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バルバドス旅行記 ー滞在・帰国編ー

カリブ海の島、バルバドスに一人旅をした記録です。前編はこちら

到着翌日の朝(2日目)

ホテルのお部屋。キングベッドに一人広々と寝た

朝起きたらすでに日は高くのぼっていて、一人で泊まっている広々とした部屋に日光がさんさんと差しこんでいた。

起きてから、はて、今日は何をしよう、と思った。

こんなにのんびり過ごす旅は初めてだった。4泊5日、ホテルの予約をとって飛行機に乗ってただ来ただけで、予定はゼロ。行きたい観光スポットも、食べたいレストランも、事前調査なし。ひたすらリゾートホテルでビーチを眺めながらのんびりしたい、という思いを忠実に再現した旅行プランには、空白の時間が広がっていた。

寝ぼけながら身支度をして、水着の上にワンピースをかぶって、海を眺められるビュッフェの朝食会場へ向かう。さすがに寝坊しすぎたのか他にあまり人はいなかったけれど、その分静かにコーヒーを啜っていると、だんだん目が覚めてきた。

デッキから見下ろせるビーチでは、すでに多くの滞在客がデッキチェアに寝転んで、日差しを楽しんでいる。朝ごはんを食べ終わった私は、ワクワクしながらビーチに降りて行って、砂を裸足で踏み締めた。

熱くさらさらの砂に足をのめりこませながら、ちょうどいい場所のデッキチェアを探す。

ホテルのプライベートビーチ

選んだデッキチェアにタオルを広げ、寝転ぶと、私が待ち望んでいたのんびりバケーションが始まった。

結局その日は日が暮れるまでずっと、寝転がって本を読み、飽きたら海で泳ぎ、疲れたら水から上がって、を繰り返した。

いくら続けても、飽きることはないだろう、と思うくらい、その時間は最高だった。

次の日と、そのまた次の日と、さらにその次の日もこの時間が続くと思うと、幸福な気持ちがぷくぷくと湧き上がってきて吹きこぼれそうだった。

日が暮れてからはホテル内のレストランで晩御飯を食べ、バーに寄ることもなくいそいそと部屋に戻った。晩御飯を食べながら思いついたアイデアを実行したかったからだ。

それは「カリブ海の島でパイレーツ・オブ・カリビアンを観る」というものだった。

中学生の頃どハマりしていた映画を、その舞台となった場所で見られると思うと心躍った。ディズニープラスの無料お試し期間に申し込み、早速見始める。


途中でバーに行ってパイナップルスムージーをもらい、部屋に持ち帰ってそのまま終わりまで映画を見た。

10年以上経った今でも、オーランドブルームとジョニーデップはかっこよかった。

3日目

前日と全く同じことをして過ごすと決めていたため、同じように朝食を食べ、ビーチに直行し、デッキチェアに寝そべった。

一つ、前日と違ったのは、午後、バナナボートとジェットスキーに挑戦したことだ。

沖合を楽しそうに爆走するジェットスキーを見て、「あれ、いつかやりたかったやつだ!いつやるの、今でしょ」と思ったため、周りの人はカップルとか友達同士でやっていたのでちょっと恥ずかしかったけれど、勇気を出して申し込んだ。

ボートに繋がれた後ろにポツンと浮かんでいるのがバナナボート

海の上を猛スピードで滑っていくのは、快感だった。ジェットコースターとかが好きな人は、おそらく好きだと思う。一緒に乗ってくれた係員の人がものすごいスピードを出してくれて、バルバドスの南の方の海岸や港の方まで見ることができた。

水しぶきが足と顔と髪にかかる中、海に白い波の跡をすーっと残し、ジェットスキーはびゅんびゅん進んでいく。モーターの爆音でどうせ何も聞こえないので、スピードが特に出た時は「きゃー!」と全力で叫んだ。楽しかった。

