【事例でみる空間設計⑥】 デザイン事務所を併設した飲食店設計[前編]/神泉Hone
私たち& Supplyが運営している「Hone」は9月で1周年を迎えました。
今回は3店舗目の店舗を作った背景やデザインの試行錯誤について、当時を振り返りながら前編と後編に渡ってご紹介をします!
Honeについて
「Hone」は私たち& Supplyが運営しているレストラン&バーです。
京王井の頭線で渋谷から一駅の「神泉駅」を降りて徒歩1分の場所にお店はあります。
1階、2階、ロフト階があり、
1階は日中が「コーヒースタンド」で夜は「スタンディングバー」、2階は「レストラン」と「デザイン事務所」、3階は「アトリエ」という複合的な構成になっています。
昨年の9月1日にオープンし、1周年を迎えました。
先月の9月10日に行われた1周年イベントには、たくさんの方にご来店いただきました。改めてお祝いいただいた皆さん、ありがとうございます!
店舗出店の「2つの動機」
Honeの空間設計は、これまで1号店の「LOBBY」、姉妹店「nephew」の2店舗の設計を担当してきた土堤内と、2021年11月にジョインした山川の2名を筆頭に、社内メンバーを巻き込みながら内装プランを進めました。
ここからは設計チームで当時を振り返りながらHoneの空間作りについてご紹介をします。
[土堤内]
Honeの物件に最初に出会ったのは、2021年の年末でした。
物件探しのきっかけとしては当時、「社員が増えてきたことで、それまでの事務所が手狭になってきたこと」と、「レストランという& Supplyがまだチャレンジしていない新しい業態の出店がしたい」という2つのタイミングが重なったことが理由としてありました。
オープン前に綴ったHoneの出店経緯・ビジネスモデルについてや、完成したデザインについては、代表井澤のnoteで詳しくご紹介しています。
こちらもぜひご覧ください!
Honeができる前までは、池尻大橋のストリートバー「LOBBY」の2階に事務所を構えていました。
「STAFF ONLY」と名付けられたこの2階スペースは、私たちが日々デザインの作業をする場として自ら内装を手掛けています。
黄色いPOPな壁が特徴的で、デスクスペースを数席設けながら、バーカウンターやソファ席などラウンジの要素もあり、敢えて「事務所感のない雰囲気」にしています。
友人を招いて食事をしたり、もちろん毎日のデスクワークや打ち合わせスペースとしても機能する様々なシーンに対応した汎用性のある空間が特徴です。
[山川]
私が入社して当時は、インターンなど事務所で作業するデザイナーも徐々に増えている時期でした。
実際に「STAFF ONLY(旧事務所)」のデスク席は4席のみだったのですが、外出していないときは6名ほど事務所にメンバーが集まるため、週替わりでソファやバーカウンターでデスクワークをするようなラフな業務スタイルでした。
その年はコロナもひと段落し飲食店に活気が戻ってきており、会社メンバーで海外の視察をしながら、新たな店舗の形を模索してた時期とも重なっていました。
「訪れた人のインスピレーションに刺激できるような空間で、自分たちもまだチャレンジしたことのないレストラン業態に挑戦してみたい!」という気持ちと、「メンバー増員による事務所移転の時期」が重なり、3店舗目の出店としてもベストなタイミングという結論になりました。
物件選びの決め手は「建物の持つネガティブな要素」
初めて内見をしたのは2021年の年末。
創業メンバーである井澤、倉嶋、土堤内が物件を探して何度か内見をしていたころ、新店のイメージが沸くこの物件に出会いました。
[土堤内]
物件は井の頭線の神泉駅から徒歩1分、渋谷駅からは徒歩10分とアクセスの良い立地でした。
建物1階には複数の飲食店が入居しており、
1階の一部と、2階の全体+ロフトがテナントスペースになっていました。
入り口は建物裏手の奥まったところにあり、初見ではなかなかわかりづらい場所にあります。
1号店、2号店ともに表通りではなく奥まった場所に入り口がある点が共通していたため、「入り口を見つけて入店するワクワク感」は神泉の物件でも作れるなと思いました。
どの自社店舗でも、一見ネガティブな物件の要素こそ、建物独自のポテンシャルが秘められていると捉えるようにしていて、空間デザインの力でそれを魅力に変えていくことを見所の一つとするようにしています。
そして、改造だらけの木造建築で奇妙なところも、面白くて寧ろ自分達らしいと感じたことがこの物件にした決め手となりました。
「デザイン事務所を併設した飲食店」のゾーニングプラン
年が開けて2022年1月。
物件を正式に契約し、早速内装の具体的な計画がスタートしました。
[山川]
1階の広さは35平米。私たちの前に入っていたテナントでは、カウンターと厨房スペースがありました。備え付けのダムウェーターがあり、2階へと料理をサーブできます。2階は火を使った調理NGという物件契約時の条件もあったため、1階に調理場としての機能を集約することとしました。また、厨房を囲むようにカウンターを作ることで小さなスペースでもスタンディングバーならできそう!と、1階に立ち飲みができるカウンターを作るプランができました。
2階は広さが96平米。前のテナントでは和食居酒屋として、カウンターやテーブル席、ボックス席のような仕切られた個室が複数つくられていました。さらに階段を登ると隠れ家のようなロフト階もあり当時から複雑な構造をしていました。
2階とロフトスペースは十分に広さがあるため、「レストラン」と私たちが日々勤務する「デザイン事務所」が併設するようにゾーニングを作ることに。
