフレジに私自身を通そうと思うんだけど、どう? 一緒に来ない?」 「何いっ

          セルフレジに私の値段を聞いてみたい 1

          「侍少女戦記」 ★フィナーレ★

          はじめから読む→「侍少女戦記」 第1幕|青野晶 (note.com) 前回の話→「侍少女戦記」 第7幕|青野晶 (note.com) ■フィナーレ 安凪の歌声の響く中、二人の侍は手を取り合って幸福そうに踊っている。緞帳がゆっくりとおりていった。 「二人の侍」とはいったい誰と誰のことだったのか? それはあなたの想像にお任せしようと思う。龍香と於菟でもいいし、龍香と朱雀でもいいし、朱雀と弥生でもいいし、於菟と朱雀でもいい。結末が変わればそれに至る物語だって変わる。あなたにとって

          「侍少女戦記」 ★フィナーレ★

          「侍少女戦記」 第7幕(全7幕)

          はじめから読む→「侍少女戦記」 第1幕|青野晶 (note.com) 前回の話→「侍少女戦記」 第6幕|青野晶 (note.com) ■第7幕 第1場 玄鉄が朱雀を連れてくるまでに、龍香は千度の冬を越した気になった。松林の影に隠れた於菟・秀夜・安凪とグリフィンは体力温存のために休んでいたが、龍香だけは落ち着かずに立ち歩いていた。「龍香」と時々於菟が呼びかけても、まるで声は届かなかった。龍香を見つめる於菟の横顔を、秀夜は他人事とは思えずにいた。 やがて枯草を踏む足音がゆっくり

          「侍少女戦記」 第7幕(全7幕)

          「侍少女戦記」 第6幕(全7幕)

          はじめから読む→「侍少女戦記」 第1幕|青野晶 (note.com) 前回の話→「侍少女戦記」 第5幕|青野晶 (note.com) ■第6幕 第1場 明くる日、玄鉄は於菟を伴ってマシュー邸を訪れた。以前から約束があったのだ。 邸宅に続くゆるやかな坂道はアスファルトで舗装され、鉄製の門へ導く小道にはツツジが植え込まれている。敷地内には巻貝のようにカーブを描く坂があって、それをのぼった先にマシュー邸はあった。 古今折衷の異国様式を基調とした屋敷を見るのが初めてだった於菟

          「侍少女戦記」 第6幕(全7幕)