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ひとりたち

こんばんは、「函館観光者」の佐伯です。

函館旧市街で暮らすような旅を初めて、20日以上が過ぎました。
この街は、一般的な観光地が持つのとは異なる内向きの威光を秘めていました。その光源が放つ波長に共鳴して身を寄せると、心の奥底から温められ、降りしきる雪とともに舞えそうなほどわくわくする。そんな旅を続けてきました。(前回の僕の記事はこちら!)
それが出来ているのは、きっと、いまの自分が「ひとり」だから。
今日は、クリスマス・イブの夜の出来事から、ひとりについて考えます。

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24日の夜。谷地頭温泉で体の芯まで温まった僕は、雪に負けまいと湯気を吐きながら家路を辿っていました。時刻はまだ21時。せっかく特別感のある日だし、この時間に家に帰るのはもったいない。そう思った僕は、バーへ行くことにしました。

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護国神社坂の中腹に、三角の窓からこぼれる明かりと斜めの屋根が印象的なバーを見つけました。「Bar SHARES HISHII」さんです。店内はとても上品で落ち着いた空間。海外アーティストのライブ映像が、プロジェクターで壁に投影されていました。カウンターに通され、風呂上がりの乾いたのどにギネスビールを流し込みます。およそ庶民的な飲み方ですが、優しげに話してくださるマスターの前ではあまり気になりません。

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「どこからいらしたんですか」そんなマスターとの他愛もない会話から、カウンターの隣に座っていた女性の方も交えて、話は盛り上がりました。その女性は、旦那さんが今夜は仕事だったためにひとりで飲みに来たのだとか。
「料理にこだわりが強すぎて、白い皿しか家に置いてくれないの。でも味は本当においしいの」矢継ぎ早に繰り出される、料理上手の旦那さんの愚痴と自慢を楽しく聞いているうちに、夜は次第に深くなっていきました。

話題は変わり、旧市街の他のバーの話へ。その女性の行きつけに「油そばが最高においしい」バーがあるというのです。そのときの僕は、さながら天啓がひらめいたキリスト教徒の気分です。それだ!温泉に浸かり、美味しいビールでのどを潤した今の自分が求めていたのは、ジャンクだ!これまたおよそ庶民的な発想ですが、残念ながら胃袋は素直で頑固です。その女性に、「油そばが最高においしい」バーを紹介してもらうことになりました。

Bar SHARES HISHIIに別れとお礼を告げたのち、護国神社坂を下ります。車通りはないので、雪に覆われた広い車道を優雅に進みます。ものの5分も歩くと、そのバーは見えてきました。闇夜に温かく浮かび上がるその店の名は「hanabi」。武骨な木目が渋い木の扉を引くと、もう1枚扉が。「1107物語」でもありましたが、痺れる演出です。この扉の向こうに油そばがある!胃袋が小躍りし、急かしてきます。もう一度気合を入れ、重い扉を開けました。

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お店の雰囲気をひとことで形容することは僕にはできません。高い天井に吸い込まれ、散りばめられた明かりに包まれて、幻想的な気分になります。無数のボトルに加え、それ以上に無数の置物や装飾が、遊び心豊かに店内を彩っています。すべて、もともと設計の仕事をされていたマスターから生み出されたものです。ここにもまた小宇宙を見つけたことに、深い感動を覚えます。マスターは、実に屈託がなく、話していて気持ちがいい40歳ほどの男性でした。私服で崩した格好や、店内の遊び心も相まって、肩肘張る必要なんて微塵もないような楽しすぎる空間が、そこには広がっていました。

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お待ちかねの、hanabiオリジナル絶品B級油そばは、まさに最高においしかったです。もちろんここはバーですから、主役はお酒です。忘れてません、ホントです。hanabiが扱うクラフトビールは選ぶときも飲むときも新鮮な楽しさがありました。ヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」と常陸野ネストビールの「ゆずLAGER」をいただきました。

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「地元の人が食べていないものを、観光客に薦めるのはどこか申し訳ない。だから、函館市民と観光客の間に境の無い店をつくる」そのために2号店計画を進めているマスターのお話は、僕がいま志している「観光地函館の非観光地的発信」や「函館旧市街と函館市民の交流」といったテーマに深く通ずるものがある気がして、思わず聞き入ってしまいました。時は流れ、クリスマスイブからクリスマスへ。閉店の時間です。「またすぐ来ます」そう告げます。むろん本心です。旅先での出会いにお世辞がいるはずもないですから。

