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解離依存症 [前編]

起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指している橋本なずなです。

モノトーンのツイード生地のミニスカート、黒のロングブーツに、パールで飾られたイヤリングとカチューシャを付けて向かった先は、彼・ダイちゃんの親友だという “松ちゃん” が出場する重量挙げの大会。

これまではハレンチばかりで、ロマンスを疎かにしてきた私は、パートナーの親友を紹介してもらうというシチュエーションが無いに等しかった。

良い風に見られたい、素敵な子だと思われたい。
そんな煩悩に奮い立たされて、数日間の食事制限にはじまり、前夜の念入りなスキンケアとホワイトニング、当日のお洒落まで頑張った。

勘違いしないで欲しいのだけれど、あくまで、それは私の為。
完璧主義で自分自身への理想が高い私は、度々そんな奔走をしがちである。とどのつまり、今回も通常運転だった。


会場に訪れると、恰幅が良いとか、大きいなんて言うよりも “デカい” と表現する方が適切に思える、鍛え上げた身体の選手たちが集まっていた。

普段よりも一層女の子らしく着飾った私は完全に浮いていたけれど、隣にはダイちゃんが居てくれたから何の不安も無かった。

会場はむさくるしい熱気に包まれて、野太い歓声が天井にまで響く。
鉄のバーがしなるほどに付けられた錘が、だだっ広い床を揺らしていた。

私は異種な世界を、目一杯に楽しんだ。


大会が終わると私はダイちゃんに連れられて、松ちゃんと、その彼女さんに挨拶をした。

「 この後どうする? 表彰式、出るやろ? 」
ダイちゃんが尋ねると、松ちゃんは吐き捨てるように答えた。

『 1位になられへんかったしええわ。みんなでメシ行こうぜ 』

入賞はしていたのに『 1位でないなら 』と会場を後にした松ちゃんに、私は胸が熱くなった。
ダイちゃんが松ちゃんを好いている理由がよく分かる。
彼はまさに “漢” 、1位以外は皆同じと言わんばかりの勝ちへのこだわり。

「 松ちゃんカッコいいね、マジで。私も見習わないとなーっ! 」
食事に向かう車内で、私とダイちゃんは彼の話で盛り上がっていた。


会場に来ていた他の面々も含めた複数人で食事を交えた後、松ちゃんの家に招いてもらいウイレレ大会が開催された。

——— 家を出たのは19時頃だった。

今日は朝9時から外出している。
今思えば、それだけでかなりの負担だったはずだ。

私の一日の平均活動時間は7時間程が限界だ。
朝から3時間、昼と夜に2時間ずつ、それぞれの合間には1時間~2時間の休憩が挟まれるような一日を過ごしている私にとって、朝から絶え間も無く外的刺激に触れ続けることは相当のストレスが掛かる。

今日のように良い刺激であろうとも、だ。

私は典型的なHSS型HSPである。
noteをはじめてすぐの頃にHSPについて書いた記事があるから、ぜひ読んでみて欲しい。


大阪の自宅に、ダイちゃんとともに帰宅した頃には21時を過ぎていた。

久しぶりに二人きりになれたと、安心と喜びで身体を求めるダイちゃんの手を振り払って、私はそそくさとお風呂に入った。
私がセックスを断るなんて珍しい。
どれくらい珍しいかと言えば、空を舞うハトの糞が肩に落ちて来るくらいの確率だ。

けれど、それくらい疲れていたのだ。

その後も黙々と寝自宅を済ませると、私はベッドに横になり最近読んでいる文庫本の続きのページを開いた。
ダイちゃんがやって来るまでの束の間の読書は、一日の力みをこさえた私の心を優しくほぐしていった。

寝自宅を終えたダイちゃんが、私の隣に身体を並べた。
温もりのある小ぶりなランプの電気を消して、今日は楽しかったね、なんて他愛のない会話を交えていた。

異変は、間もなくやって来た。

後編につづく

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