マガジンのカバー画像

小説・過去との遭遇

6
新幹線に乗りこんだ。 同窓会に参加するために、地元へ向かう。 地元にはいい思い出がない。 …それに、思い出すだけで、胸が痛くなることがある。
運営しているクリエイター

#記憶

過去との遭遇・4・夏休み

過去との遭遇・4・夏休み

彼女に本を貸した。
数日後には読み終えたと言われた。
続きが気になると言われたけれど、もう夏休みになってしまう。
きっと彼女は、ぼくと話しをしていることも、他の人には知られたくないのだと思う。

だから、提案をしたんだ。
橋を渡った川の向こうの神社で待ち合わせをするのはどうか、って。

3時に待ち合わせをした。

川の向こうに神社があることは、なんとなく知っていたけれど、どんなところなのかわからな

もっとみる
過去との遭遇・5・思い出の本

過去との遭遇・5・思い出の本

やっときた車内販売で、ホットコーヒーを買った。
通路側の席に座る、隣の人の前に何度も腕を伸ばすのは申し訳なくて謝ると、目が合った。

心臓が止まりそうだった。

…彼だ。

彼はわたしに気づいているのだろうか。
わたしを恨んでいるのだろうか。

ホットコーヒーのカップは熱いはずなのに、わたしの指先は熱さを感じないほどに冷えていた。

わたしは、彼を傷つけた。

夏休みに彼と神社で会った。
わたしが

もっとみる
過去との遭遇・6・今までとこれからの

過去との遭遇・6・今までとこれからの

今なら自信を持って彼女にいうだろう。
「なんてバカなんだ」って。

あの夏休みがきっかけで、ぼくは散々からかわれたけれど、彼女の方がずっとずっと嫌な思いをしただろう。
ぼくは噂には慣れていたし、そのままにしておいたってそれほど困ることはなかったんだ。
なのに。

きっと彼女はぼくをかばってくれたのだろう。
彼女は「自分がぼくを誘った」といったという。
この地域が窮屈で、噂がどれほどの脅威か知りすぎ

もっとみる