この日も、晩御飯はホテルのレストラン。食事も値段に含まれているし、外に食べに行くよりも外国人観光客向けに力が入ったコンセプトのレストランの方が気楽に楽しめるかな、と思ってのことだった。異文化を楽しめる感じではないが、今回の旅はリゾートバケーションがコンセプトなので、いいだろう。

そうやって一人でディナーを食べていて、気づいたことがあった。一人で来ている客は、このホテルに私だけのようだった。あまり大きなホテルでもないし、大体の人は一週間くらい滞在するために来ているので、3日目くらいになると否が応でも他の滞在客の顔を覚えはじめる。そうやって解像度が上がった目線でレストランを見回すと、全てのテーブルはカップルか家族で埋まっていた。インスタでホテルのアカウントを見ると、ハネムーンに来る人も多いらしい。

南国のリゾートで一人。カップル文化の強い欧米人から見たら、童顔のアジア人の女性(というより女の子)が一人でご飯を食べている光景は、さぞかし異様に映るだろう、と思ったら、ちょっと惨めな気持ちがせりあげてきたので、うつむいてグリルチキンのディナーに集中する。

だがふと、じゃあ向かいに誰が座っていたら、この一人の状態より私は幸せなんだろう、と思った。出発直前に別れた元彼が一緒でも、こんなに伸び伸びと自由な時間は過ごせなかった気がした。むしろメイクの落ち具合とかお腹が出てないかとか心配してなんか疲れていたかもしれない。友達がいたら楽しいだろう、でもわざわざカリブ海まで友達を引っ張ってきて私の趣味につき合わせて5日間ビーチで寝そべるだけの旅行は、なんかそれはそれで申し訳ない気もする。

結局一人旅は自分の興味だけに従って動けるのがいいところであり、その楽しさと引き換えの小さな寂しさはつきものだよな、と思ったら元気が湧いてきた。こじつけかもしれないが、自分の旅行だし、自分が楽しくさえありゃなんでもいいのである。

夜は前日同様、部屋でパイレーツ・オブ・カリビアンを視聴した。昨日第一作目を見たので、今日は第二作目。オーランドブルームとジョニーデップは相変わらずかっこよかった。

実はホテルにはプールもあり、私の部屋のベランダからはプールが見下ろせるようになっていた。そこで映画の途中、外に出て、南国気分を味わいながらパイナップルスムージーを飲んだりもした。

部屋のベランダからの眺め

もう3日目。明日がのんびり過ごせる最後の日だと思うと、まだ帰りたくない…という気持ちがひしひしと湧いてきた。

同じ部屋で延泊を申し込もうとしたものの、もうこのホテルは予約がいっぱいだと知り、調べた挙句に首都ブリッジタウンのホテルなら空いていることを発見。気づいたら部屋をとり、飛行機の便を変更していた。

4日目

この日も、前日とその前の日と全く同じことをして過ごした。

ちなみにビーチで寝そべっている時は持参した本を読んでいたのだが、私はなぜかこのタイミングで、前から読もうと思っていた「母親になって後悔してる」を読んでいた。

母親になって後悔しているという女性たちへのインタビューをもとに、社会学者が丁寧にその答えを読み解いた本だ。ビーチ向けの読み物ではないけれど、ビーチで読むと気分が中和されてちょうどいい感じになる。社会で生きるのは大変だ、と思いつつ、一旦今は休息時間、と思いながら日光の下で読んだ。2022年に読んだ本の中でもトップクラスに印象深かった。(1年で156冊本を読んだ話はこちら

そうやってデッキチェアでくつろいでいると、さすがオールインンクルーシブリゾート、スタッフの人がわざわざ注文を取りに来てくれて、頼んだ飲み物を運んで来てくれる。私はスムージーにはまり、到着初日からストロベリーやらパイナップルやらバナナ味やら、何杯飲んだか分からないくらいスムージーを飲んだ。

夕方はビーチが閉まってしまうので、デッキのカフェに移動して、ワインを一人で飲んだりもした。これも全部料金に一括で含まれている。オールインクルーシブリゾート、最高。