「またすぐ」は本当にすぐでした。26日夜、青柳町からの帰りに寄り道し、今度は一人で二重の扉を開けました。イブの夜とは違い、店内は何組かのお客さんで賑わっています。カウンターに座り、IPAの「青い鬼」を注文します。苦みと香りが、これまた楽しい。会話は物理的にも話題としても、多方面に弾みました。カウンター越しにマスターと(といいつつしばしば客席側に出てきてくれる)函館旧市街について、熱く。スタッフの方と、そして隣席にいたビジネスマンの方を交えて、スタッフの方が大学で専攻していたという書道について、知的に。カウンターの端にいた常連の方たちと、店内で冠番組最終回が流れていた嵐について、他愛なく。そして何より、この街で草の根的に動き続ける同世代人たちと繋がることができました。
2回行ったくらいで言うのはおこがましいのでしょうか。しかし、行きつけにしたいと思える空間が見つかりました。そんなバーが函館の端っこにあるなんてことは、僕自身が見つけなかったら、きっと誰も教えてくれなかったことに違いありません。

こういった経験が、ひとり旅の醍醐味なのだとひしひしと感じます。
ひとり、というのは一見孤独です。朝起きたときも、ご飯を食べているときも、外を歩いているときも、夜寝るときも、隣には誰もいません。
でも、逆に言えば、隣が空いているのです。隣に限らず、全方位空いています。隣で肩を組む空間も、正面で向き合う空間も、後ろで背負う空間も空いている。きっと誰かと旅をすると、これらの余白は旅の間ずっと、その人たちで埋まってしまいます。ひとりだと、それがない。旅先で出会った人と自由気ままに繋がり、その余白を埋めることができるのです。
孤独の世界から繋がりの世界への境界を飛び越えることこそ、ひとり旅の醍醐味なのです。

そして何より、この越境を成し遂げたのが、ただのひとりの人間に過ぎない自分、それゆえに過不足ない自分である、ということに大きな意味があります。

このことを重視する裏には、きっと、自己というものへの潔癖さ、つまり潔癖な自意識が潜んでいるような気がします。心の奥底のどこかが、自分の定義に他人を入れることに不慣れで、いや慣れていないというよりも忌避的であり、自律していて過不足ない自分を希求してしまっているのです。だから、せめて旅のときだけでもひとりであることには、人数が一であるという表層の問題を超えて、めんどくさい自意識にまで繋がる、大切な意義があるのです。

ひとりだからこそ、余白を埋め、繋がりを持てたときに、自分の力で生きているという感覚が湧き上がってくるのです。だからなのでしょうか、アンデルセンの言葉を借りれば、ひとり旅は「精神の若返りの泉」なのです。

この街には、ひとり、が多いと感じます。それは特に仕事のスタイルにおいて、すなわち個人事業主という意味においてです。過去にブログでも紹介させていただいた1107物語さん、いどはどドーナッツさん、Shares Bar Hishiiさん、そしてhanabiさん。他にも、天然酵母パン屋のtomboloさんや、ビーガン料理を提供するtaomさん。これらのお店のオーナーは、それぞれの思惑に沿って、個人事業主という、過剰なしがらみから解放され、自分で自由に働けるスタイルを選んでいます。
オーナーの方々からは、全員とは言わないまでも、やはりひとり旅をしている時の僕と似たような潔癖さを感じることが多いです。tomboloの淳さんは、楽しそうに働く自営業の大人たちに囲まれていた経験から、「自分の手ですべて決められる仕事」を追求してきました。hanabiの金崎さんも「他人のチェックが入ってくるのはあまり好きじゃない」と言います。それは潔癖の表れであり、一見孤独であるようにも思われます。

でも、どうしてでしょう。彼ら彼女らの瞳は生き生きしています。そして、繋がりの中に生きています。この繋がりの、なんと豊かなこと。そのオーナーの方々同士は、横にゆるく、しかし深い部分でのリスペクトを持って繋がっているのです。それだけでなく、お店という、彼ら彼女らの生み出した空間が、人々を繋げるハブになっているのです。

ひとりだからこそ、繋がることができる。そしてもしかしたら、繋げることもできる。

まだ十分に言葉にすることができません。
しかし、この街で働き輝く「ひとりたち」それぞれに、ひとり旅の精神を感じるのは単なる気のせいではないと、僕は思います。


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前回の僕の記事はこちら

ライター情報はこちら

⭐︎お店情報⭐︎
Bar SHARES HISHII
営業日時: 19:30~翌1:00(L.O. 翌0:30)
定休日:日曜日 (日曜・月曜連休の場合月曜休み)
住所:函館市元町27-1
アクセス :市電宝来町駅より徒歩3分
駐車場 :2台
TEL:0138-22-5584

BAR hanabi
営業日時: 17:00~翌1:00 (L.O. 翌0:30)
定休日:水曜日
住所:函館市宝来町34-1
アクセス :市電宝来町駅より徒歩3分
駐車場 :なし
TEL:050-5572-3479

SMALL TOWN HOSTEL Hakodate
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