第95回:上手くいかないこともある世の中だけど
こんにちは、あみのです。
今回の本は、汐見夏衛さんのライト文芸作品『海に願いを風に祈りをそして君に誓いを』(スターツ出版文庫)です。noteにて汐見さんの作品の感想を書くのは4冊目です。
本当は先日感想を投稿した『だから私は、明日のきみを描く』と同シリーズの作品を読もうとしていたのですが、本屋で今作のカバーを目にして未読の作品であったことに気付き、手にしてみました。
海が印象的な街を舞台に描かれる、1組のカップルの「生きづらさ」と「別れ」の物語。
読んでいくうちにきっとこのカップルが好きになり、物語の切なすぎる結末には悔しい気持ちになる物語です。
あらすじ(カバーより)
大切な君の幸せを願ってる。たとえ、どんなに悲しい運命でも――。
優等生でしっかり者だけど天の邪鬼な凪沙と、おバカだけど素直で凪沙のことが大好きな優海は、幼馴染で恋人同士。お互いを理解し合い、強い絆で結ばれているふたりだけれど、ある日を境に、凪沙は優海への態度を一変させる。甘えを許さず、厳しく優海を鍛える日々。そこには悲しすぎる秘密が隠されていた――。互いを想う心に、あたたかい愛に、そして予想もしなかった結末に、あふれる涙が止まらない!!
感想
今作の後日談にあたる作品(明日の世界が君に優しくありますように)を先に読んでいたので、凪沙と優海を襲う悲劇のことは知っていたのですが、今作を読むことによってその後の物語で描かれていた優海の気持ちをより深く知ることができました。
幼馴染で恋人である優海のことは大切な存在だと思っているけど、何か隠し事をしてそうな凪沙と、彼女を溺愛する優海。
表向きでは楽しそうなラブラブカップルに見える2人ですが、それぞれの心には家族に対する深い傷を負っている一面もありました。
家族に突き放されたこと、家族を予想外の事故で失ってしまったこと。
物語が進むにつれて判明していく凪沙と優海の心の傷の正体には、読んでいてとても辛い気持ちになりました。そして、世の中ってなんでこんなにも理不尽なんだろうかと怒りの感情もこみあげてきました。
家族に対するトラウマによる生きづらさに悩んでいた凪沙と優海でしたが、お互いの境遇を知ったことで生きる楽しみと、最高の居場所を手に入れることができました。
また2人にしかわからない苦しみがあったからこそ、凪沙と優海は異性としても惹かれたところがあったのではないのでしょうか。
思うようにいかない時もある世の中だけど、2人ならどんな困難でも乗り越えることができそうな気がしたこの物語。
しかし優海を襲ったのは、凪沙の優しい性格が生んだ悲劇でした…。
大好きな家族だけでなく、同じくらい大切にしていた凪沙までも失ってしまうなんて、結末を知っていても優海を襲った最悪な現実には私も悲しい気持ちしかありません。
大切な人を次々と失った優海がこれからを生きていくのを不安がる気持ちも凄くわかります。今後の人生を不安がる彼に対し、凪沙のおばあちゃんはこのような言葉をかけます。
「生きとるとねえ、何度も何度も悲しいことや苦しいことがある。大切なものをいくつも奪われる。自分はもう生きとっても仕方ないって、生きる意味なんかないって思うことがたくさんある‥‥‥。それでも信じとらんと‥‥‥生きていかんといけんのよ」(p298-299)
この言葉が優海に勇気を与え、凪沙と家族への思いを背負ってこれからも生きていくことを決意した彼の姿がぐっと心に刺さりました。
後日談作品の方にて優海は印象的な脇役として登場していましたが、主人公を勇気づけていたあの優しさがどのような背景で生まれたのかを知れたのはいい収穫でした。(優海の気持ちも知った上で、後日談の方も改めて読みたくなりました)
また凪沙も神様が与えてくれたチャンスによって、これまで伝えられなかった優海への想いを全部告げてからお別れすることができて本当に良かったなと思いました。
嫌なこと、上手くいかないことがあっても、希望を信じて前を向いて日々を過ごしていきたい。読後はそのような気持ちで心の中が満たされる物語でした。
🐬🐬🐬
ちなみに今作の後日談となる作品はこちらです
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