一人で海を見ながらワイン

さて、ディナーを食べた後、せっかくなので少し夜を楽しもうと、スムージーを頼んでロビーのソファーに座っていたら、金髪のお姉さん二人に声をかけられた。数日前からビーチなどでチラホラ見かけた団体客の人だ。おそらく一人でポツンと座る私があまりに可哀想に見えたのだと思う。

「一人なの?よかったら私たちと一緒に座らない?」と招待してくれたので、そこまで一人で寂しいわけでもなかったのだけど、ありがたく参加させてもらうことにした。10名ほどの大所帯。私が輪に入ると、一人ずつ自己紹介してくれた。おそらく60代くらいのお父さん、お母さんに始まり、20~30代くらいの既に大人の年齢の子供と従兄弟が4~5人、それぞれの旦那さんや奥さん、子供、そして友人も合わせたビッググループだった。

一人ずつの自己紹介が終わった後「で、あなたは?」という感じで見られたので、テンパった私は「こないだ誕生日だったんですけど彼氏に振られちゃって、それで一人でビーチを楽しもうと思って!」と嘘でも本当でもないキャッチコピーで自己紹介をした。誕生日だったのも振られたのも本当だが、それらに全く関係なく旅行は計画していた。でもまあいいだろう。みんな「あららそれは!彼氏なんてもうどうでもいいのよ、20代を楽しみなさい!」と言ってくれて、一時間くらいみんなで談笑した後、DJの人がかけてくれた懐メロで踊って解散した。

英語が話せてよかった。大学生から社会人にかけて鍛えられた会話能力でなんとか楽しく話すことができて、このリゾートホテル最終日にいい思い出ができた。

部屋に帰った後は、パイレーツオブカリビアンの第三作目を視聴。ありきたりなロマンスも、カリブ海の島でみるとなんだか臨場感がある。

今日が最後の夜ではないことが嬉しくて、夜更かしした。

美しい夕日

5日目

朝、ビュッフェを食べながら、本当に楽しかったこの5日間を振り返る。ホテルよ、ありがとう。私の思い描いていた通りのリゾートバケーションを実現してくれた。部屋に戻る途中で、昨日の夜のお父さんお母さんとすれ違い、「もう帰るの」「そうなの!元気でね」とハグを交わした。

水平線の先はどこまでも青い

昼過ぎにホテルをチェックアウトし、タクシーで今日泊まる宿へ。ビジネスホテルなので趣には欠けるが、まだ帰りたくないという自分の気持ちを満たせたことで、帰ることへの抵抗感が薄れた。

部屋に荷物を置き、せっかくなのでブリッジタウンを観光することに。歩いて行ける距離の国立博物館に向かった。

なんと、お客さんは私一人だけだった。

意図せず国立博物館が貸切状態に

歌手のリアーナはバルバドス出身なのだが、入り口のところのガラスケースに彼女のサイン入りの傘が展示してあって、面白かった。彼女の代表曲の一つ「Umbrella」に因んでのことだろう。

時間はいくらでもあるので、扇風機の生ぬるい風に吹かれながら、バルバドスの近海の生態系や植民地化の歴史についてじっくり読んでまわった。

最後の部屋まで辿り着いて、バルバドスの現代史についての展示を読んでいて、とても驚いたことがあった。バルバドスという国は、なんと、2021年にイギリス連邦の一員としての立憲君主制から共和制に移行したばかりだった。引き続きイギリス連邦には留まっているものの、元首がイギリス国王から大統領に移行したとのことだった。

日本に住んでいると、長く続いた政治体制が落ち着いており、なかなか国としての根本の体制が変わることはない。そういうことは、歴史の教科書に出てくる遠くの時代の出来事のように感じる。

でも、まだ若い国、政治体制を確立しようとしている国は世界にたくさんあり、変革はそこここで起こり続けている。植民地化など過去の出来事は現在と地続きで、今の私たちが生きている現在も、少し経てば歴史に変わっていく。2021年は直近すぎて「歴史」感がないが、その年号は確実に将来ずっとバルバドスの歴史に残るのだ。そんなことを考えながら博物館を後にした。

