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第126回:大切な人・時間を思い出す物語(F:真夜中乙女戦争)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、Fさんの『真夜中乙女戦争』(角川文庫)という作品です。もうすぐ映画版が公開されるので、本屋だけでなく様々な場所で今作のタイトルを見かけますね。

ロマンティックだけど「戦争」という言葉から残酷さも連想するタイトル。あらすじに書かれた主人公が抱える不満への共感。カバーで既に心を掴まれた作品でした。

身近にいる大切な友達や恋人、家族のことを想像して読んでほしいエモさに溢れた1冊です!

あらすじ

友達も恋人もいない。単位も金も、なりたいものもない。SNSもくだらない。なにもかも眩しく、虚しく、どうでもいい。大学一年生の「私」は眠れない夜と無気力な日々の中サークルに入り、冷酷で美しい「先輩」と出会う。彼女以外と馴染めぬ中、夜の喫煙所で見知らぬ男が「火、ある?」と声をかけてきた。これが東京破壊計画、即ち最悪の始まりだった。激化する真夜中の暴走。青春小説、恋愛小説、犯罪小説の傑作。

カバーより

感想

これまでに読んだことのないいい意味で「狂っていた」恋愛小説で、とても刺激的な物語でした。

この世のすべてが「くだらない」と思っており、退屈な日々を費やしていく主人公の「私」。大学内のこと、世間の話題、SNS…少し過激な言葉で描かれる「私」の思考には私も共感した箇所がありました。

何も変化のないと思っていた日々を送っていた「私」は、彼の運命を変える2人の個性的な人物に出会います。

ひとりは「かくれんぼ同好会」という謎のサークルで知り合った「先輩」という女性。「私」は他の異性にはない魅力を持った彼女に片想いをします。「先輩」と過ごしたひとつひとつの時間は、「私」にとって大切な宝物へと変わっていきました。

もうひとりは「黒服」という危うい雰囲気がする男性。彼も「私」と同じく世の中を退屈だと思っているところがあり、「私」とは友達のような共犯者のような不思議な関係を築きます。
しかし物語の佳境にて「黒服」は全国各地でテロを行い始め、「私」の心を大きく揺るがす出来事になっていきます。

「黒服」と仲間たちによってあらゆる場所が次々と破壊されていく光景を目にした「私」。彼の心の中に生まれたのは「喜び」ではなく、「怒り」という感情でした。なぜならばテロが行われる前に「先輩」と訪れた東京タワーという思い出の場所が「黒服」たちに狙われたから。

「くだらない」と思っていた世界が滅びること。それは大切な人との思い出も一緒に失われていくこと。
私も毎日見る風景とか友達や家族と行った楽しい思い出が詰まった場所が誰かの手によって壊されたら悲しむし、怒りの感情も生まれます。

これまで世の中を嫌っていた「私」ですが、「黒服」の暴走と「先輩」への片想いを通して、たくさんの人の「思い出」で満ちている世界が好きな自分がいたことに気付いていきます。

今作はひとつの「犯罪」によって、大切な人のことやその人と過ごした時間を思い出させてくれる宝石のようなきらめきがあった物語でした。

「たぶんこの世には、同じものを好きでも、ずっと互いにそのことを知らないまま別れてしまう人たちがいるんだよ」
(中略)
「だから会話で確かめるしかないんでしょうね」
「でも相手のすべてはいつまで経っても確かめられないし、分からないんだよ、きっと」

また、今出会っている大切な人ともこれから出会う大切な人と会話する場面を増やして、ひとつでも多くの相手のことを知りたい。そんなことも思った物語でもありました。


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