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アメリカの大学で教えてみないか(6):授業について

授業って一体なにをどうやってやるの?面白い逸話や日米の違いを表す出来事はあった?今日はこの辺について書いてみます。

ちょうど次男とそのGF、昔わが家にいた次男のわんこに会いにデンバーに来てます。見出し画像みたいな単純な光景の繰り返し。2日で20時間のドライブはさすがに疲れたので、投稿が遅れました。

僕の場合、授業は前に書いた通り、1学期に1つ、年間2つです。ここ何年かは秋学期に新入生向けの「社会学概論」、春学期に大学院初年度の必修講義、「重回帰分析」というレパートリーです。前者は定員380人でだいたいいっぱいになります。後者は大学院の新入生の数によりますが、6人から14人。これが不思議なことに、規模の小さな大学院のクラスの方がよっぽど時間を取られます。どういうことでしょうか?

統計に関連する2つ目のクラスでは宿題を6回程度出しますが、その採点が大変。院生によれば解くのに20時間とかかかるそうな(ほんとか?)。当然のこと、採点にも時間かかるし、答案は真っ赤になります。さらに中間試験と期末試験、論文とてんこ盛り。院生からは「鬼教官」って呼ばれてるらしい(未確認)。

このクラスで成績が取れずに脱落していく院生が年に一人くらいいます。やはりアメリカで教えてる日本人の知り合いから、「毎年ゲートキーパーはきつくないか」って質問されたのですが、そうでもないです。博士号を見限るのなら早い方がいいですが、その判断は難しいので、ベテランの責任、とばかりに毎年教えてる次第。

正直、数学的な難しさは大したことないです。日本で普通に高校数学について行けた人ならなんの問題もない。アメリカで高校までの数学ってのは信じられないくらいにレベルが低くて、大学でやっと微分積分をやるくらい(必要があれば、ですが)。

僕のクラスでは微分積分はやらずに、基本的な行列の計算をやるくらいです。社会学を専攻にした人には「数字(理系)が苦手」な人がままおり、統計なんてもっての他って思ってるので、統計をガンガン使うアメリカ社会学の実態に触れて「あちゃー」って思ってるはず。

このクラスは学生数が少ないこともあって、それほどエピソードはないです。僕が教え始めてすぐ、カットオフジーンズの短いのを履いてたら、女子学生が「先生、それやめてくれますか?授業に集中できません!」って言ったとか。

このエピソードは強烈だったらしく、ついこの間、このクラスを取ってのちに博士号を取り、隣の大学の学部長になった女性と久しぶりに話したら30年近く経ってるのに、いきなりこの話題になってびっくりしました。それ以来、カットオフジーンズやショートパンツで授業するのはやめました。もっとも、今だったら誰も「集中できません」なんて言ってくれないけどねw。

(後から聞いた話ですが)7年前の試験では、問題を見た瞬間に途方にくれて泣き出した女子学生がいたそうな。一緒に試験受けてた男子学生が「泣いててもしょうがないから、やれるだけやろう」って収まったとか。でも、この女子学生、ちゃんとA取って博士号も取り、僕の学部にも時々非常勤で来てもらってます。励ました男子学生も今は大きな大学で教えてます。

秋学期の「社会学概論」は学生数380だけあってエピソードがたくさんです。

まず、初日の出だしは、大声で「フリーズ!」って叫びます。びっくりしたとこで、バトンルージュの郊外で1992年にあった服部剛丈くん殺人事件の話をします。ハローウィンのパーティ会場を間違ってしまい、出て来た家主が「フリーズ!」って叫んだのに、「大丈夫、パーティに来たんです」って説明して近寄って行ったらいきなり撃たれた事件。当時は日本中で大騒ぎになりました。

僕は、撃った人が無罪に終わった刑事裁判、逆にルイジアナ州史上最大額の支払いが認めらた民事裁判両方でご両親のボランティア通訳をし、ご両親が180万人の署名を集めた「銃規制の嘆願書」をホワイトハウスのクリントン大統領に届けた時も一緒でした。こういう話をすると学生は一気に乗って来ます。

10年くらい前には学生の一人が手を上げて「私、剛丈くんの同級生でした!彼、高校ですごく人気あったんですよ」ってエピソードを披露してくれた女子学生がいました。本人も30過ぎてて、社会人入学して来たんですね。こういうのは嬉しい。