ブリッジタウンの街の観光もしようかと思ったが、ショッピング街などはあまりないようで、早々に諦めた。また余談だが道を女性一人で歩いていると車にクラクションを鳴らされ、少し怖かったので、一人で出歩くことはあんまりお勧めしない。

さて、その日の午後、私には次の日の飛行機に乗るために、コロナの検査を受けるというミッションがあった。

会場は市街から車で15分ほどのところにあるショッピングモールのあたり。

明確にどこか分からなかったのでしばらくうろうろしていたら、なんと、PCR検査の場所はモールの裏手の草ぼうぼうの空き地だった。お祭りの屋台みたいなブースに、暇そうなお姉さんが二人座っている。周囲では野良なのか飼われているのか分からないが、立派なニワトリが赤いとさかを振り回し、コケコケ鳴きながら歩き回っていた。

「こんな野外で…」とちょっとビビりながらPCRを受け、無事検査は終了。あとは結果を待つのみ。

夜はホテルに戻り、ディズニープラスの他の番組を見ながらのんびり過ごした。

最終日

PCR検査が無事陰性で返ってきた。長かった一人旅も、これで終わりである。

帰るのはちょっと悲しいけれど、でも、これでもかというくらい満喫した感があった。旅には、心情として「知らない場所での冒険が楽しい」と「慣れた家が恋しい」のバランスがひっくり返るポイントがあって、初日なんかは前者が圧倒的だが、日が経つに連れて後者の気持ちもちょっとずつ出てくる。そのちょうどいい頃合いで帰る日が来たと思った。

フライトが夕方だったので、朝ご飯は散歩して近所のおしゃれカフェに行くことにした。

可愛いカフェ

なんてインスタ映えする店内。大好物のプルドポークタコスがあったので、ニューヨークでも食べられると分かりつつ、つい注文してしまった。プルドポークは、東京ではなかなか見ないがアメリカだとバーガーやラップの定番の具で、甘辛く味付けしたポークをひきさいて柔らかくし、ほろほろにしたものだ。とても美味しい。おしゃれな店内でぱしゃぱしゃ写真を撮った。

近辺のビーチを散歩し、ホテルに戻ってチェックアウトして、空港へタクシーで向かった。

空港には少し早くついたので、お土産を買うことにした。知り合いには、チョコレート。自分には、どうしよう、と思って歩いていたら、バルバドスの宝石を見つけた。美しい海を思わせる淡い青に、ほのかに白い帯が走っている。ピアスを一セットと、家で飾るための絵葉書を買って、フライトを待った。

お土産


6時間のフライトは、あっという間だった。ニューヨークはもう真っ暗で、夜になっている。JFKでウーバーを呼び、乗り込む。私はマンハッタンに住んでいたので、JFKからはブルックリンブリッジを渡って帰る経路になる。

橋を渡る車中で、マンハッタンの高層ビルときらめく夜景が見えて、ああ、ここが今の私の家なんだ、と気づいて、本当に遠くまで来たな、と思った。私は日本生まれ日本育ちだが、小さい時は親の都合で、18歳になってからは自分の意思で、あちこちをふらふらとしてきた。ニューヨークも短期間の住居だが、旅から帰ってきて、家がここにあることが嬉しい、と思えるということは、きっと正しい場所にいるんだろうな、と思ったりした。

夜の闇に浮かぶ人工的な光を眺めていると、この数日間、南の島で身体に染み込んだ日光がじんわりと温まるような気がした。旅のいいところは、記憶を脳と身体に刻みこんで、その場所を自分の一部分として連れて帰ってこれることだ。バルバドスの日々も、短かったけれど、私の記憶の中に残り続ける。

ややあって、タクシーが家の前に着いた。家に帰るまでが旅行である、ということで、私のバルバドス旅行は無事終了した。ただいま、ニューヨーク。


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