同じフロアに事務所を併設するあたって、「レストランと事務所のエリアの分け方」と「既存のロフトの活かし方」について特に検討を重ねました。
最終的に完成したレイアウトが下の図面です。
●レストランと事務所の区切り方
[土堤内]
「レストラン」と「デザイン事務所」という役割の異なる2つのスペースの区切り方について、社内で最初に議題のポイントとなりました。扉を設けてそれぞれのスペースを完全に区切るのか、シェアオフィスのように飲食スペースとオフィススペースを明確に仕切らずにオープンにするのかなど実際に何パターンかレイアウトを作りながら検討をしてきます。
結果的には「格子の引戸で空間を仕切る」案を出して採用されました。
1階から2階への階段を登ると、水色の格子壁が左手に現れます。
この格子壁の一部がガラスの引戸となっており、引戸が事務所スペースの入り口になるように設計しました。飲食店スペースと事務所スペースをしっかり扉で区切りながらも、パーテーションのように階段側から繋がる壁が引戸と連動するデザインとすることで、レストランスペースとの一体感を狙いました。
また扉を開閉すると左右の格子がクロスする隠れたデザインの仕掛けや奥のスペースへと続く気配を感じさせる点、天井まで続く巨大な格子のデザインも他に既視感のないアイディアを取り入れました。
2階へ来店した方の目に止まり、「なんだか気になる」と思わせるような存在感のあるポイントとなっています。
●多目的な用途を持つソファ席
[山川]
引戸の向こう側は事務所スペースになっています。
中に入ってまず、最大8名ほど座ることができるL字の大きなソファ席をつくりました。
ここは壁面に書棚の造作を作り、書籍や素材のサンプル帳を収納しており、社内でミーテイングを行ったりクライアントと打ち合わせをする場所となっています。
濃いオレンジと対比したネイビーの三角形のローテーブルも、2台つなげると長方形になる形が既視感のないオリジナル。
こちらの素敵なローテーブルを製作を担当してくださったのは未来創作所の下田さん、飯塚さんです。
ソファ席の対面には、最大8名が作業できるデスク席を設けました。
ここも床をヘリンボーンにしたり、メンバーが使う裏口に続く通路はアーチの開口をつくることで楽しい雰囲気にしています。
また、ソファ席とデスク席を緩やかに間仕切るアイテムとして、カーテンを後から追加で取り付けました。
天井で屋根を支えている既存の太鼓梁にカーテンレールを取り付けて仕切れるようにすることで、このソファ席は事務所スペースとしてだけでなく、知人や団体のお客様を通すレストランの客席としてもしばしば機能しています。
またソファ席の床はデスク側から2段ステップを作り、レベルを上げています。カーペットにすることでデスク席と雰囲気を変えてくつろげるようにし、レストランの隠れたラウンジスペースとしても機能するようにデザインしました。
●既存のロフトの活用
前のテナント時からあったロフトスペースをどう活かすかについては、かなり難航しました。
元のロフトの奥半分は、天井の高さが1500mmと人が屈まないと通れないくらい屋根が低かったため、そのままでは物置きにしかならないような高さで運用が難しそうでした。
そこで考えたのが、ロフトの床を一部解体し、作り替えるアイディアです。
当初は裏口側にあったロフト階段を1〜2階へと登る階段側へ作り替えて、
階段上の天井を閉じるように既存より低い高さでロフトの前室を作りました。
ロフトの前室は造り付けのテーブル席を1席設けて、電源も完備しているため作業スペースとしても機能しています。
また、レストラン側に開閉できる室内窓を造作することで、レストランスペースを俯瞰して撮影できるのも面白いポイントです。
前室から小さな段差を登り、ロフト奥のスペースはアトリエにしました。
サンプルの検討をしたり、大きな製作物を作る際に使いやすいように中央に
造作で大きなテーブルを設けています。
長くなりましたがここまでが、私たちが普段働いているHoneの事務所スペースの紹介でした!
事務所側のスペースはバーやレストランの客席からは普段は見えませんが、完全に区切るのではなく、入り口の扉やロフト階から気配を感じるようなゾーニングプランとなっています。
自社店舗に併設していることで、飲食事業とデザイン事業が密接に関わり合い、お店を運営するために必要な空間作りのノウハウが蓄積できたり、設計のご依頼をいただくためのショールームの機能も果たしています。
Honeの全体の工事を担当してくださったのは、前回nonkeさんのnoteでもご紹介をした合同会社ヨコケンの横井さん(通称よこちんさん)。
大工さん、左官屋さん、板金屋さん、塗装屋さん、設備工事の皆様。
工事期間は毎日のように現場で顔を合わせて一緒に悩みながら完成させてくれました。
ありがとうございます!
造作家具の制作は、こちらも自店舗を中心にいつもサポートしてくださる八木木工の八木さん、未来創作所の下田さん、飯塚さんが予算が限られた中でもベストな方法を提案いただきながらかっこよく仕上げていただいています!
私たちの形にしたいものを実際に叶えてくれた施工チームの皆さんに改めて感謝でいっぱいです!
Honeにお越しいただいた際は、空間づくりに興味のある方はスタッフに気軽に声をかけてみてください!
私たち社員が事務所にいる時間でしたら、実際にご案内ができるかもしれません。
次回の後編では、Honeの内装テーマの中で大事にしている要素やマテリアル、ディテールの構成について、飲食店スペースの各エリアのデザインに触れながら解説して行きます。こちらもどうぞお楽しみに!
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