「侍少女戦記」 ★フィナーレ★

はじめから読む→「侍少女戦記」 第1幕|青野晶 (note.com)
前回の話→「侍少女戦記」 第7幕|青野晶 (note.com)

■フィナーレ

安凪の歌声の響く中、二人の侍は手を取り合って幸福そうに踊っている。緞帳がゆっくりとおりていった。
「二人の侍」とはいったい誰と誰のことだったのか? それはあなたの想像にお任せしようと思う。龍香と於菟でもいいし、龍香と朱雀でもいいし、朱雀と弥生でもいいし、於菟と朱雀でもいい。結末が変わればそれに至る物語だって変わる。あなたにとって一番好きな「侍少女戦記」にしてほしい。どんな舞台を思い描いたのか、ぜひ聞いてみたいな。
これにて舞台「侍少女戦記」は閉幕になりま……おっと?
死んだはずの朱雀が「侍少女戦記」の主題歌を歌いながら舞台の下手から登場した。客席側に半円形にせり出した舞台を渡りながら朗々と歌っている。え? 朱雀さま、あなた死にましたよね? と思ったけどよく見たら衣装が全然違う。侍の恰好してないし、なんなら金髪だし、今からジャズでも踊るんですか? みたいな柄のジャケットを羽織っている。
朱雀は銀橋を渡り終えると、舞台の中央に立った。舞台袖からは村の男たちが集まってくる。しかしやっぱり農民の恰好をしていない。全員がド派手なジャケットを着ていた。
突然音楽が長調に変わった。朱雀を中心に農民たちはジャケットを翻し踊る踊る踊る! 手拍子! 手拍子! 手拍子! そこへ龍香が登場! 朱雀と手をとりあってアップテンポのデュエットダンスが始まった。群舞していた村人の男たちにも恋人たちが飛んでくる。カップルたちは朱雀と龍香を祝福するように笑いながら歌い、手を取り合ってくるくる回る。回る回る回る。容赦なく回る。
そこに於菟が登場。なんと中華系マフィアらしき衣装だ。拳銃を空に向かって撃つので農民たち(?)は舞台袖へ逃げていく。え? 於菟? 何してんの? 舞台に残ったのは於菟、朱雀、龍香だけ。於菟と朱雀は龍香を奪い合ってダンスバトルを始める。 
BGMを歌うため舞台に現れたのは安凪だった。スパンコールとラインストーンでギラギラの赤いドレスに着替えた安凪はポップスを歌うし、なんならラップもお手の物。中華系マフィアの於菟の部下たちも参戦しダンスバトルはさらに白熱! しかし気付けばいつの間にか舞台には於菟も朱雀も龍香もいない。上品すぎる黒燕尾のマフィアたちがキレキレのダンスを見せてくれる。アンディオール(股関節を外側に開く)で空中に円を描いたら脚を伸ばして着地、着地と同時に重心を移動して逆の脚の膝を軽く曲げて上げる。左右の脚で交互に繰り返すこのシンプルな動きがなんともかっこいい。しかしよく見ると……中央で踊っているのはなんと玄鉄!  ちゃっかり隣ではマシューが真剣な面持ちで黒燕尾の襟を両手で握りながら踊っているではないか! やがて曲調は変わる。リベルタンゴだ。玄鉄が一緒に踊るのはもちろん、さっきまでラップを披露していたギラギラの安凪。情熱的なタンゴを一曲披露。本編での初々しさが嘘のように安凪は玄鉄に絡みつき、脚を大胆に上げ、激しいステップを踏む。すると舞台は回転。なんとこの舞台、中央は円形で回るようにできていたのだ。
玄鉄と安凪は舞台後方に消え、舞台前方にはロケットガールが勢ぞろい! どうやらこれからラインダンスが始まるらしい。中央に立つのは……女装した秀夜だ! 女装? いや、秀夜役はもともと女性が演じていたらしい。秀夜は大胆に長い脚をまっすぐに上げて踊る。隣の女の子たちと一列に並んで肩を組んでいた。右! 左! 右! 左! 揃う脚は同じ生き物みたいに見える。秀夜は笑顔を弾けさせていた。ヤッ! の弾けるような若いかけ声を合わせて女の子たちは脚を交互に高く上げる。実は秀夜役の女優以外、劇団に入って間もない新人だ。頑張れ~! 拍手! 拍手! 拍手!
最後は新人ちゃんたちも加わって全員でサンバ。ロックでもジャズでもフラメンコでもタンゴでもいいけど、もうサンバにしよ。「『侍少女戦記』は幕末ファンタジーなのに」? 知らんがな。そんなに日本にこだわるならマツケンサンバだよ。マ・ツ・ケ・ン・サ・ン・バ。
全員羽根を背負え! 羽根を! はい、拍子サボるの禁止! 背中に円形の巨大な羽根を背負った龍香、於菟、朱雀が舞台の中心に立つ。龍香と於菟と朱雀は一緒にいられて嬉しそうだった。大きく口を開けて笑い合い、顔を見合わせて歌ってる。マツケンサンバ~!
拍手喝采! 熱狂のスタンディングオーベーション! そんな中で名残惜しくも緞帳はおりていく。現実の劇場では拍手しか許されないけど、ここでは好きに暴れてもらって構わない。想像の世界ならどんなクレイジーだって許される。オーレ!
次の公演ではどんなものが観られるだろう? 終わるそばからそんなことを考えてる。新作公演を待つのもいいけど、同じ舞台をもう一度観るのもありかもね。また一緒に観ようよ!
 ……と、まあ、そんな感じで。またのご来場をお待ちしております!

Fin


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