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「選択」をしないと学べないこともあると思う

今の世の中って、想像以上に「選択」を強いられる場面ばかりだと思います。そして自分にとっての「正しい」が判断できず、世間一般や身近な他人の意見に流されてしまう場面も多いように感じます。

更にはここ数年の間でも、「価値観」というものは目まぐるしく変化し、昨日までの当たり前が今日からは当たり前ではなくなっている…なんてことも増えています。

日々変化していく価値観・考えに流されないために、「自分で選択する」ということがどれほど大切かを教えてくれる物語に出会えたので紹介します。

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今回私が紹介する本は、こがらし輪音わおんさんの『さよなら、無慈悲な僕の女王。』という作品です。

まずはカバーからの引用ですが、今作のあらすじです。

病室に君臨する女王様は、「僕」の大切なひとだった。
「もしかして‥‥‥体の中から、植物が生えているんですか?」高校生の有坂羽斗はとは、花の配達に訪れた病棟で「女王」——園生蒔苗まきなと出逢った。
彼女を蝕むのは、世界にほとんど症例のない奇病。そして確実に生命の灯を弱らせる難病だった。「僕」と「女王」は限られた特別な時間を過ごす。無数の会話を心に刻んで‥‥‥。
号泣必至、奇跡のラブストーリー!

カバーより

あらすじだけだとよくある「難病もの」で、展開がなんとなくでも想像つくから読むのを避けてしまう人もいるかもしれません。だけど、あらすじだけで避けてしまうのは非常にもったいない作品だと思います。

自分で何かを「選択」する場面の多い今の世の中に、この「成長」と「学び」の物語は必要ではないでしょうか。そして、これからも読み継がれほしいと個人的には願っている1冊です。

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社会全体から身近な人付き合いまで、今の時代に合った新しい価値観が次々と生まれていることを日常生活から実感します。私はこれまで新しい価値観を「受け入れる」ことにばかり注目していました。

しかし今作を読んでいくと、新しい価値観を受け入れることが必ずしも正解だとは限らないと感じてきます。

主人公の羽斗は、母の勝手な思想に日々振り回され、自分の将来にも希望が持てないままでいました。

夫(羽斗の父)の死をきっかけに、似非科学にハマり出す。更には息子に自分の価値観を押し付け、羽斗の自由を束縛するなどやりたい放題の羽斗の母には怒りしかわいてこなかったです。

絶望しかなかった羽斗の毎日ですが、アルバイトで病院に訪れた際に蒔苗という女性と知り合ったことが彼の運命を大きく変えていきます。

生きていくということは、常にこれまでと違う価値観と戦っていくことなんだよ

p225

「これまでとは違う価値観と戦う」ために蒔苗は、自分で「正しい選択」をし続けていくことが大切だと羽斗や読者に伝えます。

蒔苗に教えてもらった「二十の質問」というゲームも、羽斗の過ちも、蒔苗と植物園でした会話も、短いながらも羽斗が蒔苗と過ごした時間はすべて「正しい選択」ができる彼になるための「学び」となりました。

今作でも特にインパクトがあったのが、物語の中盤で母に復讐するために羽斗がした「ある選択」ではないかと思います。羽斗が母にとった行動は、人間として絶対許されない行為でした。

一度「間違った選択」をしてしまった羽斗ですが、この出来事が物語全体のターニングポイントになっていたのは確かだと思います。蒔苗が言う「正しい選択」について羽斗が考え直せただけでなく、母としても息子の苦しみを初めて知り、今の生活を改善していくきっかけにもなっていきました。

(こがらしさんの作品って、登場人物をどれほど悪者に描いても、次第にいい方向に変わっていく話が多くて好きです)

作中で「負けても得るものはある」という蒔苗の言葉があったように、私たちは何度か間違いを繰り返してこそ、正しさというものがわかってくることを後半部分の羽斗の成長から実感しました。私も今作を読んで、単に世の中が決めたルールに従うのではなく、何が本当に正しいのかを見極められる自分になりたいと思いました。

ひとつの価値観に「世間としての答え」を出すのではなく、一人ひとりとしての自由な答えが出せる世の中になっていくのが理想なのかもしれませんね。

蒔苗との切ない別れを経て、それぞれの目的のために前に進もうとする登場人物たちの姿が心に刺さる良きエンディングでした。また、ラスト一文の蒔苗が羽斗に託したメッセージにも胸が熱くなりました。ストレートでありながらもとても蒔苗らしい表現だと思いました。

それにしても蒔苗は、読了後もまだまだ謎の多い人物だと思います。1回読むだけでは気付きにくい彼女からのメッセージも今作には隠れてそうなので、今後も2回目3回目…と読み返していきたい作品です。

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