私たちが星になるには100年早い!(櫻いいよ:『星空は100年後』)
記事を読んで頂きありがとうございます。
今回紹介する本は、櫻いいよさんの『星空は100年後』というライト文芸作品です。
今作はスターツ出版文庫版も出ていますが、私は数ヶ月前に発売された単行本版で読みました。スターツ出版文庫って他レーベルのように単行本から文庫という作品ももちろんありますが、最近は今作のように文庫から単行本という逆パターンの作品も増えていて、思わぬ傑作に出会えることもあって面白いです。
今作を読んだ感想
主人公の美輝には、雅人という幼なじみがいます。雅人には最近町田さんという可愛い彼女ができ、美輝はもやもやした気持ちでいました。
町田さんを嫌う美輝でしたが、町田さんが事故で意識を失ったことを機に物語が大きく動き出します。なぜか美輝にだけ町田さんの姿が見えるようになり、苦手だった彼女の意外な秘密を知ることになります。
まず私は、今作の中で町田さんというキャラクターの存在がとても印象に残りました。今作は本来の主人公である美輝だけでなく、町田さんの成長を描いた物語でもあったように感じられたからです。
町田さんは男好きなど良くない噂があったり、美輝には直接嫌味を言ってきたりと、表向きでは私も好きになれないキャラクターでした。
幽霊?となってからも町田さんは美輝とバチバチしていましたが、一方で物語を追っていくうちに町田さんの美輝に対する嫉妬と憧れが見えてきて、彼女も美輝と同じく「悩みを抱えたひとりの高校生」であることに読み手も気付かされます。確かに付き合っている人に別の女子の話題を頻繁にされたら、私も町田さんと同じ気持ちになるなと思って読んでいました。
病気で長く生きられないかもしれない、雅人から本当に愛されているのかわからない。数々の不安を抱えながら毎日を過ごし、消極的な考えも多かった町田さんでしたが、美輝の「少しでも彼女の力になりたい」という前向きな思いが町田さんにこれからへの希望を与えてくれました。
人は死んだら星になると言うけれど、高校生の彼女たちが星になるにはまだ早い。『星空は100年後』というタイトルからは、シンプルだけど深い「生きることの尊さ」というメッセージが込められていたことを存分に感じ取れました。
★★★
もちろん町田さんとの交流で美輝もかなり成長しました。はじめは好きな人を奪われたというのもあり町田さんをかなり嫌っていましたが、町田さんの寂しさを感じるようになってからは、彼女を幸せにしたい気持ちも徐々に高まっていきました。
そして物語のラストでは、大好きな雅人が好きになった人だから町田さんにはずっと彼と幸せでいてほしいと願うようになり、美輝の最大の成長がここで感じられました。ほろ苦い恋の結末ではあったけど、雅人も町田さんもお互いに居心地の良さを感じている関係なのは確かなので、これで良かったのかなと思いました。
今作は美輝の失恋の物語でもあったわけですが、一方で後半では賢という美輝と親しい男子との絆がグッと深まっていくシーンもあり、彼との新たな恋が始まりそうなエンディングがとても清々しかったです。
恋する痛みと成長を上手く切り取った青春小説。登場人物たちへの感情移入がしやすく、何よりも櫻いいよさん作品特有のどんよりした気持ちがすっきりと晴れる読後感が最高の1冊でした。
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