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こと葉の蔵

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あの時、あの場所で。記憶の断片を時々取りだしては日差しの中で干し、しまう場所「こと葉の蔵」をつくりました。むかしに書いた「ことの葉」も堂々と主役。
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#本好きな人と繋がりたい

55.  執着の裏側

55. 執着の裏側

 2018年の正月をよく覚えています。東京に就職していた娘のNの帰省したのに合わせて、実家の母を誘い、久しぶりに家族でのんびり温泉三昧としました。

 有馬は六甲山系の谷筋にある温泉場。谷崎潤一郎や志賀直哉など文人も愛されたという謂われがあるだけに、どっしりとした赤褐色の湯には鉄分や硫黄分も豊か。太古の地層に蓄積した海水がエネルギーを含み、高濃度の源泉となってシューと噴き出した良泉なのです。
 母

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54.  琥珀色のバーボンに酔う

54. 琥珀色のバーボンに酔う

 惚れっぽい? と訊かれれば、そうでもないと応えるだろう。この人のこの部分に惹かれるというのはあるが、その人の人間をまるごと受け止め、不覚にも恋に落ちてしまうという場合には、好む好まざるや、動物的本能の臭覚みたいものが重要であって、なぜこんなことになってしまったのだろうと、考えあぐねても永遠に核心のところに行きつかない、そういうものだと思う。

 先日仕事を一本提出し、カフェに入った。ホッとした安

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