授業は結構厳しいです。

シラバスには「途中退室は認めない」って書いておきます。それでも抜け出そうとする奴が必ずいるので、「何やってるの?」「いや、約束があって」「シラバス読んだ?」「いえ」「途中退室認めないのよね。座りなさい!」っていうと300人以上がびっくり。

授業中におしゃべりをしてる学生がいたら話を中断してその学生をずっと眺めます。他の学生は気がつくのに、大体の場合、本人(2人ですね)は気がつかないでおしゃべりを続けます。「楽しそうだねえ。何か面白い話題があったら僕たちにも提供してくれる?」っていうとさすがに赤面して黙ります。

こういうのを1回やってスケープゴートを作ると、「あ、この先生、マジだわ」ってなる。一度「ガツン」ってやっておけばあとはうまく行きます。それが嫌な学生は来なくなるし。

昔は「ここは高校じゃないので、出席は取りません。なので、真面目に授業を聴けない人は来ないでいいです」っておおっぴらに言ってたけど、最近は大学がドロップアウトする学生を減らすべく、出席率を上げようとしてるので、これはご法度。今現在、僕の大学での中退率は33%くらいです。全米では平均だと思う。

日本と違ってクラスの7割くらいはノートパソコンを持ち込んでるので、ウェブをサーフィンしてる学生がたくさんいるのもわかってますけど、とりあえず迷惑にはならないので、ほっておきます。これはコントロールできないし。同僚の中にはノートパソコンを禁止してる人もいますが、これだと、「一部の不届きな学生のために全体が損をする」ので、僕はしません。

以前は他人が書いた教科書を使ってたんですが、これが絶版になった。しょうがないのでベストセラーの教科書を使ったら、その内容と僕の見解の不一致が多くて学生が混乱したので、面倒だから自分で書いちゃった。厳密に言うと、すでに書かれた「元本」に手を加えて自分専用の教科書にするって言うプログラム。印税も入って1粒で2回美味しいw。

基本、僕のクラスでしか使わないので、章の最初には"Dr. Kamo's Chapter Opening Remarks"って名付けてローカルな話題を。第1章はLSUのフットボールが全国制覇した日の夜の話(ネットワーク、ジェンダー、犯罪学、社会化、経済学などと関連してます)、他にも「バトンルージュで一番美味しい日本料理レストランの話(文化の章)、服部剛丈くん事件(人種、民族の章)とかについて書いてます。

高校を卒業したての学生が7割ですが、ほとんどが講義ノートを取ったことがない。それでも高校まではなんとかなっちゃうんですが、大学ではそうは行かない。1回目のテストで成績が悪い子が多発するので、2、3年前から1回目のテストの後で、成績の良かった上級生に演壇に来てもらい、10分くらいノートを見せながらその「コツ」を伝授してもらう、ってのを始めました。

笑っちゃうのは、ほぼ毎年のように1回目のテストが終わると僕の研究室に来て「先生、採点間違ってます」っていう学生がいること。田舎の高校で成績1番を取って来てるので、「僕は今までCなんて取ったことがない->だから先生の採点が間違ってるに違うない」と言う短絡的な思考。

こちらはもう慣れたもので、「やれやれ、カモがまた来たよ」って思いながら「OK、じゃ、一緒に答え合わせしてみよう。第1問、正解はB、君の答えばD。間違ってるねえ。第2問、正解はA、君の答えはB。やっぱり間違ってるねえ。第3問。正解はC、君の答えはDだけど、あらら、採点ミスで正解になってるよ。儲かったねえ。でも、間違いはまずいから、全部採点し直そうか?」「いえいえ、結構です」「Welcome to LSU! Study hard, OK?」でおしまい。

日本と違ってアメリカの教育はとにかく褒める。「勉強ができる」「計算が早い」「字が綺麗」「アートの才能がある」「スポーツがうまい」...。子どもに自信がつくのはいいんですが、時として「先生、採点間違ってます」っていう勘違い学生も生まれます。ただ、こういう学生は素直なので、次の試験からはちゃんと修正して、まともな成績を取ることが多いようです。もともと地頭はいいんだから、ちょっと勉強すればなんとかなる訳ですね。

このクラスは他にも笑えるエピソードが結構あるので、次回に続く、にします。

またも長文をお読みいただき、ありがとうございました。

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